パーフェクト・ストレンジャー その1
「姉ちゃん!ちょっと待ってよ!」
「大丈夫だって!20分はありゃあ着く!」
リルに腕を引っ張られ、リアスは家の外に連れ出される。
「電車でも1時間はかかるよ!」
「そんなもんで行ってられっかよ!」
街灯が少なく暗い夜道を進み、2人は空き地に着く。土と雑草だけが無意に置かれた質素な空間。
「丁度来たな」
風を薙ぐ轟音と共に2人はスポットライトのような明かりに照らされる。空から飛来したそれは徐々に降下し雑草と髪を靡かせた。
2人は手でライトを隠し、半目でその巨大な物体を眺める。
「ツテは山ほどあるからな」
それはゆっくりと地面に着地し、姿を現す。
「ヘリコプター…!?」
「いざニューヨークへ出陣だ、リアス」
目的地はニューヨーク州ニューヨークにあるアーリー・エクトス証券会社本社ビル
ビルの屋上のヘリポートに着陸する。
ニューヨークが一望できる程の高さで、夜景や星空もなかなかのものだ。髪を撫で体を揺さぶる風は寒さを改めて実感する。
リアスは敵が来なかったことに胸をなで下ろすと同時に、姉の権力者っぷりを深々と味わう。
突然連絡も無しに8年ぶりに帰ってきたと思ったらこのザマである。感謝すべきなのかも分からない。
「ここが本社ビル?」
「いや、ここは私のビル。こっから歩いて3分ぐらいで着くからな」
2人は一階にエレベーターで降り、外に出た。
体には感覚が無くなりそうなほどの寒風が吹き荒れ、リアスを包み込む。外はやはりニューヨークというように騒がしく、所々で目新しい物があり、どれもこれも人々の目を引いている。
「…姉ちゃんそれ寒くないの?」
体を震わせ、リルを見つめる。
肩だし腹出し七分袖という今にも凍りつきそうな服、そしてホットパンツに黒いロングブーツ。この時期にその服装はまさに死に急いでいるのかと呆れる。
「最近は便利な世の中だからな、こんぐらいヘーキヘーキ。さ、早めに行くぞ」
歩き出そうとすると、一人の男が2人を阻むように現れた。
「あのーその…ほんとすいません…」
あからさまに消極的そうな男。一見牧師のような格好だが、十字架はない。
「何か用か?」
「あっ…そうじゃないというか…そうというか……その…これを」
リルに威圧されたわけでもないのに最初から縮こまった様子のその男は、ペンダントと金色に光るエムブレムを2人の目の前に差し出した。ペンダントの中には数人の人物が写った写真が入っている。
「!……テメー、それをどうやって…!」
リルは柳眉を逆立てる寸前で、顔に濃い影を作る。
元々気性の荒い性格だが、リアスはこんな怒るリルを見たのは初めてだ。
そのペンダントとエムブレムはリルにとって相当大事な物、リアスが口を出す隙間はない。
「いや、その…ほんとすいません…ほんと…はい」
「テメー…死ぬ覚悟はできてるんだろうなッ!」
言い終わると同時にリルは素早くペンのような物を腰のベルトから抜き取った。それはクリップがありぱっと見万年筆のようだが、ペン先がなく円柱状で、金色の光沢を放っている。
そのペンのような物を注射器を持つときのように構える。
「早めに返した方が身のためだぜ」
「いや…それはちょっと……雇われたので…その」
「じゃあ…力尽くだ!」
バンッ!――予想外に小さな銃声と共に、黄金に光り輝く弾丸が撃ち放たれる。目の前にいたその男に避ける暇はなく、一直線で向かっていく。
そしてその弾丸は、確実に脳天にめり込んだと思っていた。
「いや…あの……面倒な能力ですいません…」
男は不信そうだがどこか余裕を感じる。
「なッ…!?」
弾丸はいつの間にか男の背後に在り、そのまま男の後方のあるタクシーにめり込む。
するとタクシーはドアの周辺から間を置いて溶け始めた。ドロドロの液状になった鉄は地面に流れ落ち、見る影もない。
当たった物体をドロドロに溶かす能力はあのペンのような銃の能力。そして弾丸に当たらなかったのは彼の能力。
「えっと…あの…今更お恥ずかしいんですが…私、プレスリーって言います…はい……能力名は…その…『パーフェクト・ストレンジャー』って言います…あはは…」




