フランスからの恋は無敵で
月光に照らされたプレハブ小屋にてリアスは頭を抱え、途方もない絶望を顔に浮かべる。ユノのいない今のリアスはかつての無能の状態に戻っている。すなわち襲ってくる敵に対して無防備であり、母ディアンを助けるなんてもってのほかだ。
「ふむ…厳しい状況になったな…」
ジョーンズ先生が髭を撫でる。
「リアスの母親はD.C.にいるわけだが、肝心のユノの位置がな…」
ついてきたアレクも共に考察を張り巡らせる。
あの黒髪の男が雇われた者ならば、ユノは雇用主のもとにいるはず。その雇用主の居場所を突き止められればいいのだが。
「あ!」
ジョーンズが何かに気づき、目を大きく見開く。
すると後ろにある机の引き出しを開き、クレジットカード程の小さな紙を取り出した。
「2人共、ユノの姓は分かるか?」
「…そういえば、聞いたことないな…」
「僕も……」
ジョーンズは取り出した紙を2人に見せる。表にはデカデカと【アーリー・エクトス証券会社】と記されている。
「うーん…かなり有名な証券会社だが」
「エクトス、これがユノの姓なのか?」
「これはユノ自身が落とした物……ユノはあのお嬢様っぷりから見てご令嬢だからアーリー・エクトスが親って可能性は高いよ…」
やはりいまいち気分が悪いのか、リアスは目を誰とも合わさずに会話を進める。
アレクが携帯電話を取り出し、何か打ち始める。
「結婚歴はないと書いてあるが」
画面には若々しいスーツ姿の男が映っていた。
「何か隠す理由があるのか……決めつけはよくない…か」
振り出しに戻った推理に、全員が落胆する。100%の確証があるわけではないので直接訊くわけにもいかないし、訊いて答えが返ってくるとも思えない。情報を持っている者を捜すか、相手を待つか。
「いやーひっさしぶりだー」
人一人いない薄暗いリビングで、彼女は腕を掲げ羽を伸ばす。
耳を出したショートの黒髪は寝癖かと思うくらいに刺々しく、真ん中から束で一本伸びた紫色の髪がその正確の荒々しさを表している。
「しっかしなんで母さんもリアスもいないんだ?」
黒いトランクを床に下ろし、彼女は部屋中に視線を送った。灯りのない部屋は月明かりだけが神妙な雰囲気を出している。
ガチャッ――鍵の開く音が静寂の中に響き渡る。
「はぁ…」
息と一緒に疲れを吐き出し、リアス・ペルフは帰宅する。
目の前の人影に気づくことなくリアスは重々しい足取りでリビングに歩を進めた。
「おっかえりィー!!」
貧相な胸がリアスの顔面に岩の如く衝突する。
ユノとも同じような状況があったなと一瞬思い出すも、息苦しさがないことで正気はすぐに取り戻した。
「姉ちゃん…なんでいるの」
「なんだ我が弟よ~今日はやけにテンションが低いな~」
「8年ぶりなのに今日もへったくれもないよ」
「まあ細かいことは気にすんなって!」
リアスは真顔のまま歩き出そうとする。
「悩みがあるなら姉ちゃんになんでも言ってみろ!ガールフレンドに振られたか?んー?」
「…母さんが……行方不明なんだよ」
「え?」
「……それで母さんもお前のガールフレンドも誘拐されたと」
「ガールフレンドじゃないって…」
彼女の名はリル・ペルフ。言わずもがなリアスの実の姉で、彼女が14歳の時、リアスが9歳の頃に母の反対を押し切ってフランスへと旅立った。母からはフランスで大儲けしてアーティスト活動をしていると聞いたが、姉自ら聞いたことはない。
「私が失恋してる間にいろいろあったんだな~」
軽々しく言っているが。これでも実際はけっこう優しい性格だ。
「実は3日前の話なんだけど」
「ならまだ大丈夫だろ、D.C.にいるんだったら今から行きゃあ間に合うって」
リルのこの軽さがたまにしゃくに障ったり心強さになったりもする。しかし問題は一つではない。
「ユノも助けないと…」
「……?!」
リルが目を点にし、見たことない驚き顔をする。
リアスも久しく姉の顔を拝んでいなかったが、よく見ると昔と全く顔が変わっていない。
リルは片手で頭を抑え、深呼吸をする。
「あぁ、いや…やっぱりなんでもない。………そのアーリー・エクトスってやつに訊いてやるよ。裏にはいろいろとツケがあるからな」




