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完全無欠の革命歌  作者: ウエハル
序章
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表裏一体 不離一体? その4




「…あと2人…面倒ね」

「無視したほうがいいよね」

「それが出来ればいいんだけど…」

向かう先にはルーク、そして最初にルークの盾となった老人がいる。

2人は立ち止まり、あの老人の死因はなんなのかを深く考える。

重苦しくため息をつきながら、ルークが口を開いた。

「……先に言わせてもらうと、このご老人の死因は老衰。キミ達が殺めることはできない…」

しかし2人は動じない、一人の老人に何ができるという本心があるからこそ逆に自信さえ湧いてくる。

「行くぞォッ!」

リアスには似つかわしくない雄叫びを上げ、2人は再び地を蹴り風を切る。

その時、ルークの背後にある木製の扉が開いた。

「ルークよォ、まーだ終わってねぇのか?」

三度リアス達の目の前に姿を現した男。ロングコートを纏ったいかにも悪党という感じの黒髪の男。

「オイオイなんで2人しか出してねェーんだよ。こっちは片付いたから、さっさと片付けてくれよなー」

適当さが全面に出た喋り方で男はルークに挑発するように言った。

するとルークは目を瞑り、深呼吸をする。

「この星が誕生してから数十億年……どれほどの生命が亡くなったか………私の…『ロストプロフェッツ』に限界はない」

「まさか…急いでリアス!」

何かを察知したユノが焦りを浮かべスピードを上げた。それに続いてリアスをすぐに感知し、体の奥底からも力を絞り込んで走る。


しかし、健闘惜しくも間に合わなかった。

「さあ、降霊だ」

号砲一発、一気に部屋中に霊が出現した。

詰め放題の野菜のようにギュウギュウ詰めで隙間も見えない大群は、各々が自由に言葉を発し、とてつもなく五月蠅く耳障りだ。小太りの伯爵のような若男もいれば継ぎ接ぎだらけの服を着た老婆もいる。

滅茶苦茶で雑然としたその光景を見て2人はただ呆然とするしかなかった。

「ルーク、女のほうは殺すなよ?殺したら俺らが殺されちまうよ」

「…分かってる」

その言葉さえ霊達の話し声にかき消されそうになる。

「全霊よ…奴らを天へ迎え入れろ…」

戦力差は明白、リアスとユノは愕然としながらも拳を構える。

その時、聞き慣れたばかりの声がかろうじて聞こえた。

「2人共!」

突然、2人を呼び止める声が霊達の声の隙間から現れる。

「「アレク!」」

霊をかき分け、人混みの中アレクが顔を見せた。

したらばアレクがなんの脈絡もなく両手で2人にタッチした。

「『ファイネスト・アワー』…至福の時を味わってくれ」

「?………なんか…勝てそうな気しかしないぞォッ!!?」


巨大な自信が心の底から湧き上がってきたと同時に、全ての霊が鰯の群れのように3人に襲いかかった。

「ウォォォォォオルッシャァァァァァアーーーッッッ!!!!!!!!」

リアスの反発はマシンガンのように連発はできないはず。しかし今回はなぜか連発が可能で、かつ身体能力の限界を越えた全方位への反発ができた。不思議と肩も腕も痛みは感じない。

ルークに向かって霊を容易く蹴散らす。目の前に来た霊はもちろんのこと、背後や上方に来た霊までをも対処できた。

ユノの吸引も利用し、超高速で手元に引き寄せた霊をひたすらぶん殴る。幽霊達は死にはしないが、道は開けた。

ルークの視界にリアスが突っ込んできた。

「オラァァァァァア!!!」

「ッ…アガァッ!」

リアスに吹っ飛ばされ、ルークは扉に豪快にぶつかった。

すると予兆なく突如として霊達の動きが止まった。ルークがダメージを受けると霊達への命令はリセットされるようだ。

「はぁ……はぁっ…これで…「「終わりだァァアーーッッ!!!」」

「待てッ!!」

アレクの声は耳に入らず、ユノとリアスはルークに拳を伸ばした。

「なッ……」

今度はユノとリアスの動きが止まる。ルークまで残り数十センチというところで2人の様子がおかしくなった。

「………ア゛ァアァァァァア!!!!」

「使いすぎだ!」

2人の悲痛の叫びが部屋一帯に響いた。

あと一息というところで、理解できない激痛が体中を這い回る。腕全体に極太の針が突き刺さったような痛みは異常すぎた。痩せ我慢などできるわけもなく、2人はその場に棒のように倒れた。

「理解しがたいが…運命は私の敵ではなかったようだ…」

ルークは血を滴らせ立ち上がる。


『ファイネスト・アワー』。それは触れた相手の「望む」物事を実現させる能力。個々によって出てくる物事は変わるが、人体の限界を超えた状態になると強制的に解除され、激痛が伴う。安全に使えば10分で解除され、痛みはない。


「ヴッ…アァッ………」

リアスは呻き声と共に必死に息を整える。

「再起不能になったのはキミのほうだったな……あとはキミもやっておくか…」

ルークは険しい顔で悠々と立っているアレクを睨みつける。

「いや……まだ終わってない」

「何…?」

「信じたくはなかった…でも信じなきゃあならない……2人が切り開いてくれた活路と志を伝えなきゃあならないんだ…」

ルークの背後に黒髪の男とは違う人影が見えた。

全身を血で濡らしたその男は、ついさっきルークがチラッと見た顔と同じだった。


「……アレクよ…これが私の息子に対する精一杯の愛情だ…」

手にペティナイフを握った初老の男。その男こそ、このアウル探偵事務所の運営者であり探偵。アベック・コールマンだった。

黒髪の男と共に消え去ったアレクの父親、アベックはどこかで殺され、幽霊となり黒髪の男に憑いていたのだ。そしてそのアベックの霊がルーク自身によって具現化し、既に息子であるアレクと意思疎通をしていた。

殺されたという事実を認めたくないが、もうその証拠が目の前にいるのだから、認めざるをえない。

「息子よ!強く生きろ!」

ルークが口を開き命令を下す暇もなく、ペティナイフはルークの眉間に突き立てられた。

金属の鼻につく臭いが体中に染みわたる。だがそれも一瞬だけであり、すぐに感覚なんてものはなくなった。

「かッ………」

声も出せず、ルークは崩れ落ちる。

人形のように不安定な体を動かす者はもうおらず、静寂と共にルークの精神は砕け散った。ピクリとも動かないルークは死んだということがすぐに分かった。

ルークの魂が昇天すると同時に、部屋内にいた霊は全て塵となって見る影もなく消え去った。

「アレク…死体はなくとも心はお前の元に永久に残り続ける………では…さらばだ」

遺言を残し、アベックは粉雪のような塵となって虚しく消え失せた。

アレクは涙をこらえ、全てを受け止める。

17年間、アレクはこの探偵事務所で父親の助手として、未来の探偵として働いてきた。しかしその助手の役目も終わり、父親の人生にも終止符が打たれた。

「今度は俺の番…か」


「お取込み中悪いんだけどさ、これ貰ってくわ」



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