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完全無欠の革命歌  作者: ウエハル
序章
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表裏一体 不離一体? その3




ルークの盾になっている老人、天井辺りを浮遊する屈強な軍人と若い淑女と幼い子供。それらをまるで水族館のアーチを眺めるかのように観察する。

「霊を操る…簡素ね」

他人事みたいにユノが呟く。

単純で分かりやすい能力ではあるが、人数的にはこっちが不利。

「幽霊って、死ぬのかな」

「もう死んでるでしょ」

リアスは考え込む。

死んでいる者に対して倒すという概念があるのか、勝てるのか不安になってきた。

「ウォーキングデッドだと頭を破壊すればよかったけど」

「それはゾンビでしょ」

「一回は死んでいるんだし…同じじゃないかな」

「じゃあ、試してみる?」

その言葉を機に、素早くリアスは弾丸を再び構えた。腕を伸ばし、手の高さと目の位置を同じにして、とりあえずは軍人に狙いを定める。

シュンッ――いつ聞いても気の抜ける音を奏で、弾丸は高速で軍人へと飛んでいく。

「アダッ!」

弾丸は見事、頭にヒットし、その軍人はマヌケな声を出しながら床に落下した。

「オイオイオイオイイッテェなァ……人が楽しんでるときによォ…邪魔するってのはバカだけがすることだぜェ~クソガキがよォ~~」

毒を吐きながら軍人の男は立ち上がる。頭をさすってはいるが、ダメージが入っている感じは一切しない。

やけに重装備なその軍人は体中を土で汚しているが、体が鉄で出来ているのかと思うぐらいに屈強で強靭な体だということが全体像からすぐに分かる。

「そんなに死にてェかァッ!!?」

一瞬で男は腰からハンドガンを取り出し構えた。

「オイ待てそこの戦死者。一人でやろうとするんじゃあない、自分の死因をよーく思い出してみろ。数が多い方が有利だ」

「けっ…」

ルークに気圧され、軍人はハンドガンの照準をリアス達から外し。

幽霊に自我あるが、命令は絶対だということが分かった。

「上の二人も、早く」

ルークが声のトーンを変えずに声を出す。するとすぐに上の淑女と子供がゆったりと降りてきた。

その様はフランダースの犬でネロを迎えた天使のようだったが、リアス達にとっては悪魔だ。

「さあ、始めようか」

その言葉を合図に、軍人・淑女・子供・老人の4人が一気にバラバラに襲いかかってきた。

「うおっ!」

真っ直ぐと水中を泳ぐサメのように向かってきた4人を紙一重で避ける。そして4人は再びそれぞれバラバラに散った。

するとユノがハッとした顔で視線を横に向ける。

「ちょっとあんた、なんかないの?」

「え…」

アレクは眉間にシワを寄せる。

無口だったためか、アレクのことを忘れていた。リアスとユノの能力が効くかは分からない、だがアレクの能力が有効的かもしれないという望みを賭ける。

「オーケー」

気乗りしないアレクは部屋中を縦横無尽に動き回る霊を目で追う。それぞれが翻弄するためなのか不規則に動いている。

「本体は私たちがやるから、あとは頼んだ」

「ったく…」

ユノとリアスがルークへと走り出したとほぼ同時に、アレクは接近してきた淑女の霊に飛び避けながら左手で触れた。

「(実体はある…なら)」

手で触れた淑女が突然止まった。


「あッ!…うあぁぁ~~!」

淑女が突然床に倒れ込む。顔は見えないが、声から察するに泣いているのだろう。

「あなたァ~!」

床の絨毯が涙で濡れてきたとき、淑女は顔を上げた。

アレクからは、涙を滝のように流している淑女の前には何も見えない。

「なんで先に逝っちゃうのよォ!私だって…私だってあなたを追いかけたというのに!見えるのは暗闇だけであなたは全然私に顔を見せてくれなかったわ!」

淑女は涙声で何も無いところに向かって叫び嘆く。

「(あの女の首…痣があるな)」

服で少し隠れているせいか今までは気がつかなかったが、よーく見ると首と顔の境界のあたりに紫色に変色した痣があった。

「待ってあなた!もう一回死ねば私もう一度あなたに会える気がするの!だから…」

言い終わる前に、淑女は自分の手で自分の首を絞め始めた。

アレクの予想通り、あの淑女の死因は自殺。そして今、彼女はもう一度自殺しようとしている。

「あぅっ……ぁ………」

遂に淑女は白目を向いて床に伏せた。生気のない顔は徐々に色が失せ、白粉でも塗ったかのように真っ白になる。

淑女の霊は風の前に置かれた塵みたいに天に舞い上がり、跡形もなくなった。


アレクはらしくないガッツポーズをすると、息を大きく吸った。

「2人共!霊を倒すためには死んだ時と同じ死因でダメージを与えればいいんだ!」

「分かった!」

リアス達の視線の先にはルークがいる。

「射程距離内に入ったわ!」

ルークを吸い寄せようとユノが手をかざすと同時に視界の隅に人影が入ってきた。

「待て待て待て待てボケナスがァッ!!!」

リアス達と並走する形で軍人が追ってきた。

軍人はハンドガン構え、ユノに狙いをすます。

「俺たちの仲間入りだァァアーーッ!!!!」

言い終わる寸前に、鼓膜を揺らし痛める銃声が鳴り響く。

リアスとユノが叫ぶ暇もなく、銃弾はユノの頭に向かって飛んだ。

「その手の道具はもう通用しない、無駄よ無駄」

「なァッ!?」

ピタッ――とユノの脳を貫く前に、頭の目の前の空中で銃弾は静止した。ユノの手が挟むようにして銃弾の左右にあり、触れずとも銃弾を止めていた。

原理は簡単、両手で吸引を行えば銃弾はどちらかの手に進むことはなく、両手に引かれ空中で止まる。

リアスは横目で驚愕している軍人の体をじっと見る。

「(…この軍人はどうやって死んだんだ…?体中に弾痕や怪我はあるわけではない………一人で突っ込んで死んだらしいけど、重装備から見て拷問でもない……格好は…20世紀以後だろうけど、そもそもここらへんで戦争なんてあったか…?)」

記憶と知識を総動員するも全く答えが出てこない。

その間に軍人が憤怒の表情で拳を振りかざしていた。

「バカにしてんじゃあねえぜッ!」

「…」

リアスは呆れた顔で反発を使ってあしらう。

軍人は容易く吹っ飛んだが、一瞬で元の暑苦しい位置に戻った。

その時、リアスはやけくそ気味に頭を絞ると、一つの答えが出てきた。

「もしかして…軍人じゃあなくて、ただのコスプレ…?」

「うげっ!」

「分かりやすいな……その格好でほぼ無傷で死ぬってことは、銃の誤射ぐらいか?」

軍人はその言葉を聞いて渋い顔をする。

どうやらただの米軍好きのようだ。ルークの言っていた戦死者とは皮肉のことで、ハンドガンも趣味で集めたものだろう。

リアスは睨むようにして目をこらすも軍人の眉間にもこめかみにも顎にも弾痕はない。

しかし一つ、色で同化していたためか分かりずらい場所があった。

「(まさか…銃口を覗き込んだのか?)」

よーく見ると右目の黒目が縦に伸びて、楕円形になっていた。厳密に言うと影で黒く見えていたため、黒目ではなく黒目程の大きさの穴。

銃口を覗き込んだ際に上に向かって誤射したからか、目から入って脳天に銃弾が到達して、縦に伸びているのだろう。

銃口を直接覗き込むなんてバカな奴だと心の中で毒を吐きながら、リアスはポケットから弾丸を取り出す。

「そんなもんが当たるわけねーだろがカス!テメーは死にゃあいいんだよォオーーッ!!」

「誰が撃つと言った、この弾丸は君には使わない」

「あんたは自分で撃たないといけないの」

気づかぬ内にユノが軍人の背後に回っていた。

軍人が動揺した隙にリアスは軍人の左腕を掴み、力を込めた。

「イギャァァアーーーッ!!!!」

軍人の左は反発によってミイラみたいにボロボロになり、使い物にならなくなった。

直後、ユノは軍人の頭をリンゴを潰すように両手で鷲掴みにすると、軍人が持っていたハンドガンと軍人の手を引き寄せた。

ハンドガンの銃口はユノの手に引き寄せられるため、障害物である軍人の右目に無理矢理押し当てられる。

「オイオイ待て待て!!俺はあいつに呼び出されただけなんだぜ!やっと戻れたんだからさ!な!?」

2人は命乞いに耳を貸さず、哀れみの目を向ける。


「行くべき場所に行くだけだろ、僕も、君も」

鈍く重厚な金属音と銃弾が軍人の脳が目を介して貫いた。



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