写真とナルシスト
昼休み残り十分というところで、教室に焦げ茶色の髪の毛の青年が入ってきた。
「あ、いたいた、なっちゃーん」
「アンリちゃ……くん」
「あはは、もう呼び捨てでいいのに。はいこれ、なっちゃんにあげようと思ってさ。学校祭の時の写真」
「ああ!ありがとう!」
アンリくんは、学校祭が終わってすぐにいつも通りあたしに接してくれるようになった。一晩ぐっすり寝て起きた時の自己嫌悪といったらなかったため、すぐに謝りに行ったところ、きょとんとしてからいつものようにくすくす笑った。
「そんなん気にしなくていいよ!なっちゃん男ダメだって知ってるから。みんなそんなこと気にしてないと思うし、なっちゃんにも気にしないでいてほしいんだけど」
そんな風に言ってくれるとは思っておらず、随分気も楽になった。散々なことを言っていた自覚はあったので、右ストレートくらいは覚悟していたのだが。いつもより遠い距離にも、新鮮だね、なんて言って微笑んだアンリくんはやはり男前だ。
しかしあの日の写真を見ると、やはり在りし日の、という表現は適切ではないが、イケメン系女子アンリちゃんが恋しく思えてくる。
王子姿の自分の写真もちゃっかり入れられているあたり、相変わらずナルシスト気味なんだなとちょっと笑ってしまった。
「そういえばなんで演劇呼んでくれなかったの?もし野獣じゃなかったら観に行ったのに」
「ああ、あれね……うーん、呼ぼうとも思ったんだけどね。美園さんに勝つにはメイン王子くらいじゃなきゃなって思って。あの王子は結構情けない役だからさ、なっちゃん絶対美園さんしか見ないじゃん」
「そうか……ん?そうかな?」
「ふーん。菊野くん、いつになく自信なかったんだ?」
「まあね。先輩たちがなんか企んでるみたいだったし……苦肉の策で呼ばせないっていうね。失敗したけど」
いたずらっぽく笑う絵里子ちゃんに苦笑しながら答えて、アンリくんは珍しく小さなため息をついた。
あたしは内心首をかしげる。野獣よりよっぽどいい役どころだし、すごく似合っていたのに。
「なんで?すっごいかっこよかったのに。多分アンリ王子が出てるとこは視線釘づけだったんじゃないかな」
「……なっちゃん……!!」
きらきらした笑顔でこちらに伸ばされた手が、ふと止まる。そして、何事もなかったかのように戻して、アンリくんは笑顔のまま気まずそうにあたしから目をそらした。
いつもはあたしの髪をぐしゃぐしゃにしたり、走ってきてアタックしたり、肩や腕を組んで来たりするのに、と不思議に思って、自分の考えていたことに驚いた。
今、アンリくんは男だが、だからといって触られるのが嫌だとは思わなかったのだ。
あたしは慌てて言う。
「あのさ、普通にしてていいからね。気を遣ってもらってるのはありがたいんだけど、あたしは大丈夫だよ。遠慮とかいいから。ほら、中身は同じなのに、男だからどうっていうのはおかしいと思って」
「……それって前みたいに突撃したり肩組んだり後ろから抱きついたりしてもいいってこと?」
「うんいいよ!なんたってほら、友達だし!あたし、言ったことはちゃんと守るから!」
自信を持って言える。友達ができたら絶対に大切にしようと黒歴史時代にずっと思い続けていたのだ。
あたしが即答すると、アンリくんはぱっと顔を輝かせてからみるみる渋い表情になった。
「すっごいありがたいんだけど、中身が全部前と同じとは限らないからね。今のおれは菊野アンリっていうイケメンで、恋心も性的欲求も通常装備中なんだから、あんまり油断してちゃだめだよ」
「……うん?うん」
「……まあいいや、これからも仲良くしてね、なっちゃん」
勿論だよ!と言うと、けらけら笑いながらがっちり肩を組まれた。
正直よくわからなかったが、アンリくんとこれからも仲良くできそうでよかった。




