委員会と努力家
放課後の委員会で、あたしは見慣れた背中を見つけて声をかける。
「隣、座っていい?」
「――ナツキ!」
驚いたようにこちらを見上げた翔子ちゃん、ではなく翔くんは、すぐに人懐っこい笑顔を浮かべて首を縦に振る。
「あったりまえじゃん!いっつも座ってたでしょ」
長机の上に広げていた文房具を自分の方に寄せて、わざわざ場所を空けてくれた。情けないことに、すぐ隣に座るのはまだちょっと憚られるので、以前より少し離れて座る。翔くんは何も言わなかったが、きっと気づいている。
プリントを並べ替えながら、相変わらず爽やかな雰囲気の翔くんが口を開いた。
「えっと、もう体調とか大丈夫なの?」
「あたし?うん、全然大丈夫だよ!でも……胃カメラはちょっと……」
「あはは、何それ」
今思い出しても少し気持ち悪くなる。もともと恐怖感を抱いていたせいもあって、当日は緊張しすぎてちょっとしたパニックになり、気分が悪くなったりトイレに籠城したり泣いたり慰められたりと注射が駄目な幼児並みの行動をとってしまったのだ。二重の意味でトラウマだ。
翔くんにこの流れについて簡単に説明したところ、災難だったね、と同情のまなざしをくれた。胃カメラやりたくない同盟を組もうかという話で盛り上がっていたところ、そういえば、と翔くんが姿勢を正した。何事だ。
「あのさ、オレ、今度試合あるんだ。外部の大会で、しかも男子の部に出るのは久々なんだけど……よかったら応援しに来てほしいんだ」
「え、ほんと?あたし部外者なんだけどいいの?」
ルールも詳しく知らないんだけど。そう続ける前に、千切れんばかりに尻尾を振っている中型犬の幻影を背負ったスポーツマンに遮られる。
「勿論!ナツキに応援されると元気出るんだ、いっぱい勝てるように頑張るよ!」
両手で拳を握って強気に笑う。いつかの凛々しい翔子ちゃんを思い出し、あたしはつられて身を乗り出した。
「あたしはしょ、じゃない、翔くんがにこにこしてると元気出るから、いっぱいにこにこしてくれるように頑張って応援するね!」
「え」
翔子ちゃん時代の笑顔もそうだが、翔くんは感情のままに笑顔をつくるから、見ているこちらもなんとなく嬉しくなるのだ。屈託なく笑うという感じかもしれない。あとは、無邪気に、とか。
驚いたように目を見開いていた翔くんは、ふと我に返ったように何度か瞬きをして、ぎゅっと眉間にしわを寄せた。
「……ナツキってやっぱり、時々すっごい爆弾落とすよね」
「え、そう?」
「そうだよ」
拗ねたような口調で言って、翔くんは枕のようにした自分の腕に顔をうずめる。机に覆いかぶさっているような形なので顔は見えないが、耳がほんのり赤くなっているのがわかった。
――あ、照れてる。
あたしはついつい頬を緩ませながら、応援に行く時には何か差し入れでも持っていこうと考えをめぐらせるのだった。




