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年末の学園帰りデート

 少しずつ、肌寒くなってきた。学園祭は秋ごろだったから、そろそろ冬か……

 右肩の傷跡は、この時季だった気がする。もう痛くはないけど、つい肩を触ってしまう。

「痛む?」

ルディが気遣って声をかけた。今痛くはないが、この時季だったから、何となく体が反応してしまう。

「つい思い出しちゃうな……って」

「この時分だったね」

ブランケットを肩から包むように掛けてくれた。ブランケットの温かさなのか、ルディの手の温かさなのか、私なのかわからなくなる。

「ありがとう。ルディ」

「そろそろ、自信はついた?」

「あ…、いや〜」

そういえば、返事を先延ばしにしていた。いろいろありすぎて、忘れてたのもある。……ホントにいろいろ、いっぺんに…ありすぎて。そして、解決しないといけないこともある。

「返事は、母さんの呪いが解決したら…、する」

「約束だ」

「うん、絶対に」

これは…安直すぎただろうか。

とにかく、早く呪いの核を見つけないと。



 学園はまだ午前のみ。

呪いの核を持っている人は、まだわからず。ただ日々が過ぎていく。

 学園祭の話題も下火になってきた。新しい話題もなさそう。女子は街のブティックに新しいデザインの服があるとか、カフェの店員がかっこいいとか、聞こえる。


 午前の授業が終わり、ルディが待っている馬車に向かう。ルディがくれた、ブランケットは温かい。こうして羽織っていると、ルディの匂いがして、こう……抱きしめられているような……、


あ゙!! なんという、妄想を……!


 ひんやりとする外で、ルディが待ってくれている。

「おまたせ」

馬車に乗り込もうとルディの手を取ると…

ルディの手が、ほんのり冷たくなっていた。

「ルディ、私…そんなに待たせたのかな」

「どうして?」

乗らないまま、外で話しても仕方ないので、とりあえず乗り込んだ。ルディは後に続く。

ルディが座った横へ移動して、手を握った。

馬車の中は、魔道具のおかげで温かい。

「ルディの手が冷たい…」

擦っても、すぐには温まらない。

「寒いなら、ずっと外で私を待たなくていいのに…」

暖かい馬車の中で待っていても、私は文句なんて言わないのに。

「ナナのこと想っていたから、寒さなんて忘れるよ」

人の心配はするのに、自分のことは後回しにする……

ルディの手に、自分の息を吹きかける。少しは温かくなってきたような気がする。

「………!」

私の両手に包んだ手の向こう側のルディと目が合ってしまった。

ルディの反対の手が、私の頬にふれる。

「冷たっ!」

咄嗟に手を掴み、擦ったり息をかけたりしていると、突然抱き寄せられた。

「ありがとう、ナナ」

「私の心配もうれしいけど、ルディも自分のこと大事にして」

「こんなに想ってくれるなんて…」

私のことを心配してくれているのは、去年のこともあると思う。この時季にほとんど意識がなくて、私をずっと見守るしかなかったから。意識が戻ってからも、体調が戻るまで看病してくれていた。


 そうおもえば、あの時助けてくれなかったら、あの学園で屍になって発見されたかも……ルディは命の恩人になる。


 そんなルディの気持ちに応えるために、早く解決したい。


 馬車は王城への道とは違う。どこへ向かっているのか、外を見ようとしたが、ルディに遮られた。

「また酔うよ」

街の道は、国から国への道とは違い、綺麗に整備されて、揺れは少ない。大丈夫とは思うが、『大丈夫!』とは言い切れない。

「これから、孤児院に行くんだ」

突然のことで、びっくりしてしまった。

「行きたいと言ってたからね」

 行きついたのは、王都の住宅区に位置する場所。建物は、貧困区に建てた孤児院より大きい。

 ルディと私は王族とは気づかれないように、変装魔法を使う。王族が訪問すると、取り繕われては本来の様子がわからない。


 院長に中へ案内してもらい、現在の孤児の人数から、なぜ孤児になったのか、生活の様子を聞かせてくれた。

 そのあと、広間で子供たちに、特に女の子に『シンデレラ』を効果音と身ぶりを合わせて聞かせ、男の子には、この世界に合わせた『桃太郎』をアクション付きで聞かせた。


 中まで響くくらいの声が聞こえる。院長と共に外へ行くと、子供が何かを握り、泣いている。近くには目深にかぶったフードの人。

「渡しなさい!……渡せ!!」

やけに、しわがれた声。その人は私たちが来たことに気づくと、慌てて立ち去った。

「何があったのです?」

院長は優しく、子供に話しかける。

「私が先に見つけたのに!渡せ、渡せって……すごい顔して…、ぅ゙ぇっうぇぇ〜ん」

さっきの言い方からして、あの人の怒り方は尋常ではない感じがした。

「怖かったね」

その子を抱きしめて、背中をトントンとしたり、頭を撫で、あやす。

「ねぇ、手に持っているのを見せてもらってもいいかな?」

泣きながらも頷いて、手に持っていた物を私に見せてくれた。手の中には、赤黒い…石?

いっしょに覗いていたルディの表情が変わった。

「……ねぇ、この石預かっらせて貰ってもいいかな?」

ぐずっている子は、悩んでいる。『渡せ!』と言われても渡さなかったのだから、そうとう気に入ったのかもしれない。

「…ん〜…そうだな、君に似合うように、アクセサリーにしてくるよ」

その言葉に、ピタリと泣きやみ、ルディを見あげた。

「ほんと?」

「もちろん…」

子供はルディに預けることを決めた。『こういうのがいい』とリクエストも添えて。


受けった石をルディはハンカチにくるんで慎重に扱っていた。

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