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第一話 いとしのローズマリーテイク2


 テイク2が始まった。

 私が頼んだわけではない。

 ジオに叱られて、仕方なくのテイク2なのだ。


 「君はプロバンスの冬の気温を知ってるの?」


 しらねーよっ(T-T)とはいえず黙っていると、そこから講義が始まった。

 まあ、それは良いんだ。レベル上げってのはゲーム由来のファンタジーじゃ仕方ないみたいだし。今はジオのこの熱い地理にかける熱意だけが魔術の源泉なんだから。

 「仕方ないなぁ。最高気温12度くらいなんだよ。」

「でも、ここ、プロバンスじゃ無いもん。なごみの国なんだもん。」

なんて、つい、口答えしたら倍返しされた。


 オープニングの画像は、集客には大事なところらしい。ここで掴めないとここからブラバが増えるだけなんだそうだ。ブラバって、その前に何人来てくれるのかも分からないんだよな。

 ともかく、植物には開花の時期があって、『なんかプロバンスの風景』ではダメなんだそうだ。

 モデルのプロバンス地方の人にも心の中で謝らさせられたが、地元の人はきっと気にして無いと思う。それはともかく、ジオはプロバンス…南欧の冬を教えてくれた。


 地中海とか南欧というと暖かい雰囲気があるけれど、冬はやはり寒いんだそうだ。で、寒いから植物は枯れるんだよね。

 そんな時期でも緑の葉っぱのローズマリーは貴重なんだそうだ。この辺りを表現しないのは、怠慢なんだそうです。はい。


 で、ジオ監修のテイク2が始まる。

 明るい曇り空の冬の枯れた葡萄畑に麗しい吟遊詩人が石壁に座っている。高台の丘のその向こうには地中海が広がる。

 吟遊詩人はカメラ目線で正面を向いて軽く昭和の美男子の爽やかな笑顔で歯を輝かせる。

 「お話のおねだりでしょうか?マイ、レディ。

それでは、愛する人との幸せな結婚を夢見た可愛らしい姫の話をいたしましょう。」

吟遊詩人は立ち上がり、石壁に這うように茂るローズマリーを一房手折る。

ローズマリーの爽やかな甘い香り。小さな葉の間には白い花がポツポツと花開いている。吟遊詩人はレディとやらの髪にそれを差して微笑む。

そして、囁くのだ。

「ローズマリーの花言葉をご存知ですか?」と、吟遊詩人は私の少女時代、ウルフカットと呼ばれたような、なんかそんな髪型でこっちが恥ずかしくなるような、良い感じの微笑を浮かべ、そして、続けた。

「変わらぬ愛 です。」


 うわぁぁぁぁ(〃ω〃)


 ちょっと、言葉を失った。あれ、こんなだっけ?昭和の少女アニメって、こんなんだっけ???


 混乱する私にメフィストが耳打ちする。

 「ローズマリーって『私を蘇らせて』って花言葉もありますよね。なんだか、あってますね。」

「そうなんだ。」

私はつぶやくように言った。剛は蘇ったりしたくはなかったと思う。

今なら、私だって止めときたかったわ。

 ともかく、オープニングは続くのだ。


 オーケストラの壮大なイントロで始まる。

 ♪ローズマリーは冬の花


 あれ?私は不思議に思った。さっきと違って、冬枯れの葡萄園と暖かな石造りの一軒家からの煙突の煙の風景に、このセリフは暖かな雰囲気で流れ始める。

 枯れた植物と薄い曇り空に、石壁のローズマリーの緑色が特別感を漂わせている。

 ジオの言うことは間違ってはなかった。ちゃんと描写すれば、その分、いい感じに物語は仕上がるものなのだ。

 

 家族 そんな雰囲気の中、場面か展開してゆく。

 どんぐりの森、狩の笛、枯れ木の向こうに輝く青空。


 で、剛はどこなの?

 と、思ったことろで曲が終わり、物語は始まった。


 第一話 いとしのローズマリー


 テロップが消えてゆく中で、私は本当に物語の世界に入り込んでいた。


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