0 異世界漂流の巻 8
ここでやっと主人公がロボットに乗るんだぜ。
魔物との戦いにも慣れ、吉良にもようやく余裕が生まれた。道すがらサイシュウに訊ねる。
「俺が見つけた金貨が何なのか、わかりますか?」
それによって、戦闘訓練などした事も無い自分が戦えているのだ。どうにも気になる。
だがサイシュウは首を横に振った。
「いんや、わからん。だがこの世界にはクラスチェンジのスペシャルパワーを秘めたアイテムがある。それでお前も冒険者クラスにチェンジしたのかもな」
(クラスチェンジ、か。あの、手裏剣みたいな模様と「忍」の文字が刻まれていた金貨で、何にチェンジしたというんだ‥‥)
もう少しでわかりそうな気もするのだが、やはり吉良にはわからなかった。
――しばらく後。ついに通路の前方に陽光が見えた――
期待通り、そこは出口だった。
しかし――窓から見えていた魔王軍のロボットは一体もいない。
そしてサイシュウはずかずかと森の中へ行ってしまう。
吉良達は慌ててその後を追った。
未知の世界の森の中。
そこを行くと、すぐに巨大な残骸が見えた。
塔の外にいたロボット達である。破損の程度に差はあれ、文字通りの全滅だった。そこかしこには操縦者だったのだろう、ゴブリンやオークの兵士が倒れ、息絶えている。
奇妙な事に、彼らの間には座席が転がっていた。ロボットから外れて飛び出したとしか思えない。
呆気にとられる吉良達に、サイシュウが説明する。
「ここを通った俺を見つけて、こいつらから仕掛けてきやがってな。まぁ軽く全滅はさせたんだが。こりゃあ近くに何かあるだろうと思って、ちょいと探るとさっきの塔を見つけてよ。中を調べてみて、お前達を発見できたんだわ」
そしてサイシュウは召喚された学生一同を見渡した。
「お前ら、適当な奴に乗れ。操縦席の中には座席が無いだろうが、そこらに転がっている座席を設置して座れば動かせるようになる」
「ええ!?」
一瞬遅れて驚く学生達。
操縦方法を習った者など一人としているわけがない。
だがサイシュウは当然のように告げる。
「大丈夫だ。お前らはこれを動かせる。操縦する素質を持ってるからこそ召喚魔法にひっかかったんだからな」
顔を見合わせる学生一同。
「こ、これで戦うんですか‥‥?」
ソフィアが訊くと、サイシュウは「ははっ」と笑った。
「ちげーよ。町へ持って行って叩き売るんだ。お前ら文無しだろ? これからどうするにしても、銭は要るだろうが」
サイシュウに教わりながら、一同は――気は進まなかったが――乗り込むロボットを選ぶ。
確かに操縦席には椅子の類が無かった。それを設置する機構はあるのに、だ。
「ケイオス・ウォリアーの脱出装置は、椅子が飛び出して、ごく短時間だけ浮遊系の魔力が働く奴でな。それで地上に降りて、後は足で逃げろって装置だ」
サイシュウの説明に首を傾げる吉良。
「椅子と体だけ飛び出すのは危なくないですか? 機体の爆発に巻き込まれたり、流れ弾が飛んで来たり、他の機体にぶつかったりしたら‥‥」
「ああ、死ぬぜ」
「え?」
あっさり言ったサイシュウに、吉良はその目を丸くする。
周囲の同級生達も動きが止まった。
凍り付きそうな空気を気にもせず、サイシュウは付け加える。
「つっても地球の戦闘機だって椅子ごと射出してパラシュートで着地すんだから、大して変わらんだろ。まぁケイオス・ウォリアーでの戦闘は大概もっと空間密度が高いから、死亡事故の確率も高くなっているがな」
「ええ‥‥」
吉良は呻いた。巨大ロボットでの戦闘にちょっと浪漫を感じなくもなかったが、今この時にそれは消えた。
それでも嫌々でも、とにかく機体を選んで乗らねばならない。
吉良が座席を抱えて機体を見渡していると、ソフィアが袖を引っぱる。
「あんたは一番無事なロボットに乗りなさいよ。いざとなったら‥‥戦えるの、あんただけだし」
「う‥‥わかったよ」
さっきの話を聞いた後だとちょっとどころではなく嫌だが、反対できる状況ではない。
(どうか戦闘にはなりませんように‥‥)
そう心の中で祈るだけだ。
一秒後、巨大な矢がすぐ側の木をヘシ折った。
サイシュウが「チッ!」と舌打する。
「敵の増援が来やがったか」
つまり巨大ロボットでの戦闘が始まるのだ。
設定解説
・脱出装置
機体が戦闘不能になるほど破壊されると(あるいは操縦者の操作で)、操縦席のどこか(大概は背面)が開いて座席が外に飛び出すようになっている。
この時に浮遊系の魔力が働き、短時間だけ落下の衝撃をほぼゼロまで軽減してくれるのだ。
着地したらシートベルトを外し、後は操縦者の足で逃げるのである。
周囲の地形など考慮されていないので、崖の側で戦っていて谷に落下したら途中で浮遊魔法がきれて滑落死したりする。
川の側で戦っていて水の中に射出されて溺死する奴もいる。
飛行型の機体は浮遊魔法の時間を長めにとってあるが、高高度で撃墜されるとやっぱり滑落死する。
市街地や岸壁の側で射出されると飛び出した直後に壁に激突して死ぬ奴も出る。
それでも無いよりは有った方が、生存率は段違いに高まるのだ。