7 神技炸裂の巻 10
登場人物の簡易紹介(誰かわからない奴がいた時だけ見てください)
キラー:主人公。召喚された元高校生。クラスチェンジアイテムによりニンジャとなった。
ストライク:森で見つけたカメレオン。
ディナル:キラーとその邸宅を世話する専属メイド。外見年齢は十代。
キャシャロット:カパード国でキラーに買われた元メイドの奴隷少女。マッコウクジラ獣人。
——ハイマウンテン城・中庭の隅にあるキラー邸——
キラーが家に戻ると、そこには立ち竦むディナルの姿があった。
家は‥‥瓦礫に圧し潰され、無残に倒壊している。見れば城壁の一部が敵軍の攻撃で破損しており、それが崩れ落ちて来たようだ。
ディナルが泣き顔で振り向いた。
「ああ! キラー様!」
「‥‥潰れたな」
落ち着いて呟くキラー。
対照的にディナルは取り乱し、ガニ股で踏ん張って訴える。
「す、すぐに建て直させます! 財務の大臣が四の五のぬかしたら刃物を抜いてでも‥‥」
「落ち着いてください。地がちょっと出てます」
キラーの後ろからキャシャロットが顔を覗かせた。
「建て直す、か。資金が出ればいいがな」
落ち着いて呟くキラー。
対照的にディナルは取り乱し、頭を掻きむしりながら訴える。
「出させます! 救国の英雄に渋るようなクソ大臣は私がヤッて人の来ない淵に沈めます!」
「落ち着いてください。地がもっと出てます」
キラーの後ろからキャシャロットが指摘した。
「誰を沈めた所で、俺が防衛に役立たなかったのは事実。英雄だから価値があるなら、英雄でなくなれば無価値だろう」
落ち着いて、しかしどこか沈んだ面持ちで呟くキラー。
その言葉にディナルも仰天した。
「え、ええっ!?」
さっきまで城内の奥深くに皆と避難していたので、戦闘の様子など知らなかったのだ。
(なんてぇこった! この兄ちゃんに賭けたのは失敗やったんか! 賭けに負けたァーッ!)
愕然とするディナルの前で、キラーは倒壊した家へ向かう。
砕けた丸太を押し退けながら「おそらくここらに‥‥」と呟き、中を探る事しばし。ほどなく小さな鉄の金庫を引っ張り出した。
「そんな物が!?」
ディナルが見た覚えの無い金庫だ。キラーが誰にも言わず屋根裏に隠していたので当然なのだが。
(私も知らんかったのに! 信用されてなかったんか! チクショウ!)
歯がみするディナルの前で、金庫が開けられた。中には沢山の高価な箱。キラーはその一つを開けて中を確認する。そこには色とりどりの宝石が詰まっていた。
ハイマウンテン国から貰った個人的な報酬を、ここに保管していたのである。
キラーは宝石箱を袋に入れ替え、それを掴んで戻ってきた。そして箱の一つ——最も大きい物——をディナルに差し出す。
「え?」
困惑するディナルに、キラーは箱を渡した。
「今まで家の事をしてくれてありがとう。恩にきる」
「は、い‥‥」
呆然と頷くディナル。
キラーは歩き出した。倒壊した家に背を向けて。
それを見送るメイドへ、途中で振り向く。
「ディナル」
「はい?」
名を呼ばれて生返事するメイドへ、キラーは——微かに、だが確かに、口元を覆う覆面の下で微笑みを見せた。
「君が無事で良かった。達者でいてくれ」
「は、い‥‥」
初めて見るキラーの笑顔に、混乱して反射的な返事しかできない。
そんなディナルに再び背を向けると、キラーは歩き出した。城の母屋へ。
後ろをキャシャロットがてくてくとついて行く。
「‥‥」
ディナルは、何も言えず立ち尽くしていた。
(‥‥)
立ち尽くしたまま、何も考えられなかった。
手の中には、渡された退職金の綺麗な箱が輝くのみ。
設定解説
・そこには色とりどりの宝石が詰まっていた
TRPGに重量ルールなんて物があった頃、500枚以上の硬貨は宝石に変えて持ち運ぶべし、などという風潮が存在した。
その際、8割だか7割5分だかに財産が目減りするなどという謎勘定がどこからともなく流れてきたりもした。
「損なだけで面白くもなんともない」という事実もあり、重量ルールの消失とともに当たり前のように廃れた。
なぜ我々はあんな無意味な事をしていたのか。答えは出ないだろう。出ても意味ないしな。




