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【番外編 2】カイゼル王子はわかりたい (前)

第三王子のその後話。

ちょっとモヤるかもしれません。

 


 メイアは俺が認めた女性だった。

 庭園に咲く可憐な花のように可愛くて王子()の妻になれるのはメイアしかいないと信じていた。


 そのうち俺のサロンに行くよりも王妃教育を優先したり、定例のお茶会で俺の前だからと気を抜き無表情な顔をしてみたり、構ってほしいと言わんばかりに疲れた顔をして気を引こうとしたり年々扱いに困る態度が目立っていたが、それは優秀な第三王子の婚約者だから横柄になっているのだと考えていた。


 母上にも自由奔放なメイアの手綱を俺が握りうまく操縦するのが夫の役目なのだと教えられてきた。


 それがすべて母上の策略で、虐待じみた暴力のせいでメイアは疲れ果て、表情が作れないほど感情の起伏がなくなってしまっただなんて知らなかった。

 俺が側近のゲイル達のために、友人のアニーを守るために振るった権力がメイアの友人達を貴族でいられなくしただなんて思わなかった。



 いや無意識では薄々理解していた。


 メイアの友人でなければ今も悪者退治ができたと自慢していただろう。

 俺の友人達を困らせアニーを苛めたのだから、それがたとえ王子側近の婚約者でも裁いていいし、正義の鉄槌を『俺が』下さなくてはと驕った。そんな権限などなかったのに。


 しかも実際は冤罪でアニーを苛めた証拠も捏造で、俺はあいつらの浮気を大々的に肯定し無実の令嬢達を不当に罰した。


 彼女達が貴族として生きていけないほどの致命傷を負わせ、国外追放に匹敵する言葉で辱しめたのにあの時の俺はそれよりも未来ある友人達を救った自分に酔いしれ罪悪感を抱かなかった。



 その結果、俺はメイアという最愛の婚約者を失った。当然の報いだ。そして一年後には側近やサロンメンバーだった友人達すべてを失った。


 特に側近でありカイゼルの一番の友人だったゲイル達は元婚約者達への無礼の他にも王家の前で嘘をついたことやメイア達インサルスティマ王国への不敬も追加されたことで貴族籍を失い、地下牢に収監され、鞭打ちを受けた後はそれぞれ平民以下として肉体労働が課せられる。

 文官肌のゲイルなんかは死ぬほどきつい労働になるだろう。


 二人共生きて再会できるかはかなり怪しく、地下牢に入った数ヵ月はいろんな伝手を使って『助けてほしい』と懇願する手紙や言葉が届けられたが俺にはどうにもできなかった。



 メイアがダスパラード王国を去った後、俺は父上に殴られるほどの叱責を受けた。

 それは初めてのことで母上は恐れと共に悲鳴をあげたが怒り狂う父上を止めることはせず、ただただ殴られる俺を震えて見ているだけだった。


 そんな暴力を止めてくれたのは第一王子の兄上だった。兄上が言うにはこの騒動を収めるには自分が立太子、国王になることでインサルスティマ王国から許しを得られると訴えた。ジュリアスディーンとそういう話し合いをしたそうだ。

 このことに母上やブランツ家傘下の貴族達から抵抗があったが父上はそれで国を守れるのならと即座に退位した。


 退位した父上は離宮に移り住みずっと隠していた愛人と余生を過ごす予定だったが、そんな予算はないと新国王に突っぱねられ愛人一人を残して他は全員解雇された。

 俺は知らなかったが父上は愛人を三十人も囲っていたのだ。しかも母上による不当な解雇や暗殺があっての人数で、父上の愛人はトータル五十人以上いただろう、とのことだった。


 それには俺も驚きを隠せず、母上もせいぜい十人程度だろうと考えていたようで人数を聞いた時の母上の顔は寝物語で聞かされた魔女よりも恐ろしい形相だった。


 宰相のお陰で父上の子を妊娠した者はいなかったが、退任した後愛人に子供が生まれても困るので愛人の中でもっとも年増で使用人経験のある(父上は自分の侍女にまで手を出していた!)者を選んだ。

 保険で不妊手術も施されると言うから今後の心配はないだろう。


 そして父上の処遇をなぜか見届け満足げにしていた母上は厳重な警備の中、俺達に監視されながら鉄製の馬車に詰め込まれ、懺悔の塔に収監された。


 ピンデッド侯爵領はもう他国になってしまったが懺悔の塔はそこにあり二度と今生では会えないだろうと言われた。

 他の場所ではブランツ家の威光が強く、数ヵ月を待たずして母上が王宮に戻って来るだろうとか、父上の唯一の愛人を間違いなく殺害するだろうと予想され、罰を与えるならそこしかないと兄二人が推薦した場所だった。


 子供達に裏切られたと母上は散々詰り嘆いたが、兄上達は硬い表情のまま反応を示さなかった。

 俺の方が母上の金切り声に不快さを表してしまい、それを見た母上は徹底的に俺を責め立て呪いの言葉を叫び続けた。


 それは母上の助けてほしいという弱音の裏返しの言葉だったが初めて聞く罵声にショックの方が大きく、助けを求めていたのだと気づいた時には母上はもうピンデッド侯爵領に入った後だった。


 だが早めに気づけたとしても何もできなかっただろう。

 母上はやり過ぎてしまったのだ。


 王太后である祖母上の暗殺に手を下した家の出で、私情で国を振り回し、俺の婚約者だったメイアを暗殺しようとした。

 そして友好国のインジュード公爵夫人となったメイアを他の貴族達がいる前で侮辱したのだ。とても許されることではない。


 肉親の死刑という扱いに心を痛めたが、メイアを虐待し続け俺から婚約者を取り上げた母上を許すことはまだできそうになかった。


 そして俺はというと王位継承権を剥奪され、断種された上で祖父上の希望通りブランツ伯爵家を継いだ。


 祖父上は喜んだが真実は異なる。

 僻地のブランツ伯爵領地を運営していくのはカイゼルだがあくまで伯爵代理として役目を負ったに過ぎない。


 伯爵当主は祖父上の息子である伯父がいるのだから伯父が引き継ぐべきだと国王が頑として引かなかったからだ。そのため伯父がカイゼルに当主の座を引き継がない限り一生代理のままということになってしまった。


 それは困る、とすぐに伯父を探させたが暗殺を恐れた伯父はどこかに雲隠れをしてしまい、行方を知っているであろうヘンダーソン侯爵からは今までのこともあって居場所を教えてもらうことができなかった。

 それじゃ領地を治める意味がない、伯父と会わせてくれと訴えてみたが色好い返事が返されることはなかった。


 任された領地経営は初手から躓き、仕事を覚えてきたところで祖父上が寄越してきた従者が納められた少ない税金を盗んで逃走し、それを聞いた領民が暴動を起こして散々な目に遭った。


 従者はすぐに捕まったが娼館や飲み屋ですべて使いきった後だった。顔確認の際に会ったが領民に殴られたのか顔がボコボコに腫れ上がり声を聞いても誰だかわからないほどだった。


 その後も領民との関係はよくならず、ことあるごとに『前の代理に戻せ』だの『あの御方の方が土地も民もよくわかっていた』などと小言を言われたり、学園のサロンで仲間達と熱く議論してきた事案も悉く失敗ないし使えないと突っぱねられた。


 俺はここでもまだ甘く見ていたようだ。

 ヘンダーソン侯爵から当主教育を受けなかったとはいえ、サロンで話し合ったことはきっと役に立つと信じていた。


 案は数多くあったし、その土地を見た上での修正案も出したりした。結果がすぐに出ないことも理解していたから余裕を持って指示をしていた。

 それでも俺の考えは領民に伝わらず指示を出しても言うことを聞かない者が増え畑を捨てて逃げ出す者も出てきた。


 なんで誰もわからないんだ?こんなのできて当たり前だろう?わかりやすく話してやってるのになんで反抗的な態度しか見せないんだ。

 何をやってもうまくいかない日々に俺は苛立ちを募らせていった。



 そんなある日、独立したヘンダーソン侯爵家などが集合した共和国を快く思わない貴族の噂を耳にした。

 そいつらは暗殺を企てていて、三国を繋ぐメイアを共和国で亡き者にすることによって不和を起こし崩壊させようというものだった。


 正直杜撰な計画にも思えたが共和国が崩壊してはメイアが悲しむと思い調べることにした。


 結果、噂は本当で数週間後にはメイアが共和国に来訪し、ヘンダーソン侯爵家で盛大なパーティーを開くという。

 これは大変だと危惧した俺は秘密裏に邸を抜け出し、メイアを救うべくヘンダーソン侯爵領へと向かった。


 婚約者だった頃、一度だけヘンダーソン侯爵領に行ったことがある。

 王都のような華やかさはなく、牧歌的で何もない、つまらないという記憶だ。それは今も変わらずで、俺を捨てて独立したくせになんで何も変わっていないんだと軽く失望した。


 俺ならばもっと人を増やし、家を建てもっともっと繁栄させることができるのに。

 ブランツ伯爵領は狭いし寂れているから、人口が少ないから、カイゼルの言うことを聞かないから失敗続きなだけであって、広く豊かな領地なら自分のプランは絶対に成功すると思い込んでいた。


 その失望はヘンダーソン侯爵家についてからも続き、一国の主(とカイゼルは思っている)になったのになぜ邸をもっと大きく豪勢に建て直さないんだ。

 これでは他国に舐められるじゃないか。侮ってくれと言っているようなものだぞ、と無関係なのにひどく憤った。


 このままではダメだ。暗殺を止められたらヘンダーソン侯爵にもっと主らしく外観を整え見合った生活をすべきだと。でないとメイアも恥をかくと一言言ってやらねば!



 目的が増えたことで俄然やる気になったカイゼルはヘンダーソン侯爵のパーティーに潜入しメイアが来るのを待った。

 狙うとしたらこのパーティーで飲み物に毒を仕込む暗殺だろう。二度もメイアを毒殺しようだなんて言語道断!

 犯人を捕まえてメイアに突き出してやる!!



 会場内が一層賑わう歓声が聞こえた。メイアとジュリアスディーンが入場してきたのだ。


 隠れていなくてはならないので近寄れないが招待客の間から見えたメイアは一層美しくなったように見えた。

 顔も目も唇も、髪やドレスだってどれもが光輝いているように見える。カイゼルは再び失ったものの大きさをひしひしと感じた。


 あんな女神のような美しい女性を毒殺しようだなんて馬鹿げている。暗殺を企てた奴はバカなんじゃないか?

 周りに気を配り、不審者がいないか見張っていたが今のところ怪しい動きをする者はいない。乾杯の音頭もあったがメイアはワインを口にしなかったようだ。


 だがパーティーは始まったばかり。何があるかわからない。いっそ近づいて忠告すべきか?いや、俺が行ってもメイアは困惑して怖がるだけかもしれない。

 もしかしたら会いに来てくれたことを喜んでくれるかもしれないが暗殺者は逃げてしまうかもしれない。確実に今夜捕まえなくては危険だ、と警戒した。


 今夜のパーティーは総勢三十名の参加者がいる。共和国の当主達は勿論のことインサルスティマ王国以外の諸外国の要人も来ていた。

 名目は交流を深めるためだが共和国内の団結を強くする目的があった。


 独立を促した発起人であり立役者であるヘンダーソン侯爵家、インジュード公爵家はその中心にいて、始まってからずっと挨拶をして回っていた。

 カイゼルはそれを密かに監視しながらつかず離れずの距離にいたがメイアが一旦退出したのを見て自分もついて行こうとした。


 自分がメイアを守らなければ、という善意だったが至るところで妨害され出て行くタイミングを逸してしまった。


 くそっメイアに何かあったらどうするつもりだ!と勇者気取りにイラついたが顔が割れている自分が邸をうろついていては犯人を捕まえる前に自分が捕まってしまうだろうと思い直しワインを口にした。

 旨い。こんな旨い酒は王宮にいた時以来だ。


 タイミングよく給仕がワインを持ってくるのでカイゼルは二杯、三杯とワインを飲み続けた。

 そういえば、伯爵代理になってからろくな食事もできていない。俺はちゃんとやってるのに領民が目標の税金を納めないからだ。

 俺のシミュレーション通りに作物を育てれば間違いなく目標を達成できたのに。


 作物という生き物を育てるには計算だけではどうにもならないということをまったく理解してないカイゼルがくだを巻きながらワインを飲んでいると視界にジュリアスディーンが入ってきた。

 あいつは長身でオーラがあるから後ろ姿でもすぐわかる。


 だがあいつのすぐ隣にはメイアでない女が侍っていた。

 メイアのいぬ間に浮気をするつもりか?この俺からメイアを奪ったくせに生意気な!と酔った頭で勇み足で向かえば女が話していた貴族と一緒にフフフっと笑った。


 どうやらジュリアスディーンのために貴族を紹介しているらしい。あれ、面倒臭いんだよな、と少しジュリアスディーンに同情していたら女が自分の父親を紹介しだした。


 顔繋ぎしてインサルスティマ王国で商売でもしたいのだろう。問題しかない領地もなく身軽なハイネック伯爵は軽快に笑っていた。お気楽で羨ましいことだ。


 そんなことはどうでもいい。ジュリアスディーンよりもメイアだ。そろそろ戻ってきてもいいはずだがまだ戻らないのか?

 いや、今戻ってきたらジュリアスディーンは浮気を疑われないだろうか?


 あの伯爵令嬢との距離が妙に近いし親しげだ。もし修羅場になってメイアが傷ついたら俺が手を差し伸べるのはどうだろう?

 手を取って一緒に逃げようと言ったら喜ぶだろうか?それとも恥ずかしそうに微笑むだろうか?


 断られる、という想像を意図的に消して妄想を楽しんでいると、ハイネック父娘は楽しげにジュリアスディーンを褒めちぎった。

 政治的采配もさることながら先のゼェーヴァ戦争での功績が一番だと。それを聞いてカイゼルは冷や汗を流した。


 そのゼェーヴァ戦争はインサルスティマ王国が関わった中で一番血が多く流れた戦争だった。

 敵は勿論のこと自国の兵士も多く血を流した。交戦中に第三国が介入してきて両国の兵力を削ごうとしたからである。


 劣勢だった流れをひっくり返し勝利を得るまで戦い続けたのはジュリアスディーンで、そこから『インサルスティマの悪魔』として恐れられることになったのだ。


 だがあの戦争自体は褒められたものではなく暗黙の了解として意図して話題に出さないようにされている戦争だった。

 それをわざわざ選んでくるなんて共和国は何を考えている?!ぎょっとして見たがジュリアスディーンも誰も咎める者はいなかった。

 メイアの実家が名を連ねている国だからその程度なら問題ないということだろうか?


 まさか知らないなんてことはないだろうが周りの貴族も笑みを浮かべたままハイネック家をただ眺めているだけだった。






読んでいただきありがとうございます。

今日中に全部上げます。

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