【番外編】 ドゥーパント姉妹の末路 (前)
ランキング入りありがとうございます。
お礼というには殺伐としてますが姉妹へのお仕置きを入れておきます。
※ドゥーパント姉妹の姉の視点でお送りします。
※後半喉を潰された後の会話がありますが本人は気づいていないので濁音なくお送りします。
政略だからと不満に思う子供はそれなりにいる。けれどどこかで見切りをつけて受け入れるしかない。
今回の婚約破棄をゲームにしようと言い始めたのはドゥーパント姉妹だった。
その頃の姉妹はまだカイゼルを落とすつもりでいて、気を引こうとサロンに頻繁に出入りしていた。そうすればメイアが嫌がるとわかっての行動だ。
メイア・ヘンダーソンのことは最初そこまで嫌ってはいなかった。公爵家の次に爵位が高い侯爵家だったしどこにでもいるつまらない令嬢だと歯牙にもかけていなかった。
毒殺しようとしたのはお母様や叔母である王妃様が願ったから。
友達でもないし、下の貴族が上位である自分達に命を捧げるのは当然の義務だし、母の言葉は絶対で王妃様の言葉に間違いなどあり得なかった。
もちろんお母様や王妃様はメイアやヘンダーソン侯爵家が裏でどんな悪どい所業をしているかを突き止めており、メイアを屠ることでカイゼルを、国を守ることに繋がるのだと教え込まれた。
姉妹からすればそんな理由はわりとどうでもよく(それすら冤罪だったが)、自分達が王族になれる機会をメイアに奪われた怒りの方が上回り毒殺お茶会を行った。
だがメイアはしぶとく生き残り、そのせいでドゥーパント家は降爵されてしまった。
たかだか侯爵令嬢が毒を飲んだくらいで、なんでドゥーパント家が伯爵に落とされなくてはならないの?!と怒り狂ったが元に戻されることはなく姉妹はメイアを憎んだ。
なんて愚かで恥知らずな女だろう。カイゼル殿下の婚約者になれたから調子に乗っているのだわ。だから上位であるわたくし達がしっかり調教して誰が上か教えてやらなくてはならない。
そんな風に姉妹は自分の都合のいいように理解しメイアと敵対していった。
早い段階でサロンを陰で掌握すると今度は姉妹こそカイゼルの婚約者に相応しいのだと知らしめるように動き、周りを洗脳していった。時にはお金や王妃様に圧力をかけてもらい、誰もがドゥーパント姉妹に媚びへつらった。
カイゼルはくだらない政治の話ばかりしたがるからつまらなかったが、他の令息達が零す婚約者への愚痴はなかなか面白かった。
彼らは姉妹達を信用して話しているらしかったがこれは使えるとほくそえんだ。
女の世界も情報がものを言う世界だ。彼らは婚約者達の弱味を教えたということに気づいていない。社交界を牛耳る前の前哨戦として丁度いいと姉妹は嗤った。
『だったら婚約破棄してしまえば?真実の愛があれば婚約者も配慮が足りなかったと反省するし、破棄してもこちらに痛手なし。だって相手が悪いんだもの。それで本当に好きな人と婚約するの!素敵でしょう?』
『真実の愛なんて素敵!ねぇ、みんなでやってみましょうよ!』
メイアを尊重しているカイゼルの受けはあまりよくなかったが、どうでもいい(男受けだけはいい)男爵令嬢が食いついてきたお陰で令息達をうまく誘導することができた。
盛り上がっている仲間達に水を差すほどカイゼルも野暮でもないし、なし崩しだが彼の許可がおりたことで周りは俄然やる気になった。
試しにやってみると立ち上がった一組目が破棄に成功しサロンメンバーで仲の良い令嬢と新たに婚約した。そうなると他も追随したくなるもので九組中九組が成功した。
ドゥーパント姉妹は婚約者を奪い取った優越感と先導し学園を支配している錯覚に酔いしれていた。だからか未だにカイゼルの婚約者におさまっているメイアが鼻についた。
婚約が破棄されるよう姉妹は常にカイゼルにくっついて歩きメイアを牽制し、時には見せつけるようにカイゼルの腕に絡みつきしなだれかかった。
胸の大きさと柔らかさにカイゼルは鼻の下を伸ばし、姉妹に釘付けになるせいでメイアがどんな顔をしているか気づかない。
その悲しくも悔しそうな顔を満面の笑みで見返し嗤ってやった。勉強しかできないつまらない女よりも存在価値があるのはわたくし達よ、と勝ち誇った。
そのうちそれだけじゃ物足りなくなってドゥーパント夫人に協力してもらいながらメイアの悪評を流した。
学園で孤立するように王妃教育を無駄に忙しくしてもらい、メイアの友人達を苛めるようになった。
その過程でセシールとマディカの婚約者がカイゼルの側近でサロンメンバーだと知り、彼らを煽って、男受けはいいがしょぼい家格の男爵令嬢を使って婚約破棄させる舞台を整えた。
結果は大成功。
メイアは友人達が学園を追い出されどうにもできなくなってから知ることとなり姉妹は涙を流しながら大笑いした。
残念ながらメイアの卒業式に婚約破棄をさせることはできなかったが解消になり『ざまぁ』と母娘で喜んだ。
その後自分達はカイゼルの婚約者ではなく、カイゼルよりも話が合い、そこそこ財があり、嗜好が近い令息らと結婚することにした。
だってカイゼルってば婿入りするのに傲慢で婿の自覚もないしちっとも女性を敬わないんですもの。
王妃様には悪いけど、いくら権力があっても彼との結婚生活なんて考えたくないわ、と姉妹揃ってカイゼルを選ばなかった。
『あなた達のどちらかにカイゼルと結婚してほしかったのに…』
そう嘆く叔母様には今までよくしてもらったしお母様にも協力するようにと言われたのでカイゼルか第一王子、第二王子の子供を生むことは承諾した。
だって王子の子を生めば自分が国母になれるのだ。王妃なんて最高じゃない?
王妃の仕事は叔母様のように第一王子妃にやらせればいいのだし、わたくし達は社交界で持て囃されながら自由に過ごすの!夢のような話だわ!
え?今の家はどうするんだって?勿論こっちでも後継者を生むわ。高貴な血筋ってモテモテで大変よね。でもそれが高貴な一族の運命だもの。乗り越えてみせるわ。
それからとくに何事もなく一年を過ごした。
本当は第一王子妃が子供を生む前に姉の方が第一王子の子を生むはずだったがうまくいかず、妹の方も第二王子に出禁を言い渡されてしまった。
祖父であるブランツ公爵が色々手を貸してくれているのだけどなかなか一夜を共にできない。
第一王子妃を牽制したり圧力をかけてもらったりしたが彼女の実家である公爵家から直々にドゥーパント家へ苦情が届き、震えたお父様の白髪の毛がハラハラと秋の枯れ葉のように落ちていった。
これはきっとその前にドゥーパント家の跡継ぎを生めということではないか?と妹の結婚式の話をしながらお母様とそんなことを話した。
妹にも無理をするとお父様の髪の毛が不毛地帯になると教えて先に家の跡継ぎを生むべきよと話した。
そうして妹も結婚してお互い旦那様との子作りに勤しんでいたがどちらもカイゼルと子を成そうとは言わなかった。
抱いてほしいと願えば恐らく人妻でも彼は一夜限りの相手として抱いただろう。
そこで子ができれば王妃様がなんとかとりなしてくれるだろうが、結婚して男を知ってしまった姉妹はカイゼルだけは嫌だな、と思ってしまった。
貴族だから、政略だから、と我慢するにはカイゼルはボンクラで自分達につりあわないと見抜いたからだ。
だって彼はメイアと婚約解消になった後も婚約者気取りでいるし、毒殺しようとした姉妹達にもまだいい顔をし、かといって新しい婚約者として選びもせずサロンメンバーとただただ無意味な夢を語り合っているのだ。
そんな夢ばかり見るお坊ちゃんにすり寄るよりは次期国王の第一王子やスペアの第二王子の方が益になると考えるのは自然なことだろう。
それに噂ではよりにもよって男爵令嬢と関係を持ち、子供まで孕ませたと言うではないか。隠しているが自己顕示欲の塊であるあの男爵令嬢が黙っていられるはずがない。
日に日に尊大になりニヤニヤと勝ち誇った顔でチラチラこちらを見てくる視線に何度腹を蹴ってやろうと思ったことかわからない。
宗教上、堕胎は許されず妊婦を虐げることは地獄に落ちるとされているので苦々しく見ているしかなかったが、愛人未満の下等な女と子供を作ったところで相続争いの火種にしかならない。
そんなことは知っていて当然の知識だ。にも関わらず軽率に子種をばら蒔いたカイゼルを姉妹は嫌悪した。
あんな女と契るくらいなら侯爵位のメイアの方がまだマシだと思うくらいには姉妹の方が血筋や家格をちゃんと考えていたし、だからこそ王家という重みを軽視するカイゼルへの失望は大きかった。
しかし王妃様の要望と現状はカイゼルが一番脇が甘く御しやすい位置にいる。
心の中で早く旦那様との子を宿してしまおうと姉妹は誓った。カイゼルとの子供はその後でもいいでしょ。その時はそう考えていた。
風向きがいきなり変わったのは妹やカイゼル達が卒業し、妹が盛大な結婚式を上げてから少し経った頃だった。
母親のドゥーパント夫人と姉妹は親戚のブランツ公爵家で贅沢な暮らしをしながら王都暮らしを満喫していた。
ドゥーパント家のタウンハウスが差し押さえになり憤慨したが、王妃様がブランツ公爵家に住むことを許可してくれたのだ。
その王妃様が寄越した招待状を持って王宮に向かい、それぞれ旦那様にエスコートしてもらって楽しく過ごしていたが、ドゥーパント伯爵家の栄光はそこで潰えた。
貴族牢から出られたのは二週間ほど経ってからだった。その間にメイアはジュリアスディーン様と共にインサルスティマ王国に帰ったらしい。
未だにあの傷物が結婚しただなんて信じられなかった。
そのことも含めて抗議したがなぜか誰も取り合ってくれず、肝心の王妃様との面会も叶わなかった。
解放されるとお母様に抱き締められ、外に出るとお父様が疲れた顔で待っていた。昔はもっと格好良かったのにくたびれた頼りない父にうんざりとした気持ちになった。
だが迎えに来てくれたのだからお礼だけ言って乗り込んだ。妹はセンダース侯爵家の馬車が来ていたので後で連絡をすると約束し別れた。
まさかそれが妹と最後の会話になるなんて知らなかった。
てっきりブランツ公爵家に帰るのかと思ったが道がおかしい。どんどん家がなくなっていく。しかも道が荒れていて気持ち悪くなった。
何度止めてと言っても誰も言うことを聞いてくれずお父様は難しい顔でわたくしを睨みつけるだけで希望を叶えてくれなかった。
伯爵に落ちてからのお父様は融通がきかなくて扱いづらいわ。一緒にいても楽しくない。
だからお母様と一緒にお父様の愚痴や文句を遠回しに言い合っていたのだが馬車があまりにも揺れるのでそれどころではなくなってしまった。
数日馬車に揺られ続けやっと止まった場所は寂れた小さな邸だった。これでは誰かが泊まりに来ても一組か二組しか泊まれない。
自分の部屋すらブランツ家の半分以下しかなさそうだ。ドレス部屋よりも狭かったらどうしましょう、とお母様と囁きあった。
「今日からここがお前の住む家だ。お前の夫はすでに生活を始めている。わからないことは彼に聞きなさい」
そう言ってわたくしだけを下ろして両親が乗った馬車は行ってしまった。どういうこと???
わけがわからないまま始まった生活は地獄だった。ドゥーパント伯爵家の敷地内だが本邸からそれなりに離れていて周りには何もない。
邸もブランツ公爵家のタウンハウスの十分の一くらいの大きさしかない。見た目も古くてダサくていかにも田舎だし庭も小さくダサい。ガゼボもない。お風呂に浮かべる薔薇すらなかった。
店どころか家も見えない田舎に悲鳴をあげた。ここは伯爵領なのだと理解できたがなぜわたくしがこんなド田舎に住まなくてはならないのか理解できない。
道も湿った土や砂利でヒールでは歩きにくく馬車もない。歩いて街に行けってこと?!とキレた。
きっと両親は二人だけで楽しく贅沢をしているんだわ!なんの嫌がらせかわからないけどいい加減本邸に戻してよ!と何度も何度も手紙を送ったが返事はなかった。
仕方なく会わない間に一気に老け込んだ(最初気づけなかった)旦那様に聞いてみると彼は聞き取りにくい、しゃがれた声で話してくれた。
家同士の政略結婚をいくつも潰し、『国王陛下の臣下達』に損害を与え、被害者の元婚約者達に関しては次の婚約や結婚に悪影響と辱しめを与えたことが罪になるとして今更婚約破棄した相手の家に慰謝料を払うことになったというのだ。
自分と旦那様を合わせて支払う金額は今まで作ったドレス十数着分だがそれを働いて支払わなくてはならないと聞き悲鳴をあげた。
そんなことをなんでわたくし達がしなくてはならないの?悪いのは婚約者だったあいつらじゃない!
しかも辱しめられたあいつらもなんだかんだと結婚できたとか言っていたではないか。今更文句を言うなんて筋違いだわ!と怒った。
二人は抗議文を何度も王宮に送ったが返答は一度もなかった。
そのうち旦那様はサロンで話していた領地経営のプランを実行して稼ぐと言い出したので、ならばわたくしは社交界に行って宣伝し融資を募ろうと仕立て屋を呼んだ。
まっすぐこのド田舎に来てしまったのでブランツ家に置いてある好みのドレスがひとつもなかったからだ。
だが仕立て屋は来ないしブランツ家に預けてあるドレスも届かない。
言うことを聞かない使用人に八つ当たりして抗議すればお父様がやってきて、お目当ての仕立て屋が来ることはないしドレスはヘンダーソン侯爵家への慰謝料代わりに買い取ってもらったからないと返され悲鳴をあげた。
あのドレスがいくらすると思っているの?!なんで今更ヘンダーソン家なんかに慰謝料なんか支払わなきゃならないのよ!!あのドレスをどれだけこだわって作ったものか知らないからそんな横暴なことができるのだわ!とお父様を責めた。
「あのはしたないドレスでは価値がないとパーツに切り分けて売るしかなかった。作るならもっと価値があるドレスを作ってほしかったよ」
あの斬新で扇情的なドレスは凡人では理解できないらしい。有名なデザイナーを使っているのに価値が認められず、買い取るにはどうしても予定の価格よりも値を下げなくてはならなかった。
こだわって作ったドレスが切り刻まれた上に価値を悉く下げられたと聞かされたわたくしは信じられないと悲鳴をあげた。
更にはドゥーパント家とセンダース家は十年も社交界の出入りを禁止され、五年も領地に封じられることになったと聞き卒倒した。
―――正しくは生涯領地から出られないのだが父親が可哀想だと同情し本当のことは伝えなかった。―――
これでは社交シーズンになっても行けないじゃない!
現在社交界を仕切っているのはドゥーパント家で流行を作るのも話題の中心も自分達なのだと自負していた。
自分達がいなくなればこの国の社交界は悲惨なことになる、だからどうにかしてほしいと切実に訴えたが決めたのは国王陛下だからとお父様は取り合ってくれなかった。
「だったら王妃様に!叔母様にお取り次ぎを!!わたくしがこんな目に遭っていたらきっとお怒りになるわ!!お祖父様だってこんな蛮行お許しにならないはず!」
可愛がってくれていた二人ならきっとわたくしを救ってくれるはず。国王陛下の言葉など簡単にひっくり返してくれるはずなのだ。
そんな期待を抱いたがお父様の言葉であっさり崩された。
「王妃様は心を患われ懺悔の塔で療養されている。実質幽閉となった。もう二度と表舞台に現れないだろう」
叔母様は離縁は免れたもののジュリアスディーン様に数々の無礼を働いたとしてあわや処刑されるところにまで至ったのだそうだ。
それをお祖父様が身代わりになることで幽閉となりお祖父様は二つも降爵され王都にあるタウンハウスは没収、領地を半分以上取り上げられ残った僻地に封じられることとなったと聞いた。
ということはお祖父様も叔母様もわたくしを助けてくれない??そんな!と悲鳴をあげた。
懺悔の塔は王家の罪人が最後に向かう場所だ。ピンデッド侯爵領から程近い孤島にあり世情とは無縁の世界で海風に晒されながら生涯を終える場所だ。
しかもあそこは近いわりに海流が激しく泳いで渡ることは不可能。舟も管轄が袂を別ったピンデッド領なので懐柔し舟で渡ることもほぼ不可能。
ちなみにリリローヌの知識は懺悔の塔はとにかく遠い辺鄙な場所にあってそんなところに入れられたら最後、王妃様は二度と出られないんだろうな。という感じで止まっている。
心配とか助けようとか叔母を慮るような気持ちも言葉も一切出てこなかった。
また降爵したブランツ伯爵は一人僻地に封印されるにあたり資産もかなり減らされていた。病身なので専属の医者はつけられたがそれだけで伯爵にしては慎ましく生活する分しか予算を渡されなかった。
また使用人も最低限、その使用人も長年ブランツ家を支えてくれた者達ではなく、手駒でもなく第一王子妃派閥の公爵家から放たれた刺客で構成されているのだが、カイゼルの次に可愛がられていたリリローヌがそこに気づくこともついぞなかった。
そんなことよりも〝このままでは自分はもっと不幸になるかもしれない〟という現実の方が重要で、自分を助けてくれる人を欲していた彼女は目の前の父親に縋りついた。
「お父様なんとかしてください!!」
降爵されてからお父様との関係はギクシャクとしていて良好とは言えないがわたくしは血が繋がっている愛娘。しかも家を継いだ当主だ。
これだけ泣いて懇願すれば、家のためなのだから嫌とは言わないだろう。
そう期待を込めて見つめたが『私ではどうにもできない』とすげなくされ『お前はもう当主ではないのだから何もせず静かに暮らしていくように』と言って邸を去っていった。
わたくしが当主じゃない?どういうこと??
読んでいただきありがとうございます。