肆話:なきり外泊 其壱
ー壱ー
「うんうん、皆時間通りに集まったみたいだね!さあ、いざわたしの家に、レッツラゴー!!案内はわたし達、『ハルハルコンビ』にお任せを!!」
「……僕、はるあの家知らないんだけど」
幽真は困ったように肩を竦める。
はるあは相変わらず明るい子だなぁ、と九院坂尊命は微かに口角を上げ、静かに可愛らしい様子を眺めていた。
おおよそ11時、予定通り師走駅の改札前で私達は集合した。
合計人数ははるあを含めて十二人、一人足りない様だが……。
「あら?ことりさんがいらっしゃらないようですわね」
「ほんとだ。今日来るって言ってたのにね」
同じ反応をしたのはふじとつつで、私の親友だ。
はるあに人を集めるよう頼まれたので、二人を誘う事にしたのだ。
幽真も同じくセイギ君とカナタ君という友人を呼んだらしい。
「ことりははるあの家にもう着いてるんじゃないか?こいつら、仲良いからな」
「そのと~り!!流石は文武両道の優等生、等々力鳳翔!理解度が高くて助かるよ!!」
「そんな俺、褒められるような質じゃないけどな。ただの一般的な体育系男子だし。それと最初の台詞、どこぞの大手ピアノ制作会社みたいだな」
「うん、参考にした」
「参考どころかそのまんまだけどな」
このガタイの良い男子は等々力鳳翔、詳細は概ねはるあの説明通りの人物だ。
生徒からの信頼も厚く、一部の間では『一年部の番長』とも呼ばれているらしい。
参加の経緯は以前よりはるあ家と親交があるからだそうだ。
「さてさて、いつまでも立ち話も何だし、ささっと家まで行っちゃおー!!えー、まずぅ、皆様の目の前に広がる此処はぁ、磐戸の交通拠点、師走駅でぇ、ございまぁす!!」
「すまない、一つ質問する。はるあよ、案内役は頼んだが、ガイドさんの真似事までは頼んでいないのだが」
「えへへへ、わたしね、一度ガイドさん、やってみたかったんだー。どぉ、セイギ君。わたしのガイド、上手いかな?」
「残念だが俺はガイドさんがどのような職業なのか把握しきれていないのだ。なのであくまで私的な感想となるが……中々に才能があるのではないか、と」
「ほへぇ、セイギって口調は堅苦しいのに優しいんだね!!褒めて貰えて、感謝!感激!ビックハグ!!」
「な!!止めてくれ!!公共の場だぞ!!」
状況としてはセイギ君の身体にはるあが飛び付き、それを払おうとセイギ君が必死になっている。
もう一度言うけど、此処は公共の場。
いちゃいちゃしている一方はクラスのイケメン5に選ばれる程の顔立ちを持つタダシノセイギ。
もう一方は一学年の可愛い系女子代表の安倍晴明。
勿の論、目立たないわけがない。
二人を除いた全員がすぐさま距離を取り、巻き添えから逃れる。
セイギ君には悪いけど、犠牲になっておくれ。
はるあが言ったように、此処、【師走駅】は磐戸の交通を支える場所である。
他県や他市の境目に位置する地区として多くの人々が行き来する。
その上、観光名所として有名な湖【朧湖】がある事でより一層人々が集まる。
そんな所で人々からの注目なんて集めたくもない。
「やぁ、九院坂さん。君も参加するんだね」
背後から見覚えのある声が掛かる。
相手はご存知、白神縊齋だ。
イケメン5の一角にして、私の仲良い男子の一人。
「いつき君こそ参加するんだ」
「あはは、誘われちゃったからね、安倍さんに。それとさ、君付けしないでほしいな。呼び捨てでいいよ」
「……いつきはさ、はるあちゃんと仲良いの?」
「うーん……普通に会話する程度かな。まぁ、彼女にとっては仲良し判定だったみたいだね」
なるほど、縊齋も私と同類ってわけか。
このイケメンまでもを言い包めて連れてくるとは。
安倍晴明、恐るべし。
「へぇ、九院坂さんも同じなんだね。あ、そういえばさ、あの後どうなった?」
……そっちは名字+さん付けなのね。
私も名前呼び捨てがいいけど、指摘するほどじゃないか。
「あの後って?」
「ほら、この前道端で太久保君に絡まれてたよね。その後、何かされてないか心配でさ」
「それの事か。暫くは太久保君に話しかけられてないね」
あの日以降、下っ端ポジのツクバは絡んでくるが、太久保が話しかけてきた事は無い。
彼が私に何故近づいてくるのか、結局未だに判明していない。
うーん、ほんとに私、何もしてないんだけどなぁ。
「そっか。何かあったら教えてね」
「うん。そうするよ」
やっぱ、不思議だなぁ。
縊齋はそれほど仲が良いという認識では無かったけど、私の事をやたらと気にしてるみたい。
話してる感じ、恋愛感情とかとも違うっぽいな。
さっきの話のように、縊齋が私ととても仲良いって思ってるのかな。
……ていうか、待て待て、落ち着け尊命。
今何故恋愛どうのこうのを考えた?
九院坂尊命はそんなキャラじゃあ無いだろうが!
思い返せば、朝に聞いた『青春』の二文字以降、こうして少しばかり変な思考回路になってるな。
あれ、おかしいな?
『青春』って誰の台詞だっけか。
確かに聞いた覚えはあるんだけどな。
……朝の『お目覚めNEWS』の占い結果だったけ?
「みこと、ちょっといいかな……って、あれ?君は縊齋か」
「あ、君は『ハルハルコンビ』の一角、門廻君じゃないか」
「頼むから止めてくれ、その呼び名」
幽真が私達に近づいてきた。
へぇ、縊齋って案外ノリ良いんだね。
てっきりクールキャラだと思い込んでたよ。
「……縊齋、いつも何かすまん。僕達がちゃんと止めれていたら、休み時間中に君の席が乗っ取られる事はなかったんだけど……」
「あはは、そんな事謝らないでよ。許可したのは俺だしさ。どうせ休み時間はやる事あるわけじゃないから」
「それならいいんだが……一様、後で猿にキツく言い聞かせとくよ」
あー、縊齋の席占領してたの、幽真の友人だったのか。
縊齋にこないだ助けられたのもそのおかげか。
ある意味、そのお猿さんに感謝しなくちゃ。
「はるま、私に用事があるんだよね?」
「あぁ。だけどお邪魔みたいだし、失礼するよ」
「勘違いされるってば、その言い方!」
「ん?二人っててっきりそういう仲なのかと」
「雑に冷やかすんじゃないよ!はるま、私の性格知ってるでしょ?」
こやつ、そっち系のノリもいけるクチであったか。
うーむ、意外。
まだまだ幽真の事知らないんだな、私って。
「いやいや、違うよ。九院坂さんは俺のごく普通な話し相手だよ。もう話も一段落ついたし、九院坂さんを持ってっちゃいなよ」
「縊齋、それはふざけて言ってるんだよね?幽真の虚言だって、理解して言ってるんだよね?」
幽真のおふざけは一瞬で理解したが、いまいち縊齋の考えが分からない。
理解してるのか、理解していないのか。
ふざけてるのか、それともふざけていないのか。
彼の感情はとても読み取りにくい。
顔に浮かんでいるのは常にイケメンの笑顔のみだ。
「ふふ、さぁどうでしょう。じゃあ、お邪魔者は退散しますかね」
そう言って縊齋は私達から離れていく。
……ふざけてたんだね、やっぱ。
地味に幽真の台詞を引用しているのが評価高いね。
うん、10点中9点。
マイナス1点は私の多少の憤り分。
「縊齋とみことはどういう関係なんだ?」
「縊齋の言った通りの関係だよ。友達というか、知り合いというか……そんな感じの人。はるまの友達ーーお猿さんのおかげで、休み時間に話すきっかけが生まれたんだよねぇ。そういや、お猿さんって人、クラスに居たっけ?」
「……猿は猿さ。賑やかで面白いお猿さんだよ」
回答になっていない。
幽真の言いたい事は分からないが、相当性格の良い人みたいだ。
今度話しかけてみよっと。
「で、あの件、だよね?」
「ご推察の通り、あの件だよ。クラス内の【霊能者】の件。前にも言ったけど、このお泊り会に相手も参加してる可能性があるから……」
もし例の【霊能】関係者が私達の存在に気が付いていたとしたら。
その場合は、向こうから接触を図る可能性がある。
その時、クラスの一部が集まるイベントに相手が参加しない手は無いはずだ。
私達を知らなかったとしても、偶然参加している可能性だってある。
どれもこれも可能性の話だ。
しかし、もしも相手が紛れているのであれば……。
ふじも、つつでも、幽真の友人も、安倍晴明も、白神縊齋も、小鳥遊言吏も、等々力鳳翔も、その他参加者さえも、十分に……いや十二分に気をつけなければならない対象なのだ。
「そろそろ家に向かうぞー!!おーい、皆どこ行ったのーー!!早く集まってー!!」
駅の構内にはるあの明るく可愛らしい声が響く。
「時間みたいだね、行こっか」
「うん……お互い、慎重にね」
多くの人が過ぎ去る駅のホーム。
クラスメイトとの交流の為、クラス内の【霊能者】を探す為。
私達はこれから起こるお泊り会での物語に、少しの不安と期待を抱く。
これから交わる【縁】を、まだ私達は知る由も無い。




