第91話 学院二年目 ~補修課題
投稿、再開します。
今回は全17話、第107話までの投稿となります。
字数は14万文字です。
早朝の日差しを浴びながら、盥の練り土に集中する。
発動するのは《水流操作》と《軟土操作》の『多重詠唱』。
魔力が練り土に浸透し、意識と同調していく。
ここからが難しい。
『多重詠唱』は複数発動できるだけで、連動しているわけではない。
特に今回は、一つの対象を二つの魔法で操作しなければならなかった。
練り土の固形分と水分を、ゆっくりと動かす。
ダニルに『多重詠唱』について問われたとき、両手を発射台に見立てると例えた。
今の作業はそれに加え、寸分も違えることなく二台を操作するに等しい。
町にそよぐ春風が額の汗を揺らす。
それが目に入るのも構わず、練り土の蔦を伸ばした。
蔦は生き物のように外壁を這い、しばらく躊躇した後、どうにかひび割れに侵入する。
第一段階、突破だ。
この先は視認できないので、指定の方向に動いたかどうかで判断しなければならない。操作系は操作対象がどこにあるかは分かっても、感触は伝わらなかった。
練り土の蔦を動かし、総当たりで隙間を埋めていく。
あまり先端に集中しすぎると盥からの供給が途切れてしまう。
常に全体を意識しつつ、手作業の補修で届かなかった部分だけでなく、風雨で剥落してしまった箇所も埋め直す。
次第に操作も慣れ、何度も練り土を作っては黙々と作業を続けた。
しばらくして、すべての補修が終わる。
大きく息を吐きながら、額に浮いた玉の汗を拭った。
ステータスを確認すると、《火炎球》数発分の魔力を消費していた。
操作系の基本操作は簡単だが、少し複雑になると急激に消費魔力が増え、難易度も跳ね上がる。精神力が数値化されていれば、こちらもかなり消費していたと思う。
「これで乾燥すれば完成だが――」
見た目が悪かった。
俺は適当な板を探し出し、埋めた箇所を均し始める。
セレンでの学院生活は二年目を迎えた。
二年や三年は少し長い春休みの真っ最中である。
今日辺り、新入生が規則などの説明を受けている頃だろう。
寮生活ならそんな初々しい光景も拝めるが、俺には我が家の修繕が最優先である。
先日、ようやく《軟土操作》と《妨土の壁》を習得し、《水流操作》も合わせて補修魔法セットが揃った。新入生を冷やかしに行ってる場合じゃない。
それと《軟土操作》習得過程で、《魔力操作》も覚えた。
補修には使わないので優先順位は低かったのだが、ちょっとした経緯があって鍛錬に追加していた。
《妨土の壁》を教わりがてら、ヘレナに操作系について質問したことがある。
用途不明の魔法なので生徒の人気はかなり低く、俺以外は見向きもせず、そんな俺でも補修が終われば使い道が見当たらなかった。
ヘレナは面倒そうに、
「操作系は魔法の精度や理解に影響する。講義で話しただろ。それと……ラッケンデールに訊け」
と、途中で変人仲間に放り投げた。
投げられた方の変人は、熱心な講師でもある。
同じ質問をぶつけると、懇切丁寧に続きを教えてくれた。
「アルター君に必要なのは、《魔力操作》だね。魔力を操作して魔道具や魔法に触れようとすると、発する魔力に弾かれてしまうんだ。《魔力操作》を使える熟練の魔道具職人は、魔力の形や状態で色々分かるみたいだよ」
興味深い話である。
『魔道具作成』に関わるならと《魔力操作》の鍛錬開始、すでに《水流操作》を覚えていたので、比較的容易に習得できた。
早速、青藍のマントを魔力の蔦で触れてみたが、期待に反し、何も分からなかった。
しかし軽量の両手剣に触れたとき、両者の違いに気付く。
青藍のマントは滑らかだったのに、軽量の両手剣は酷くざらついていたのだ。
散々いじくり回し、推論する。
完成度の違いではないかと。
青藍のマントは限界まで能力を引き出しているが、軽量の両手剣は余裕がある。おそらく、素材や触媒の潜在能力を引き出しきれないまま、魔道具になってしまったのだろう。
それから《軟土操作》を覚えたのだが、こちらはもっと早かった。
『多重詠唱』で《一握の土》を発動し、《魔力操作》を重ね合わせる。本来は同調しないのだが、何度も繰り返すと不意に魔力が土に染みこみ、《軟土操作》を習得できた。
この調子で操作系をコンプリートしても良いが、まずは補修だ。
均し終えると、裏庭で大きな袋を担いで二階に運び込んだ。
そして半壊した部屋を眺める。
補修した壁には、水漏れの跡がそこかしこに染みついていた。
《礫土の盾》の瓦では無理があったらしい。こちらも補修し直しだ。
まずは屋根という名の板を下ろし、壁に立てかける。
この板を屋根と言い張るのも今日で最後だ。
雨に濡れたり突風で吹き飛ばされたりと、分不相応な役割をよく頑張ってくれた。
板に感謝を捧げ、さわやかな空を見上げる。
第二の人生は――なんか考えておく。
天井から隙間だらけの壁に視線を戻す。
操作系は奥深いが、防壁系もなかなかである。
角度は自在に変えられ、形状もある程度は指定できた。普通に発動すると脆弱な土の壁にしかならないが、込めた魔力や触媒の影響で強度も様変わりした。
また、どれだけの魔力を込められるかは個々の資質に左右されるようだが、こちらは問題ないと思う。
それと、前にヘレナは「屋根や壁を触媒とし、補修する」と言っていたが、要点が欠けていると分かった。
屋根や壁を触媒とするのは、無事な部分もまとめて再構築する必要があるからだ。そうしなければ強度にムラができ、新たな破損の原因になってしまう。
そういうわけで、俺は袋を開いて中身を床にぶちまけた。
河原で拾ってきた小石である。
天井は半壊しているため、代わりの触媒だった。
「まずはやってみるか。失敗したら――そのとき考えよう」
俺は裏庭に戻り、何度か往復して袋を積み上げていく。
そして悩んだ挙げ句、先に壁の補修をすることにした。
小石の山を壁際に寄せ、集中する。
隙間のない石の壁。
イメージをしっかり固め、《妨土の壁》を発動した。
その途端、体内から魔力がごっそりと抜けていく。
これは思ったより……。
壁と小石に魔力が浸透していくのが分かる。
だが、まだ足りない。
すでに中級魔法の倍は魔力を消費していた。
それでも流出が止まらない。
《妨土の壁》は触媒の有り無しで発動速度が大きく変わる。
無ければ石壁でも一瞬だが、有りでは魔力が浸透するまで時間が掛かってしまう。
それでも、これは遅い。
やばい、まだ浸透しないのか。
操作系を使いまくったから、魔力は万全ではない。
もしかして、何か失敗したか?
中止が脳裏に過った頃、ようやく流出が止まった。
すると突然、目の前の壁が消滅し、轟音を立て新たな壁が出現する。
「どうにか成功したか……。これほど魔力を使うとは。ちょっと焦ったぞ」
雑な補修跡は消え失せ、のっぺりとした石壁が視界に広がっていた。
安堵の息をつき、その場に座り込む。
やってみて、よく分かった。
便利な《妨土の壁》があるのに、石工を見かけるわけだ。
触媒有り――特に石を使うと、とんでもない消費魔力だった。通常の五倍は失っている。
こんなものを気軽に発動できるのは高レベルの魔法使いくらいだが、滅多にいないし依頼料も高額である。それなら材料費が掛かっても、石工を雇った方が遥かに安い。
手を伸ばして壁を撫でてみると、石の冷たさが伝わってきた。
塞いだだけで装飾も何もない。無機質で白っぽい石。
俺には充分でも、貴族や金持ちには受けが悪そうだ。
ステータスを開き、今の消費と残り魔力を照らし合わせる。
大丈夫そうだ。
俺は立ち上がり、残りの小石を床にばら撒いた。
そして屋根の一部と小石を触媒に、今度は屋根を生み出す。
振動と轟音の後、青空が消え、壁と同じ無機質な天井が出現する。
隙間どころか継ぎ目も見当たらない。見事に融合している。
そうイメージしたにせよ、石材が溶け合うのは魔法ならではだな。
今度は外に出て、外観を眺めてみた。
「ちょっと……出っ張ってる?」
十数センチ、新たな屋根が壁からはみ出している。
内側ばかり意識し、外はまったく考えなかったな。
やり直すくらいなら削った方が早いが――魔力も乏しいし、また今度にしよう。
ともかく、これで我が家の補修は完了だ。
その後、労働の成果を眺めながら休息していたが、折角なので報告しようと思いつく。
休日の学院を訪れてみると、敷地内は閑散としていた。
一年前に見たのと同じ内容の張り紙を眺めつつ、俺は学舎に入る。
教室の方に無数の気配を感じるのは、新入生が説明を受けているのだろう。
「アルターです。ヘレナ先生、いらっしゃいますか」
目当ての部屋をノックすると、返ってきたのは長い沈黙だった。
いつものことである。これまで何度か訪れたが、一度で開いた試しはない。
コディをそばに置くラッケンデールと違い、ヘレナは助手を長居させなかった。
だからヘレナの気が向かないといつまでも待たされる。運が悪いと気付きもしない。
ちなみに助手は別室で自分の研究に没頭しており、会ったのは数えるほどだ。
しばらく待ってから再びノック。
またもや沈黙が続き、ようやく扉が開いた。
ヘレナは興味なさそうに俺を見下ろすと、何も言わずに奥へ引っ込んでいった。
部屋に入り、頭を下げる。
「ご指導のおかげで《妨土の壁》を習得できました」
「石壁か?」
「はい。かなりの硬度かと」
ヘレナは羊皮紙にペンを走らせ、放り投げてくる。
それには二人分の名前と住所が書かれていた。
ケイティと――ドバル?
「課題だ」
「どなたを優先しますか」
「ケイティだ。あいつはうるさくて叶わん」
「分かりました。今日は魔力が残り少ないので……近日中でよろしいでしょうか?」
「好きにしろ」
俺は一礼し、ヘレナの部屋から退出した。
廊下を歩きながら、改めて羊皮紙に視線を落とす。
早速、補修作業に送り込まれるか。
自宅で実践したが、まだ不確かなことが多い。
課題をこなすのは、もう少し試してからだな。
◇◇◇◇
数日が経過し、俺はケイティの家に向かった。
森で実験を繰り返したことで、大まかながら《妨土の壁》を理解できた。
今なら大抵の状況に対応できると思う。
ケイティの家は職人街の裏路地にあった。
壁に打ち付けられた小さな看板には、「ケイティの店」と直球の名前が彫り込まれていた。ほとんど表札である。
周囲の作業音に混ざり、目の前の家からも物音が聞こえてきた。
在宅らしいが、音や臭いから鍛冶師ではなさそうだ。
扉を開け、店内を一望する。
これは――何屋だ?
狭い店内に所狭しと置かれているのは、多種多様な品々だった。
装身具や革鎧、椅子もあれば中身のない鞘まで飾られている。
ずいぶん手広くやってる。
無理に分類するなら装飾屋、だろうか。
来客に気付き、奥から女性が姿を見せた。
年の頃は二十歳半ばから後半。髪を後ろで束ね、どことなくラグやエギルに似た雰囲気を纏っている。
「いらっしゃい」
「あなたがケイティさんですか」
「ええ、そうだけど」
怪訝そうに見下ろすケイティに、俺は一礼する。
「僕はアルター・レス・リードヴァルト。カルティラールのヘレナ先生の指示で参りました」
「ヘレナに? まさか、例の件じゃないわよね」
「例の件が補修を指すなら、そのとおりです」
答えた途端、ケイティは額に手を当てる。
「冗談でしょ。あなた、《妨土の壁》を使えるの?」
「もちろんです。数日前から」
ケイティは肩を落とし、ぶつくさ呟き出した。
耳を澄ませてみれば、ヘレナへの罵詈雑言である。
何も聞かされてないのか。まあ、丸投げして終わりだよな、あの人なら。
何にせよ、依頼者が拒否するなら手を出せない。
少し考え、俺は提案する。
「では、もう一件指示を受けていますので、そちらを先に済ませてきます。その間にヘレナ先生に連絡をとっていただき――」
「そういうことじゃないでしょ。意味、分かってるの? 《妨土の壁》での補修は魔法の応用なの。発動できて当たり前、それ以外に大量の魔力や才能が要求されるんだから」
そう言ってケイティは呆れた。
確かに予想以上だった。あれが自宅で良かったと思う。
もし戦闘中に枯渇して昏倒すれば、チートや速度なんて関係ない。あっさり殺されてしまう。新しい魔法は気をつけて使わないとな。
「分かったみたいね。ヘレナには私から言っておくから、今日は帰りなさい」
自省する俺を見て、ケイティは勘違いしたらしい。
俺は手を振り、否定する。
「あ、そっちじゃありません。今のお話に思うところがありまして。補修ですが、僕は人より魔力が多いですし、強固な石壁を生成したこともあります。なんでしたら試しますか?」
「試す、ねえ……」
ケイティは困っていたが、何かを思いついたように頷く。
そして、「こっちに来て」と俺を裏口に招いた。
そこは狭い荷物置き場になっており、木箱などが乱雑に積まれていた。
荷物置き場の端に立ち、ケイティは路地裏との境に打ち込まれた木の柵を指差す。
「ここに腰の高さくらいの石壁を作ってみて」
「触媒は――土しかありませんね。石を使うなら集めてきますが」
「ん? 土で良いけど?」
「分かりました」
ケイティの許可を取り、俺は荷物置き場の隅から土を掘り出した。
石が触媒だと消費魔力は高いが、硬度も高くなる。
対して、土や砂は消費魔力がやや少なく、低い硬度となった。
森で実験した結果だが、土でも充分硬いので実用性に問題はないだろう。
それに依頼者が良いと言うんだから、こちらに文句もない。
土を積み上げると、木の柵を引き抜いてケイティに渡した。
残念ながら木材は触媒にならない。土、石、砂だけだ。
俺は境の前に立ち、幅や長さをイメージした。
《妨土の壁》の標準に比べると、柵は低いし薄い。
何より注意すべきは設置物であること。
通常、《妨土の壁》は謎の原理で簡単に倒れないが、触媒を使って効果時間後も維持する場合、基礎がなければ倒れてしまう。
見える部分も大事だが地中も重要となる。
他には――角を丸めた方が良いな。鋭角では危ない。
脳内の壁から角を削ってみる。
これで良し。
かなり変則的な発動だが、これくらいできないと補修要員失格だ。
「では、いきます」
《妨土の壁》を発動すると、大量の魔力が流れ出した。
標準から外れすぎているためか、消費魔力は石を使うより多い。
ケイティの言葉を借りれば、今回は魔法の応用の応用か。
そしてごっそり魔力を失ったが、どうにか石の壁が構築される。
まともに発動しないと思っていたようで、ケイティは驚きながら石の柵を叩く。
「本当にできるのね」
「一応は。ちょっと丸みは足りないですが」
できあがった壁は、まだ少し角張っていた。
「これだけできれば充分でしょ。硬さだってヘレナより上じゃない?」
「どうなんでしょう、比較したことがありませんので。それで、やりますか」
「魔力は大丈夫?」
「問題ありません」
「じゃあ、お願いするわ」
そう言うと、今度は店内から奥の倉庫へ俺を導いた。
ケイティは大きな板をどかし、煉瓦造りの壁を指差す。
「このひび割れなんだけど。直せる?」
近付き、状態を観察した。
かなりのひび割れで、隙間風――と呼ぶには強すぎる風が吹き込んでいる。
だいぶ床が汚れているので、随分前からこの状態だったようだ。
あの板を壁と言い張っていたに違いない。板仲間だな。
共感を覚えつつ、俺はひび割れを埋める土を運び込んだ。
ほとんどの煉瓦は無事なので、少し土を追加するだけでいけるはず。
俺は煉瓦と土を触媒に《妨土の壁》を発動した。
柵に比べたら、建物の補修は楽である。
瞬く間に壁は消滅し、新たにのっぺりの石壁が出現した。
「また綺麗にくっつけたわねぇ」
「大丈夫だと思いますが、外からも確認をお願いします」
「あ、そうね。見てくるわ」
ケイティは裏口から出て、補修した箇所を確認しに行った。
その間、俺は荷物置き場に向かい、《一握の土》でえぐれた穴を埋めていく。
まだ半分近くの魔力が残っている。
足りなくなるのを心配して消費を避けたが、これなら自前の土でも問題なかった。
次からはそうしよう。
「外も完璧だった……って何やってんの?」
穴埋め作業が終わる前に、ケイティは戻ってきた。
説明すると、感極まった表情で俺の両肩に手を置く。
「あんなやる気のない女から立派な生徒が育つなんて……。お姉さん、感動したわ」
「はあ。なんと応えれば良いものやら」
「残りは私に任せて。こう見えても《一握の土》くらい使えるから。お茶にしましょう」
◇◇◇◇
「先輩だったんですか」
工房に招かれると、紅茶とお菓子を馳走になった。
そして雑談しているうち、色々と判明する。
まず、今回の補修は完全にヘレナのプライベートだった。
ふらりとやってきてはスクロールや魔石、文献類を仕入れるようケイティに依頼するらしく、積もりに積もった貸しが壁の補修となったそうな。
また、彼女はカルティラールの卒業生でもあった。
級友のヘレナは助手として残り、ケイティは手先が器用だったことから大手の工房に勤めたが、反りが合わずに独立、今に至るという。
「うちは雑貨屋じゃないのよ?」
不愉快そうにケイティは言ったが、どこか楽しげにも見えた。
卒業して十年以上も付き合いが続いている。
なんだかんだ言って、仲は良いのだろう。
それにしても雑貨屋じゃない――か。
狭い作業場を眺めると、店内と同じく雑多な品が無造作に置かれていた。
壁には、これまた多様な道具がぶら下げられている。
「装飾の専門店みたいですね」
「まあね。うちは鍛冶以外、何でもやるから」
「少し見させてもらっても?」
「どうぞ」
ケイティの了解を得て、俺は作業場を見学させてもらった。
傷だらけの革鎧から製作中の指輪やブローチ、壊れかけの家具もあった。
ラグニディグとは比較にならないが、腕はなかなかのようだ。
「気に入ったのある? 指輪とかは自作よ。好きなのあげるわ」
「いえ、報酬をもらうわけには。ヘレナ先生の借りですから」
「あなたと関係ないでしょ。外の柵も作ってもらったし、御礼をしないとこっちの気が済まないわ」
それでも断ったが、ケイティは譲らなかった。
装身具は魔道具の素材に使えるのでありがたいが、すでに《妨土の壁》という報酬をヘレナから受け取っている。二重取りはよろしくない。
困り果て、作業場を見渡した。
多様な道具を眺めているうち、ふと思いつく。
「それなら――装飾の手解きをお願いできますか」
「へ?」
「初歩で構いません。道具の使い方や基本的な注意点などを教えてください」
予想外の申し出だったのか、ケイティは呆けた顔になった。
「ええと……職人を目指してるの?」
「いえ、『魔道具作成』のためです。安物の装身具より、自作の方が成功するような気がして」
ケイティは首を捻っていたが、考え考え首肯する。
「専門家じゃないけど、聞いたことがあるわ。素材の出来映えが影響するって。自作なら何かあるかもね。けどさ、少し練習したくらいじゃ大した物は作れないわよ?」
「承知してます。職人を軽んじたりしませんよ。どんなに出来が悪くとも、自作に意味があると思うんです」
腕を組み、ケイティは考え込んでしまった。
彼女は若いし、工房も小さい。受けているのも安い仕事ばかりだ。
それでも職人としての矜持がある。
弟子でもない者に、おいそれと技術は教えられない。
だが――。
「分かった。今はちょっと立て込んでるから、来週ね。基本を教えてあげる」
ケイティは受け入れた。
俺は立ち上がり、頭を下げる。
「ありがとうございます。それと、よろしくお願いします。ケイティ先生」
「先生は止めてよ」
照れながら、ケイティは俺の肩をバシバシと叩いてきた。
痛い。さすが職人。
玄関先まで見送ってくれたケイティに、「では後日」と別れを告げる。
そして姿が見えなくなると、俺は足を止めた。
これは妙案かもしれない。
どうすれば職人から技術を学べるか、ずっと考えていた。
『魔道具作成』は、習得しても終わりではない。ランクが上がらないと常に失敗確率が付きまとう。安定するまで素材を買い集めていては、安物でも馬鹿にならない。自作が成功率に影響しなくとも、素材を製作すれば損失は材料費だけに抑えられる。
まだ若い職人の姿を思い返す。
工房は小さくとも、彼女は職人だった。
それでも引き受けてくれたのは、たぶん、元学院生だからだ。
五歳の頃、バージルから魔法を教わり、今は学院で様々な知識を学んでいる。
どちらも金銭による取引だ。
元学院生のケイティは、過去にそれを享受していた。
だから抵抗はあっても受け入れられる。自分も通った道だ。
それを理解できる職人、そして教わるのが初歩的な技術であれば、似たような取引が成立するのではないか。
俺は踵を返す。
駄目元で当たってみるか。
●二年目開始時のステータス
up、newは見えない屋敷終了後との比較
名前 :アルター・レス・リードヴァルト
種族 :人間
レベル :24 (1up)
体力 :114/114 (5up)
魔力 :301/301 (14up)
筋力 :13
知力 :17
器用 :17
耐久 :13+2
敏捷 :18+2 (40:倍加)
魅力 :16
【スキル】
強撃(new)、二連撃(new)
成長力増強、成長値強化、ステータス偽装、言語習熟、高速移動、多重詠唱
精神耐性5、氷結耐性2、鑑定5、調合7、追跡4、隠密4、気配察知5
片手剣7、両手剣1(new)、曲剣1(new)、体術7、短剣5、弓術4(1up)
火魔法6(1up)、水魔法5、風魔法6、土魔法6、無属性魔法4、
氷結魔法2、雷撃魔法2、変性魔法5
【魔法】
●初級
火炎の短矢、鋭水の短矢、疾風の短矢、土塊の短矢、魔力の短矢、
氷柱の短矢、雷衝の短矢
火塊の槌撃、水弾の槌撃、一塊の槌撃
水流の盾、旋風の盾、魔力の盾、礫土の盾
水流操作、軟土操作(new)、魔力操作(new)
筋力上昇、脚力上昇
溶液作成
●中級
火炎球、穿風の飛箭
妨土の壁(new)
【称号】
転生者、帰宅部のエース(耐久+2、敏捷+2)、リードヴァルト男爵家の次男




