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てんこもり ~帰宅部、異世界を征く  作者: Podos
第二章

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第85話 学院一年目 ~千紫万紅


 玄関を開けると、ランベルトにフェリクス、そしてエルフィミアとロラが立っていた。


「お揃いで」

「途中で合流したんだ」


 四人は入ってくるなり、不意に静止した。

 振り返ってみれば、テッドたちが直立不動で並んでいる。


「いらっしゃいませ、エルフィミア様。ランベルト様、フェリクス様。そして我らが――」


 危険を察知し、(きびす)を返してロラが逃げていく。


「あ、ロラ様!! 追え、逃がすな!」


 テッドたちが全速で追いかけていった。

 もう練習か、どんだけ切替が早いんだよ。

 呆気にとられるランベルトたちに、事情を説明する。

 興味無さそうなエルフィミアに対し、ランベルトとフェリクスは感心していた。まあ、それで俺と揉めたからな。

 しばらくして、捕獲されたロラが四人に囲まれて戻ってくる。


「ロラ様、ご到着です!」


 テッドの宣言とともに、真っ赤な顔でロラが入ってきた。

 その様子にエルフィミアは首を傾げる。


「練習は分かったけど、我らがって何?」

「依頼主だからな」


 そちらの経緯も掻い摘まんで説明すると、エルフィミアは「へえ」と呟く。

 今度は興味を持ったようで、ロラと何やら話し始めた。どうやら同行させてもらうようだ。

 一方、テッドたちは、


「次は何するんだ?」

「席にご案内を。座りやすいように椅子を引いて」

「でも、どこに案内すんのさ?」

「暖炉前はアルター様、その正面がエルフィミア様で――」


 と、エリオットの指南を受けていた。

 そして教わったとおり、俺を席に案内しようとする。


「いや、まだ準備が終わってないんだけど?」


 俺が拒否すると、テッドは愕然とした。


「おい、断られたぞ!? どうすんだよ!」

「後回しで! エルフィミア様を」

「そっちも話し込んでるぞ!」

「次へ!」


 ばたばたするテッドたちに同情したのか、ランベルトとフェリクスは大人しく案内された。

 練習も良いけど、これはいらない知識だよな。

 少女二人の周りでそわそわするテッドたちを捨て置き、俺は調理場に戻った。


 ほどなくして準備も終わり、皆にデイナを紹介する。

 俺だけでも緊張気味のデイナは、宮廷魔術師の娘や子爵の息子を前に顔を引き攣らせた。

 卒倒されても困るので、速やかに席へ座らせる。左右を固めるのはネイルズたちなので、良い防波堤になるだろう。

 そして始めようとした矢先、ランベルトが立ち上がった。


「いかん、すっかり忘れていた。これを」


 バスケットと瓶を数本、差し出してくる。

 バスケットの中身は肉のようだ。


「知っていたら別のものにしたんだがな。猪の燻製だ」

「いや、ありがたいぞ。ロラに頼んだのは山羊肉。これで食べ比べができる」

「それに製法も違いますよ」


 取りなすようにロラが言い添える。


「ランベルト様の燻製は熱燻(ねっくん)なんです。保存は利きませんが、肉そのものの味がしますよ。私が頼んだのは(おん)(くん)で、少し固いです。他には(れい)(くん)もありますね」

「冷燻――干し肉みたいなものか?」

「それは干しただけでしょ。はい、私からはお菓子ね」

「お、すまん」


 エルフィミアから少量の蜂蜜をまぶした菓子、ロラからはホルバー種の燻製を受け取った。

 テッドたちはそれを覗こうとしたが、まだ始まっていないので席に戻す。

 そして年末年始の祝いというのもあり、ホストの俺が挨拶をすることとなった。

 こういうのは(がら)じゃないんだけどな。


 俺は席を立ち皆を見渡すと、「では」と切り出す。


「かしこまった挨拶は苦手なので、いつもどおりに話させてもらう。皆、祝いの席に来てくれて感謝する。この場にいる者は身分や立場、生き方も様々だ。出会った時期も違う。入学前もいれば、今日出会った者もいる。それがこうして(つど)えたのは、不思議な縁だと思う。無礼講とは言わない。だがあまり緊張せず、楽しんでもらいたい。では無事に過ごせた今年に感謝を、そして来年の無事を祈り――乾杯!」


 皆も唱和し、一斉にグラスを掲げた。

 俺の発言を最大限くみ取り、すっかり普段に戻ったテッドとジェマは、我先にとホルバー種の燻製へ群がっていく。


「焼いたのと全然違うな、なんか(けむ)い!」

「燻製だからな」

「でも美味いぞ!」


 二人は猪にも手を伸ばし、「おお」と意味不明に感嘆する。

 気になったのか、ランベルトとフェリクスも山羊の燻製に手を伸ばした。

 特に思うところはないようで、二人は黙って()(しゃく)する。

 それが不満だったらしく、テッドはどれほど強敵だったかを力説し出した。

 しかし言葉を並べようが、山羊は山羊である。


「そうは言ってもな……」

「だから、普通の山羊じゃねえって!」

「テッド」

「ねえでございます!」


 ネイルズに注意され、妙な言葉遣いで言い直した。

 ランベルトは困り果て、俺に視線を向ける。

 仕方ない。彼らの名誉のため、一肌脱ぐか。


「お前たち二人なら苦戦しない。一人だけなら良い勝負だな」

「冗談だろ。山羊だぞ?」

「大きさは通常の倍、やたらと好戦的だった。僕も初めて見るが、おそらくはホルバー種だ」

「ホル……」


 知っていたのか、フェリクスが驚く。


「ランベルト様、この山羊は戦闘狂です」

「なんだ、その物騒なあだ名は。有名なのか?」

「生息域では要注意の動物と言われています。山羊だと思って甘く見ると、手ひどいしっぺ返しを喰らうとか。また死ぬ直前まで戦い続け、一頭でもオーク相手に引けを取らないとも」


 フェリクスの解説にランベルトは唸ってしまう。


「それは――本当にただの山羊か?」


 信じられないと言った顔つきで、ランベルトは首を振った。

 気持ちは分かる。でも山羊なんだよな、ただの。

 血まみれで暴れ狂う山羊を思い出しつつ、俺は補足する。


「動物だから魔法は使えず、攻撃手段はほぼ頭突き。それでも手強いやつだったよ。フェリクスの言うとおり、死ぬ直前まで戦い抜いた。テッドたちの初の実戦はゴブリンを考えていたが、あいつで良かったと思う」

「アルター様に同意です」


 黙って聞いていたエリオットが、口を開く。


「ドーコルとの戦いは、お二方が前衛を務めてくださったから剣を振るえました。一人では立ち向かうことはできなかったと思います。でも、どちらが怖かったかと言えば、この山羊です」

「エリオットもか。そこまで言われると、興味も沸いてくるが」


 ランベルトはもう一度、燻製に手を伸ばす。


「やはり味は普通だな……」


 と、納得しきれない様子だった。


 その後もテッドとジェマはホルバー種との死闘について熱く語り、興味深そうにランベルトとフェリクスは聞いていた。いつしかネイルズとエリオットも加わり、戦術について議論を始める。

 そしてエルフィミアとロラ、リリーの三人は、魔法や錬金術の話で盛り上がっていた。リリーは聞き役だが、庭の爺ちゃんの教育か何気に知識を増やしているようで、ロラと素材について情報交換を行っている。


 仲良きことは美しきかな。

 できればもう少し、平和的な会話に興じていただけないだろうか。

 そんな友人らを眺めつつ、俺は鹿肉のパイ包みを頬張った。

 うん、美味い。

 これは高級料理で、入学前の宿泊先で食べたきりだった。

 今回は祝いなので大奮発だ。


 一人、優雅に高級料理を堪能していると、欠食児童たちが嗅ぎつけてきた。

 放置すると食い荒らすので、群がる餓鬼どもを追いやり、適当な皿に切り分けて渡す。残りは欠食じゃない方の児童やお嬢様方、そしてデイナの前にも置く。


「私は……」

「遠慮するな。美味いぞ」


 デイナは細面に微笑を浮かべ、頭を下げた。

 祝いが始まった直後は、テッドやジェマの言動に顔を青くしていたが、ここにいる貴族に危険はないと分かったようで、今はだいぶ落ち着いている。


 ふと見れば、デイナのグラスが空になりかけていた。

 給仕がいない場合、客の対応をするのはホストの役割である。

 ちなみにお嬢様方にも注ぎに行ったが、「気持ち悪いからやめて」と拒否された。

 全身全霊で歓待しようと、上司にこびへつらう部下に(ふん)したのがいけなかったのか。結構、自信あったのに。


 そして果実水を手に取ったとき、はたと気付いた。

 怪訝そうなデイナと目が合う。


「すまん、酒を用意すべきだった」

「え……いただいておりますが」

「ああ、いただいてるぞ」


 なぜかランベルトにフェリクス、エリオットまでもが杯を掲げる。


「バスケットと一緒に渡したろ、蜂蜜酒」

「僕はエルメリ酒を」


 あれ、全部酒かよ。普通に果実水だと思ってたぞ。

 エルメリ酒は、メーレというリンゴに似た果実から作られるメーレ酒を醸造した酒だ。かなりきついが、エリオットはだいぶ薄めている。蜂蜜酒の方も度数は低かった。

 子供の飲酒は規制されていないし、そもそも飲料水の乏しい地域では水代わりに飲まれている。大丈夫だと思うが――。


「ほどほどにな」

「分かってる。(たしな)む程度だ」


 言いつつ、ランベルトはグラスを煽った。

 嗜む飲み方じゃないんだけど?


 ため息交じりに視線を動かし、エリオットに目礼すると、向こうも目礼を返してきた。

 ランベルトはともかく、エリオットはデイナがいると知って酒を買ってきたのだろう。頭の回転だけならネイルズも負けていないが、エリオットは()(はし)が利いた。さすが商人の息子だ。よく周りを見ている。


 ふと心配になり、他の者――特にテッドたちを確認した。

 全員、俺と同じ果実水だった。飲んでるのは三人だけらしい。


「エルフィミアは飲まないんだな」

「飲むわけないでしょ。魔法使いは思考力が命綱よ?」

「それもそうか」


 帝都出身なので、何となく飲んでると思ってしまった。偏見だな、これ。

 そんなエルフィミアが俺のコップを指差す。


「あんただって飲んでないじゃない」

「色々あってな。酒は見るだけで充分だ」

「また色々か」


 蜂蜜酒片手に、ランベルトが食いついてきた。


「色々って何だ。ちょっと聞かせろ」

「別に構わんが……」


 俺は『草王の酒薬ポーションオブシャルプ』の調合は伏せつつ、二年前の騒動について話していく。

 気付けば、皆が聞き入っていた。

 そしてヴァレリーが回復し騒動が終息すると、拍手と安堵の声が巻き起こる。

 特にテッドたちは『破邪の戦斧』に稽古を付けてもらったので、感動の度合いが大きかった。


「だから信頼してるのね。あんたも彼らも」


 言葉をぼかしながら、エルフィミアも納得していた。

 そして冷めやらぬ歓声の中、ランベルトが難しい顔で腕を組む。


「その魔物、聞いたことがあるな」


 言いながら、ランベルトはフェリクスを見やる。


「はい。ケーテンでも話題になっていましたね。すぐ収まったので、それほど危険な相手とは、思いもしませんでしたが」

「そうなの? 帝都では聞いたことないわよ」

「セレンでも初耳ですね」


 二人の会話に、エルフィミアとロラは顔を見合わせた。


「危機感の違いだろうな。トゥレンブルキューブは狩猟本能だけで動いている。帝都やセレンは途中にいくつも町や村があるから、いきなり襲ってきたりはしない。まずは周辺が大騒ぎになる。対して、ケーテンはお隣だ。小さな村を過ぎれば目の前、警戒も当然だろう」


 それを聞き、ロラやデイナは見るからにほっとした。

 どうやら想像以上に恐怖を感じていたようだ。


 その後、ランベルトやテッドたちは、トゥレンブルキューブが出現したらどうするかで議論を白熱させる。だが、年齢にしては優秀な剣士のランベルトたちでも、高い耐久や全方位攻撃に対処のしようがないようだ。

 唸るランベルトらをよそに、エルフィミアたちはお菓子を摘まみ、のんびり雑談していた。


 俺は何とはなしにテーブルを眺める。

 祝いの席が始まってから、ずいぶん時間が経過していた。

 用意した食事は(あら)(かた)空となり、今も貪っているのはテッドとジェマだけだ。


 年明けはまだだが、そろそろ〆にするか。

 俺はデイナに頼み、粥を出してもらった。


「小麦にチーズと牛乳、刻んだ野菜も加えてみました」


 皿に盛り付けられたのは、乳白色の料理だった。

 粥と聞いていたのでどろっとしているかと思ったが、スープに近い代物のようだ。

 もしかすると経済的な理由から、水で嵩増しする癖が付いているのかもしれない。


 デイナに礼を言い、一口飲む。

 おお、これはなかなか。

 さっぱりした中に牛乳とチーズ、野菜の旨味が染み出している。

 なんとも言えん味わいだ。

 やっぱり宴会の〆と言ったら穀物だよな。今も昔も未成年だけど。

 俺が黙々とスプーンを動かしていると、エルフィミアが目聡く見つけてきた。


「そんな料理、あった?」

「デイナ特製の粥だ。優しい中にほんのりした旨味。たいへん美味しゅうございます」


 興味を引いたのか、エルフィミアだけでなくロラも集まってくる。

 そしてデイナに頼んでよそってもらうと、一口飲むなり「もっと早く出しなさい」と叱られた。

 なぜか謝るデイナに、慌てたエルフィミアが丁寧に謝り返す。

 そんな騒ぎに他の連中もやってきて、結局は鍋の底まで平らげてしまった。


「作りすぎたって話してたんですけど、大丈夫でしたね」


 完食に、嬉しそうなリリー。デイナも笑顔だった。

 味の是非なら、ヴェレーネ村のミランダや高級宿の料理の方が上。

 ただ、デイナの粥には家庭の味が染みこんでいた。どれほどの技術があっても、いや、技術があるからこそ、この味は出せない。


 そうか……飢えていたのかもしれん。

 リードヴァルトでは料理人、セレンに来てからは外食や出来合いの料理ばかりだった。家庭料理をまともに食べたのは前世以来。デイナを誘ったり、料理を作ってほしいと頼んだのは、どこかで家庭の味を求めていたのかもしれない。

 まあ、何をもって家庭料理と呼ぶかは人それぞれだ。テスにとってはミランダの料理こそ家庭の味だしな。


 ともかく、美味かった。

 デイナは粗末と言っていたが、料理の腕ではなく材料の問題だろう。そうでなければ、空にはならない。

 改めて礼を言おうと口を開き掛けたとき、どこかで鐘が鳴った。



  ◇◇◇◇



「あれは――新年の鐘か?」

「いえ、もうすぐの合図ですよ」


 遠くを見る俺にロラが告げる。

 除夜の鐘みたいなものか? リードヴァルトではなかったな。


「じゃあ、外に出ましょうか」


 そう言ってエルフィミアは上着を取りに向かう。

 ロラも当たり前のようにそれに従った。

 初詣――じゃなさそうだが。もう済ませているし。

 不思議そうな俺に、エルフィミアが振り返る。


「屋根ってまだ空いてるの?」

「目下、修繕の真っ最中だ。何もしてないがな」

「じゃあ、屋根に登りましょう」


 名案とばかり、皆は二階へ上がっていった。

 そしてランベルトの指揮の元、椅子や棚を使って即席の階段を作り出す。大体は自力で登れるが、ロラやリリー、デイナは皆の手を借りて、どうにか屋根に上がった。


 冬の空は晴れ渡り、月明かりがセレンの街に降り注いでいた。

 大通りには無数のかがり火が焚かれ、普段の夜よりも明るい。

 俺の自宅は元商業施設だけあって、周囲よりも高かった。一望とまでは言えないまでも、結構な範囲が見渡せる。


 ここまで来ると、なんとなく予想が付いた。

 前世の母国は厳かな大晦日だったが、海外は派手と聞いている。

 しかもセレンなら、あれしかあるまい。


「魔法か」

「はい。新年を祝い、魔法使いの皆さんが空に魔法を放つんですよ」


 少し寒そうにしながら、ロラが応えてくれた。

 そして皆と並んで待っていると、大通りのかがり火が次々と消えていく。

 始まるようだ。


 月明かりのセレンに、再びの鐘が鳴り響く。

 同時――分かっていても、俺は目を見張ってしまう。

 一斉に放たれる無数の魔法。何百という色彩が街を照らし出す。

 どこかではない。セレンの街、至るところでだ。

 ほとんどは短矢(ボルト)系だが、球状(ボール)系も多い。中には見慣れない魔法もあった。

 どれだけの魔法使いが潜んでたんだ、この街は。


「あそこが学院ですよ」


 ロラの指す方向を見れば、学舎が《光源(ライト)》や《灯明(トーチ)》の魔法でライトアップされ、最上階から数十の遠距離魔法が夜空を彩っていた。属性を揃え、発動数や方角まで計算している。寮生活だったら、俺やエルフィミアもあれに参加していたのだろう。


 先輩方や同級生が織りなす魔法の催宴に魅入る。

 そんな中、不意に学舎が闇に沈んだ。

 一拍、いきなり学舎上空に炎が広がる。


「あれは《八紘炎火(ファイアスプレッド)》ね。私の《氷雪界域(フリージングストーム)》と対をなす火属性の範囲魔法よ」

「ヘレナ先生か」


 俺は目に焼き付けようと注視した。

 が、出現したとき同様、不意に掻き消えてしまう。

 しばらく待つも、学院は静まり返ったままだった。


「……もう撃たないのかな」

「いえ、学院はここからが本番ですよ」


 ロラの言葉に、俺だけでなくエルフィミアも首を傾げた。

 その直後――。


「うそ、あれって……」


 呆然とエルフィミアが呟く。

 突然、緑の膜が出現、巨大な学院を覆い尽くした。


「あれは《堅塁障壁(ブルワーク)》。無属性の最上級魔法で、現存している中では対魔法の最強結界よ。使い手なんていないはずなのに……」


 エルフィミアの解説に記憶が蘇る。


「もしかして、魔道具じゃないか?」

「あ、そうかも! 帝――」


 言いかけ、エルフィミアは慌てて口を(つぐ)む。

 たぶん、宮廷にもあるんだろうな。

 気付かぬ振りをして話を続ける。


「ラッケンデール先生が言ってたな。学院は防御魔法で守られてると。たぶんそれだろう。発動しているということは、魔法で攻撃してるのか。なるほど、だから誰も魔法を撃たなくなったんだな」


 その後、同じ緑の膜が二カ所で発生する。

 一つは合同庁舎。もう一カ所は――どこだ?


「あそこはラプナス学術院ですね」

「へえ、ラプナスってあんなところにあるのか」


 場所はセレンの南東。大通りを挟み、カルティラールの反対側だった。

 それは良いとして――最低でも三つもあるのか、《幽棲の隠宅トレファス・マスニイト》と同格の魔道具が。

 同じ感想を抱いたようで、エルフィミアは深いため息をつく。


「今ほど、この街がふざけてると思ったことはないわ」

「同感だ」


 ロラの話しぶりから、毎年の恒例なのだろう。

 エルフィミアは口まで(つぐ)んだのに、よくもまあ、開けっ広げに披露するものだ。

 ほんと、この街はアルファスの精神が息づいてるよ。


 その間も、多彩な光がセレンの夜空を染めていた。

 この光景は魔力が続くかぎり、朝まで行われるそうだ。やけに街への訪問者が多いと思ったが、これが目当てだったのか。

 そんなことを考えていると、エルフィミアが一歩を進み出る。


「あんなのに太刀打ちできないけど」


 集中するなり、我が家の上空に《氷雪界域(フリージングストーム)》を放った。

 舞い散る小さな氷片。

 皆から感嘆の声が上がる。


 んじゃ、俺も参加するか。

氷雪界域(フリージングストーム)》を縫って、《火炎球(ファイアボール)》を放つ。

 続けてもう一発。さらに一発。

 次々と破裂する炎の球に氷片が(きら)めいた。

 皆がその光景に見入っている中、いきなりエルフィミアが袖を引く。


「ちょっと。重なってるわよ」


 あ、『多重詠唱』してたか。

 ペースを落とし、ついでなので《火炎球(ファイアボール)》の合間に《雷衝の短矢(ショックボルト)》を挟んでみた。

 氷片が雷撃を反射し《火炎球(ファイアボール)》よりも綺麗だが、ちょっと貧相である。

 ものすごく『多重詠唱』したい。初級でもばら撒けば派手なのに。


 さらにエルフィミアは《氷雪界域(フリージングストーム)》に加え、《聖域(サンクチュアリ)》も発動する。

 氷片が青く輝き、見事な美しさだった。

 気付けば、周辺の家々から住民が顔を覗かせ、寒さも忘れて見上げていた。

 ご近所さんも楽しんでいるようだ。少しはお役に立てただろうか。


 俺も負けまいと、《火炎球(ファイアボール)》に《雷衝の短矢(ショックボルト)》、《魔力の短矢(マジックボルト)》、《氷柱の短矢(アイスボルト)》、夜空に映えそうな魔法を片っ端から放っていく。


「お前、どれだけ属性持ってんだよ……」


 後ろからランベルトの声が聞こえてきた。

 そういうことじゃないんだよ。

 負けてるから、これだけやっても。



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