第113話 学院三年目 ~行商人
派手に見送ろうとする隊長に断りを入れたので、隊舎前に出てきたのはモリスだけだった。
ブレントも顔を出そうとしたようだが、モリスたち部下に止められ、おとなしくベッドで休んでいる。
「もう帰るのか。ゆっくりしていけば良いのに」
「予定があるんでな。長居もできん」
全力で走れば今日にも帰還できるが、狩りをしないと折角の魔法の鞄が勿体ない。
それに、ソプリックは解決済みである。
隊長によると、ソプリックの群れは他と馴れ合わないそうだ。
それは『狂奔の復讐者』が、一つの群れだけに影響することを意味している。
狂乱状態の個体は、あの場に集まっていた。もし残っていてもわずかだろう。
置き土産の解毒で足りるし、流通だってすぐ回復するはずだ。
留まる理由がない。
「死骸はもらっていくが、本当に構わんのか?」
「もちろんだ。こちらからお願いしたいくらいだよ」
モリスは笑顔で即答した。
帰還を告げたとき、隊長からソプリックの後処理について相談された。
消火のついでにソプリックの死骸を集めておいたが、危険なうえ、大半の権利が俺にあるので困っていたそうだ。
モリスは外まで見送ろうとしたが、ここで充分と別れを告げる。
俺は隊舎を離れ、まっすぐ東門へ足を向けた。
改めてケリール村を散策しても良いが、すっかり気が殺がれてしまった。
それに死骸を早く片付けないと、守備隊も気が気でないだろう。
まずはソプリックを回収し、次に復旧箇所を点検。セレン領で狩りをしながら帰還だ。
東門の付近には商人や冒険者が集まっていたが、誰も通る様子がなかった。
昨日の今日である。まだソプリックを警戒してるのだろう。
彼らの横を通り抜け、門へと近付く。
そのとき、人だかりから男が抜け出し、俺の前に立ち塞がった。
「ああ、ようやく会えた!」
三十代の男が笑顔を向けてきて、首を傾げてしまう。
俺を知っているようだが、まるで見覚えがなかった。
守備隊や冒険者ではなさそうだ。
「助けていただいた商人です!」
「ああ、昨日の……」
そういや、冒険者の護衛対象は商人だったな。
隠れていたので、まともに顔を見ていない。記憶にないのも当然だ。
「助けていただき、ありがとうございます。お礼を言いたくて、こうしてお待ちしておりました」
「成り行きだ。礼はいらない」
「あ、お待ちを!」
立ち去ろうとする俺を、商人は呼び止めてきた。
「不躾なのは承知しております。折り入ってお願いが――」
「断る」
俺が遮ると、商人は目をぱちくりさせた。
大体の想像は付く。
商人は旅装なのに、昨日の冒険者たちはどこにもいない。
「逃げられたな」
「はい……お察しのとおりです。昨日の夜、護衛依頼を破棄したいと」
打ちひしがれた様子だが、男は商人である。見た目に惑わされてはいけない。
ただ事情があるかもしれないので、話だけでも聞いてみた。
苦境を訴える無駄な修飾をざっくり省くと、男の名はハンスと言い、行商人だった。
馬車でセレンを目指していたが、ソプリックに襲撃され馬は暴走、振り落とされた挙げ句、積荷ごと馬車は走り去ってしまう。
ハンスの頼みは、馬車の捜索とセレンまでの護衛だった。
聞き終わり、俺は静かに首を振る。
「断ったのは、僕にも事情があるからだ。護衛依頼を受けたことがないし、目的も真逆だ」
「真逆――セレンへ行かれるのでは?」
「目的地じゃない、目的だ。通常の護衛依頼は魔物を避けるが、僕は狩りをしながらセレンへ向かう。頼みを引き受けると、狩りができなくなってしまう」
「では、馬車の捜索だけでもお願いできないでしょうか。他の冒険者はソプリックを怖れ、村から出ようとしないんです」
ハンスは縋るような目で訴えてきた。
他と比較し、俺を持ち上げるか。
事実だとしてもあざとい。同じ目でも、テオの純粋さとは大違いだ。
それはそれとして、馬車の捜索は大して難しくなかった。
轍を追えば、簡単に見つかる。まあ、無事ではないだろうが。
「僕も昨日の現場に用がある。馬車の方向と距離次第だが、捜索くらいは手伝おう」
「ありがとうございます!」
何度も礼を述べるハンスを伴い、門へと足を向ける。
そして衛兵たちの感謝に応え、再びケリール村を出立した。
今日も心地良い陽気だった。
そよ風に漂う春の香りを楽しみながら、街道を進んでいく。
ハンスは怯えながらも、俺の背後にぴたりと付いてきた。
ただ昨日の恐怖が拭えないのか、風に草花が煽られれば飛び上がり、鳥の羽ばたきに縮み上がっていた。
そのたびに張り付いてくるので、なかなかに鬱陶しい。
子供に頼るくらいなら、まともな護衛を探せば良いのに。
◇◇◇◇
「悪食もここまでいくと感心するな」
「生きてるんですか……?」
「死んでる。外傷がないから綺麗なものだ」
襲撃現場に到着すると、死骸の山に二体のゴブリンが追加されていた。
どちらも両手にソプリックを握り、仰向けに引っくり返っている。
初めてフグを食べた人も、こうなったのだろうか。
挑戦する度胸は嫌いじゃないぞ。
「先に馬車を探すか」
「よろしいのですか!?」
優先されると思わなかったのか、ハンスは歓喜した。
ゴブリンが死ぬなら、他の魔物に荒らされる心配はない。
肉は食用不可なので腐敗しても構わないし、毒の扱いに手間取りそうだ。
馬車を優先しても大差ないだろう。
それに極めて低いが、馬が生きている可能性もある。
ハンスはともかく、馬は早く安心させてやらないと可哀想だ。
「馬車が遠すぎるようなら中断するし、場合によっては手を引くぞ」
「もちろんです!」
納得の表情でハンスは首肯した。
轍を探し、見当を付ける。
目的地がセレンだったので、そのまま東へ暴走したようだ。
この方角だと、先にソプリックを片付けるべきだが――まあ、少しは追ってみよう。
轍を辿り、草原へ踏み込んでいく。
見た目はなだらかでも、いざ歩くと起伏が激しかった。
馬車は街道を無視しているので尚更である。
そしていくつかの丘を乗り越え、林の密度が高くなってきた頃、遠くに馬車を発見する。
意外に近かったので助かったが、どうやら駄目そうだ。
「持っていかれたか」
馬車は岩に乗り上げて横転し、車輪も外れていた。
馬の姿はなく、大量の血痕と肉片が散らばっている。
『気配察知』でも馬は感じ取れないし、蹄の跡も見当たらない。
その代わり、ゴブリンの足跡が無数に見つかった。
距離が近いし、チャレンジャーの仲間だろう。
俺が検分している間、ハンスは馬車に乗り込んで積荷の状態を確かめていた。
馬が生きている可能性が完全に消え、俺も荷台を覗き込む。
木箱が散乱し、干し肉などの食べかすが落ちていた。
「少し汚れてますが、積荷は無事でした」
そう言って、ハンスは円筒状の物体を見せてくる。
織物のようだ。
「布はゴブリンでも喰わないか。どこの品だ?」
「セムガット公国です」
「また――ずいぶん遠方だな」
セムガットは帝国領の最西端に位置する。
六百年前に臣従した元独立国家であり、今も当時の気風が根強いという。
また公国の西方に広がる人類の領域外を越えれば、ピドシオスの故郷、メズ・リエス地方に到達する。
「柄はメズ・リエスの影響か?」
「はい。セムガットはドワーフやエルフの職人も多いんですよ。大手の工房は宮廷にも奉呈しているとか。私が扱うのは日常使いの品ばかりですけどね」
自虐しながら、ハンスは抱えた織物を少し広げた。
素材は羊毛で彩りも地味だが、精緻な文様が織り出されている。
口で言うほど安価な品ではなさそうだ。
ハンスはゴブリンが散らかした積荷を物色し、無事な木箱に収めていく。
ただ、肝心の馬車が破損しているので、馬が生きていても走れない。
「セレンまで運んでやろうか?」
「助かりますが、これほどの荷を背負って山越えは……」
俺がシャムシールを取り出すと、ハンスは目を見張る。
「魔法の鞄!?」
「商業ギルドからの借り物だ。今回の依頼でな。積荷くらいなら余裕だし――お、こっちも入ったか。凄いな、これ」
馬車が消失し、ハンスはさらに目を見開く。
俺は馬車の破片や外れた車輪も収納し、中を確認した。
まだ余裕がありそうだ。
性能はエルフィミアの鞄と同等くらいか。あいつの鞄もよっぽどだな。
「セレンでもケリール村でも、好きな方へ運んでやろう」
「セレンまで! 積荷もお願いします!」
「分かった。では、セレンの商業ギルドに預けて――」
「私も同行させてください!」
食い気味にハンスが申し出てきた。
さっき断ったよな?
「積み荷の持ち逃げが不安なら、ケリール村に運ぶぞ。僕が通るのは森の中だ。足手まといは困る」
「足なら自信があります! 数年前までは徒歩で行商を行っていました。それに足止めされた所為で、馬車の修理費用を出せるほど余裕がないんです……」
そう言い、ハンスは顔を曇らせた。
セレンなら積荷を売却して修理費用を工面できる、か。
ケリール村でも売れるだろうが、さすがにセレンとは規模が違うし、足下も見られてしまう。
なるほど、目を付けられたわけだ。
他の冒険者はソプリックを警戒して外に出たがらないが、群れを一掃した俺には関係ない。
しかもセレンへ向かうから報酬を後払いにできる。
俺のランクも把握しているだろう。護衛費用も安上がりだ。
ハンスにとって、都合の良いことだらけである。
ま、そっちがそのつもりなら、こちらも利用させてもらうか。
「護衛依頼は受けない。どうしてもと言うなら、勝手に付いてくれば良い。当然、守ってもらえると思うな」
「ありがとうございます!」
積荷も回収し、後回しにした死骸の山へと戻る。
そしてナイフで突っつき、ソプリックを観察した。
蛇と構造が違うな。
蛇は牙の穴から毒を流し込むが、ソプリックの前歯に穴はない。
口腔内をつぶさに『鑑定』してみると、唾液に毒が含まれていると分かった。
前歯はさほど鋭利じゃない。
ということは、皮膚から浸透するタイプの毒かもしれん。
噛まれたから毒を受けたと思ったが、舐められただけでも危険そうだ。
かなり強力だし使い道も多そうだが――なんだろうな、悪事しか思い浮かばない。
毒をどうするかは棚上げし、俺は二重の皮袋に死骸を放り込んでいった。
◇◇◇◇
「はあ……また見事な補強で」
土砂崩れの現場に到着すると、ハンスは斜面の石壁を撫で始めた。
ところどころに手の跡があるので、他の旅人も触ったようだ。ちょっとだけ嬉しい。
感嘆するハンスから視線を外し、俺は点検を始めた。
山道には轍の跡があり、すでに何台もの馬車が通過している。
ゴウサス牛が暴れても耐えたので心配してなかったが、問題なく通行できるようだ。
しかしそう思ったのも束の間、足下の硬い感触に俺は立ち止まる。
石壁?
それなりの深さに生成したはずだが――。
周囲を見渡し、水の流れた跡を発見する。
そうか、排水。
斜面の石壁は間隔を空けたが、道の下は何もしてない。
すっかり忘れてたな。上の土が流れてしまったか。
俺はハンスを窺いつつ、歩き回る。
そして石壁を触媒に《土塊の短矢》を発動、森に向かって放っていく。
「――?」
途中、ハンスは首を傾げて振り返ったが、遠くを眺めて誤魔化した。
これで下の石壁は穴だらけだ。簡単には剥き出しにならないはず。
それでも駄目だったら――やり直しだな。
追加作業を片付け、山を越える。
そして昼過ぎ、俺たちはセレン領の森に到着した。
ここまで来れば慣れた森である。
夕刻まで時間があったので、小休止することにした。
張り出した木の根に腰掛け、俺は将軍茶、ハンスは自前の水筒で喉を潤す。
足に自信があると言うだけあって、ハンスは健脚だった。
山道で速度を上げても付いてきたし、疲れた様子もない。
これだけ元気なら、少しくらいは平気だろう。
俺は皮袋を取り出し、低下の魔道具を装着していく。
そして甲犀の剣からシャムシールへと切り替えた。
準備する俺を、ハンスは興味深げに眺めていた。
シャムシールはともかく、商人なら装身具が安物と気付く。
それでも興味を持ったのは、魔道具の可能性があるからだ。
正解である。どれもマイナスだけど。
ハンスをちらりと見れば、短剣を腰に下げているだけだった。
『短剣』スキルは習得してないし、今は殺傷力よりも攻撃範囲が重要である。
適当な枝を切って手渡すと、歩行用の杖と思ったらしく、ハンスは礼を言ってきた。
これで準備万端。
自分の身は自分で守ってくれよ。
休息を終えると、街道を外れて森へと踏み込んだ。
ほどなくしてゴブリンの痕跡を発見、追跡すると向こうも気付いて戦闘になる。
数は四体。
敏捷が極端に低下した俺は、ゴブリンたちの波状攻撃に苦戦してしまう。
ハンスはひいひい叫んで枝を振り回し、意図せぬ陽動で貢献してくれた。
そしてどうにか勝利するものの、俺はいくつかの裂傷と打撲を負ってしまった。
ゴブリン相手に怪我をしたのなんて――あ、初めてか。リーダーは別格だし。
苦しい戦いに満足しつつ、解体を始めた。
魔石を一つ、ゴブリンの武器から溶かせそうな短剣を選んで収納していく。
作業が済んだのを見計らってか、ハンスは心配そうに「どこか調子でも?」と尋ねてきた。
俺は快く装身具を見せ、説明する。
「お願いですから、止めてください!」
いきなり、拝むように懇願されてしまった。
だから言ったんだけどな、守れないと。
まあ、ゴブリンでここまで苦戦するのなら、オークやドーコルの集団はきつそうだ。
仕方ないので手頃な魔物を選びつつ、初日の旅程を森の中で終えた。
◇◇◇◇
「もう食べないのか?」
「いえ……もう結構です」
焚き火で炙られているのは、往路で仕留めたヌドロークの肉だ。
復旧作業中にだいぶ減らしたが、まだ少し残っている。
ハンスはそんなヌドロークを早々に拒否したので、ゴウサス牛を少し切り取って提供してあげる。
すると、さきほどの発言はどこへやら、大喜びでゴウサス牛の焼肉を頬張り始めた。
確かにヌドロークはまずいが、食えない味じゃない。
野営の食事なんて、こんなものだ。
夕食が終わると、俺はシャムシールの手入れ、ハンスは紅茶を片手に一息入れる。
そして焚き火の爆ぜる音が響く中、ハンスがおもむろに呟く。
「テンコさんは優しい方なんですね」
意外な発言に手を止め、ハンスを見やる。
俺が優しい?
わけの分からないことを。
これまでの人生を思い浮かべ、やはり首を振る。
理由もなく人を助けたことは一度もない。
テッドたちは支援しているが、彼らだからだ。
同じように苦しむ難民なんて、壁の外にいくらでもいる。
俺は否定したが、ハンスに否定し返されてしまう。
「護衛に逃げられ、私は途方に暮れました。新たに雇おうにも冒険者は腰が引けていましたし、そもそもろくに前金を払えません。そんなとき、思い出したのがテンコさんです。皆が怖れるソプリックに一人で挑み、殲滅できる冒険者。ギルドや隊舎へ行き、色々な話を聞きましたよ」
俺は無言で先を促す。
「土砂崩れの現場で発見した冒険者を、埋葬してほしいと頼まれたそうですね。ギルドの受付が感心しておりました。それに守備隊を助けに来られたのも、幼い少年の頼みだったとか」
押し黙る俺に、「父親の治療でも――」とハンスは話を続ける。
それを聞きながら、俺は考え込んでしまった。
否定しようがない。どれも事実だ。
だが、普段の俺じゃない。
復旧依頼を受けてからの経緯を思い返し、眉をひそめる。
そうだ、何もかもがおかしい。
冒険者の埋葬を頼むだけならまだしも、赤の他人に金貨を差し出すなんて有り得ない。
テオもそうだ。頼まれもせず名乗り出ている。
しかも相手は毒持ちの魔物だから、手持ちの解毒で対処できるか情報収集すべきだ。
いきなり駆け出すなんて、あまりにも無謀である。
焚き火の向かいで続く絶賛を聞き流し、さらに考える。
ソプリックの後もか。
モリスの用意した解毒のポーションが一本しかないなら、誰が飲むか冷静に判断すべきだった。
解毒の調合はそれほど掛からないが、自分が昏睡する懸念がある以上、まず俺が飲むべきだ。倒れてしまったら被害者全員の命が危険に晒される。
実際、あの判断ミスで俺は死にかけた。
そもそも、最初から変である。
街道の復旧なんて簡単には終わらない。
数日遅れるくらいなら、経済への影響は無いに等しい。
それでも最速で現場に駆けつけたのは、いるかどうかも分からない土砂崩れの被害者を想定したからだ。
まるで、そうするのが当然のように。
「テンコさん?」
さすがに違和感を感じたのか、ハンスが覗き込んできた。
応える代わりにシャムシールを掴み、真上に『強撃』を放つ。
目の前に鮮血と黒い影がどさりと落ち、ハンスは硬直した。
「大木を背に」
ハンスは固まったまま、四つん這いで大木に向かう。
それと同時、次々とヌドロークが飛来してきた。
まだ低下の魔道具を装備している。
敏捷は拮抗し、重いシャムシールではなかなか捉えきれない。
俺は無数の牙と爪を浴び、食らいつかれてしまう。
つまるところ、始めから調子が狂っていたんだな。
ラウリを批判できん。
他人どころか、自分の状態を把握できていなかったんだから。
ヌドロークの牙を受けながら、自嘲気味に笑う。
どうにかヌドロークを撃退し、血まみれの全身を《清水》で洗い流す。
そしてヒーリングポーションで治療を始めると、ハンスはようやく硬直が解ける。
荒く呼吸し、その場にへたり込む。
「びっくりしました……いきなりでしたね」
「来ると思ったけどな。ゴウサス牛は美味そうな匂いがするし」
俺の言葉が少しずつ浸透すると、ハンスの顔が驚愕に染まっていく。
「では――魔物をおびき出すために、ゴウサスを焼いたと!?」
「人間が美味いなら、他の生き物にも美味かったりするだろ。最初にヌドロークを焼いたのは注意を引くためだ。焚き火も盛大にやってみたぞ。何が来るかは神のみぞ知る、だったが」
ハンスは力なく大木にもたれ掛かり、責めるように俺を見上げてきた。
そんな顔されてもな。
得意げに俺の美談を語っていたが、要は優しさに付け込こもうとしたわけだし。
鍛錬の手伝いくらい、大した代償ではないだろう。
ちなみにハンスの弱い気配も囮だったりするが、俺が盾になったので怪我一つしていない。
ということは――俺は本当に優しいのかも?
うん、きっとそうだ。