30年前
「あっ、これって……」
それは球児たちがマウンドで抱き合ってる写真だった。
「そう、これが30年前にウチの野球部が春夏連覇を果たしたときの写真」
「まぁそんときは学校の名前が違ったけど、今でも伝説のチームって言われてる」
「当時は『八叉高校』って名前だったから大会では八叉高旋風って言われてたらしい」
なるほどなぁ、テレビでよく特集されたりしてたけど本物を見るのは初めてだ。
「んで、この人が八叉高のエース、加賀美さん」
「この時加賀美さんはまだ2年生だもんな。ほんとに恐ろしいわ」
ーー加賀美さん、もとい加賀美俊幸投手。
彼は野球を見ている人なら誰でも知っているレベルの大エース。
2年生にして甲子園春夏連覇を果たし、3年生でも春夏ともに甲子園に出場。優勝こそ逃したもののドラフト一位でプロ入り。圧倒的な活躍を見せた後、メジャーリーグへ。アメリカでも鮮烈な活躍をみせた偉大な投手だ。
そんな加賀美投手に憧れてこの高校に入ってきたピッチャーが沢山いる。なんなら自分もその1人だ。
「そして、ここにいるのが俺の親父」
「角田先輩のですか?」
「おう、すげぇいい笑顔だろ。毎年毎年、高校野球の時期になるとこん時の俺たちは凄かったって自慢が止まらないんだよ、ホントに」
角田先輩はやれやれと首を振っていた。
「加賀美選手とチームメイトなら自慢したくもなりますよ」
「でも中学生くらいまでは、はいはいって聞き流してたんだよな。九玄坂高校に入って凄さを痛感したよ、ほんとに」
と苦笑い。八鍬先輩も、
「俺も加賀美さんに憧れてこの高校に入ったんだけど全然だった。けど、どうしても強くなりたくて1年の秋、涼真の父さんに聞いた、どうやったら強くなれるかって」
と続けた。
「あの時は必死だったもんな、お前」
「そしたら先輩方の野球ノートがもしかしたら残ってるかもって言われたから必死に探した。」
「見つかったんですか…?」
「いや。だけど野球ノートよりも遥かに価値の高いモノが見つかった」
そう言って八鍬先輩は部屋の棚から1冊のノートを取り出した。
「読んでみて」
開いてみるとノートにはピッチャーの練習方法やフィジカルトレーニングの事でびっしりと埋まっている。見ていて本当に参考になる内容だ。
そして、ノートの名前のところに
「加賀美 俊幸」
とキレイな字で書かれてあった。
「これ、本物ですか……?!」
「凄いだろ、『加賀美ノート』だ」
よく見ると、各トレーニングのところには練習法、負荷のかけ方、セット数はもちろん、当時加賀美選手が感じたことが事細かに書かれていた。
「凄く、色んなことが書いてありますね……」
「あまりに多かったからな、練習法だけ俺なりにまとめたよ」
そう言って、八鍬先輩はノートからルーズリーフを取り出した。
「これを俺は『加賀美式練習法』って勝手に名付けてる。もっとも、大抵の人はキツすぎてついて行けないけどな」
「ついて行きますよ、僕は」
「言ったな?」
「もちろんです、」
そして俺は一呼吸おいて八鍬先輩に眼を見て言った。
「九玄坂のエースに、なるので。」




