エピローグ 後編
エピローグ後編です。
前編読んでない方は一話バックをお願いします。
『現状、俺たちが元の世界に戻る手段は……存在しない』
サトルこと俺が発言したその事実。
本来ならば渡世の宝玉を8個集めることで、元の世界に戻るためのゲートを開くつもりだった。
しかし、今その手段を取ることは不可能となっている。
その理由とは。
「渡世の宝玉が全部で25個しか存在していなかったなんてね」
「レイリさんたちが魔族の仲間を呼び出すために使用したのが8個。サトルさんが魔神を呼び出すために使用したのが12個。現状力を保ったままの宝玉は5個しか存在していません」
「探せば宝玉がまだ見つかるという可能性はないの?」
「神殿の隠し通路にあった書物から詳細な情報が入ったんですが、女神教全体で保有していた宝玉は25個で間違いないそうです。
宝玉自体もオーパーツで女神教も偶然手に入れたもののようですから、新たに発掘するというのも難しいでしょうね」
女神教の大巫女であるホミが言うからにはその情報に間違いはないだろう。
「くそっ、何だよ25個しかないって。そんなの分かってたら……いても行動は変わらなかっただろうけど……ああもう、レイリたちがゲートを開けなければその分で元の世界に帰れたはずだってのに」
文句は虚空に響くのみだ。先日の戦いの際はユウカたちに協力していた魔族レイリと伝説の傭兵ガランは戦いが終わった後忽然と姿を消したそうだ。
元より俺とユウカの行く末を見届けるために協力していたという話だから、達成して行動を共にする意味も無くなったのだろう。
『お礼くらい言いたかったのに……』
と寂しそうに呟いていたユウカを思い出す。
「まあ嘆いても仕方ありません。一つ手段が潰れたなら、また新たな手段を探せばいいだけです。そういうわけでチトセさんとソウタさんから報告があるみたいですね」
リオが音頭を取る。
「へいへい、さてアタイたちがこの一ヶ月何をしていたかっていうと情報収集さ」
「この異世界には女神教だけでなく、色々と古くから伝わるものがありまして」
「オンカラ商会にも協力してもらって見つけたのがこれっていうわけだ」
チトセが懐から取り出したのは何やら文字がびっしりと書かれた紙。
「それは……おふだか?」
「何やらおふだ自体に魔力が感じられますが」
魔導士のリオならではの観点。
「古からこの異世界で連綿と続く『仙人宗』に伝わる秘宝『転生のおふだ』。
調べたところによるとこれを集めることで他の世界へと渡るゲートを開くことが出来るようです」
ソウタの解説はつまり。
「今度は俺たちにそれを集めろって……そう言いたいのか?」
「ああ。だが『仙人宗』は女神教同様に少し前に廃れた教えでねえ。もちろんおふだがどこにあるのかを探すだけで一苦労さ」
「それにどうやらおふだを集めようと暗躍している集団も存在するようで、そのおふだも一争いの後にどうにか手に入れたものです」
「あーあーあーあー、分かった、分かった。もう本当、大体分かったわ」
どうやら神様は俺たちにこの異世界でもう一度これまでと同じような旅を繰り返せと要求しているようだ。
「そういうことでしたらクラスメイトみんなにも事情を説明しないとだね」
「駐留派が崩れた今、全員で協力できるだろう点についてはまだマシな方ですね」
俺たちクラスメイトは元の世界に戻ることを目的とする『帰還派』とこの異世界に留まって好き勝手する『駐留派』に二分されていた。
しかし駐留派の中心的存在であったカイはあの戦いで俺に敗れた。
虜にしたエミに地下牢に放っておくように命令したが、戦いが終わってから地下牢を覗くとそこはもぬけの空であった。
あのときは俺も戦闘で大きくダメージを受けて抜けていたせいか、命令としてはカイを地下牢に放り込むまでしか指示していなかった。
だからエミが一度放り込んだ後に、カイを脱出させるために動くことは制限していない。
だが、カイは自分を好いていたエミを利用していたことをあのとき告白した。
それなのにエミがカイのために動いたとは正直考えにくいのだが………………まあ二人揃って姿を消したということはどちらか、あるいは両方に心変わりがあったのだろう。
ただ勢力としての駐留派は中心人物を失ったことで瓦解。帰還派に吸収されているという次第であった。
「まっ、ちょうどいい。ハヤトの野郎も見つけて一度ぶん殴らないといけないとは思っていたところだからねえ」
「各地を周っている内に見つけられそうですね」
事態を前向きに捉えているチトセとソウタ。
「まだしばらくはこの世界にいるんですね。こう言うと悪いかもしれませんが、私は良かったです。お別れする時間が先延ばしになって」
ホッと息を吐くのは独裁都市の姫、ホミ。俺を好いているのは知っているが、同時にこの地も愛しているため離れるつもりは無いだろう。
対して。
「パパ、ママ。どこか行くの?」
先ほど寝かしつけたが話し声が聞こえて起きてきたのか、寝ぼけ眼をこすりながら訊ねるのは魔神のユサ。
俺をパパと呼んで慕うこの子を元の世界に戻る際にどうするべきかはずっと悩んでいる。
オンカラ商会やホミに頼めばこの世界でだろうと生きてはいけるだろうが、この子はそれを良しとするだろうか。
一度元の世界に戻ればおそらくもう二度とは帰ってこれないだろう。かといって元の世界に連れて帰るのも大丈夫なのだろうか。戸籍とかそんなところで。
「パパとママはまた世界中を旅しますからねー。お姉ちゃんと一緒についていきましょうねー」
あやすようにユサに声をかけたのはリオだ。
「え、本当! また色んな場所に行けるの!」
「はいそうですよー」
「やったー!」
ユサは喜びそのままに部屋を駆け回る。本当パワフルな子だ。
「というかリオ……」
「ユサは『囁き』の力を完全に理解出来ていない子供です。いつまた暴走するか分からないんです。でしたらそれを制御できるサトルさんとユウカの元に置くしかないでしょう」
「それはそうだが……」
「これ以上情が沸いたら元の世界に戻るときにどうするんだ、とか考えているんですか? そんなのこれから考えるしかないでしょう。私も一緒に考えてあげますから」
「それはありがたいが……リオも俺たちと一緒に来てくれるんだな。魅了スキルも解除されたし別に行動を共にする必要もないのに」
「へえ、そうですか。それは大きく出ましたね。これまでの旅で一体どれだけ私に世話になったのかも忘れて。一人前になったと、自分たちだけで大丈夫だとそう宣うんですか?」
「申しわけありませんでした。リオ様、これからもよろしくお願いします」
「よろしい」
いつも衝突してばかりだった俺とユウカの間を取り持っていたのはリオだ。これまでに受けた恩を考えると、これから先もずっと頭が上がる気がしない。
俺の殊勝な態度に納得したように離れるリオ。
入れ違いに近寄ってくるのは俺の最愛の人だ。
「リオと何話してたの、サトル」
「ああ、ユウカ。これからのおふだ巡りの旅に自分も付いていくから、だってさ」
「へえ、ふうん、一人旅じゃ寂しいから、私たちに着いて行こうって考えなのかな。ふふっ、かわいい」
「それ本人の前で言うなよ。完膚無きまでに言い負かされるからな」
付き合うようになってユウカは俺のことをサトルと呼び捨てで呼ぶようになった。当初は慣れずに呼ばれるだけで緊張していたが最近ようやく慣れてきた次第である。
「じゃあユサも入れて四人旅か。居場所も分からないおふだを巡って各地を周るって、何だかこの世界に来たときに戻ったみたいだね」
「そうか? あのときと比べて色々変わっただろ」
「例えばどんな?」
「そうだな――――」
ぱっと気づく点で言えば俺も戦えるようになったことだろう。
大戦の再来と言われたあの戦いで、俺は虜にした者たちから大量の付加魔法を受けて戦った。もちろん今ではその効果は失われているが、そこで得た経験は失われていない。身体能力は上がったし、魔法も付加魔法がないため威力は落ちるが色々と使えるままだ。
もちろんそれで伝説級の竜闘士であるユウカに及ぶわけではないが、一方的に足手まといとなることは無いだろう。
そして何よりも考え方だ。
異世界に来た当初は孤独が最高、自分さえ良ければ他人なんてどうでもいいという考えだった。
だがこの異世界に召喚されてからのかげがえのない日々を。
時に反発したり、時に笑い合ったり。
目の前の一人の少女と共に過ごして。
俺は変わった。
独りは嫌だ。
二人で、ユウカといつまでも共に。
「愛しているぞ、ユウカ」
「……もう、いきなりはずるいよ」
「すまん、ちょっと振り返ってたら急に言いたくなって」
「私も愛しているからね、サトル」
そうして俺たちはお互いを見つめ合って――。
「いやぁ、お二人さんとも。よくこの衆人環視の状況でやるねえ」
「す、凄まじいラブラブ具合です……」
「むぅ……」
「姫様、姫様。抑えて」
「ユサもパパとママどっちも愛してるよ!!」
「あっ、いや。これはだな……!」
「だから、その……!」
みんなにからかわれて、俺とユウカは二人とも顔を赤くしながらあたふたと弁解を始めるのだった。
<恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件 完>
完結!!
いやあ長かったですね。連載開始から一年と八ヶ月ですか。
これからもサトルたちの物語は続きますが、作品はここで終わりです。
少しでも心に残った方がいれば幸いです。
小説は完結ですが、反省会として執筆や作品の舞台裏を語ったものを後日投稿する予定です。
気になる方がいたら是非読んでください。
オリジナルの長編完結させるの初めてでかなりエネルギー使いました。
回復したらまた新作投稿したいと思います。
また別の作品でも会えたら嬉しいです。
雷田矛平でした、ありがとうございました!!




