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124話 サトルの思考


「昨日は魔法の基本を学びましたね。覚えているかなー?」

「はーい、先生! 空気中の魔素を取り入れて自分の身体の内で魔力に変換することです!」

「そう、その通りよ! じゃあ今日はその先をやっていきましょうね!」

「はーい!」


 学術都市、初等部の教室。

 先生の呼びかけに応える元気な子供という光景は世界が変わっても存在するのかと。


「…………」


 同じく初等部の生徒として体験入学した俺は現実逃避するように考えていた。


 周りに5、6歳の子供しかいない中に混じるのはやっぱりキツいとはいえ、魅了スキルしか持たない俺が魔法の教育を受けるとなると、レベルとしては初等部と一緒になるので仕方ないことであった。






 俺たちが学術都市にたどり着いたのは先日のこと。


 俺たちが持つ渡世とせ宝玉ほうぎょくを貸し出す代わりに、持っていた宝玉を譲ってもらう。

 交渉が成立した後、研究室長の体験入学をしないかという提案に俺たちはせっかくだしということで乗ることにした。

 この学園には初等部から大学まである。体験入学するにしてもどこに入った方がいいのかを計るために、俺たちは事務局でステータスを開示した。


「魔導士ですか! これは……凄まじいですね!」

「ありがとうございます」


 事務員はリオのステータスを見て興奮していた。どうやらリオほどの魔法の使い手はこの学術都市にもいないらしい。

 リオは大学で専門的な教育を一通り受けた後、渡世とせ宝玉ほうぎょくの研究について手伝うことに決まった。「これで一ヶ月より早く研究が終わるかもしれないですね」とリオが言っていた。


「そちらの少女は竜闘士ですか……自前のスキルもあるでしょうし、魔法が使えても仕方ないとは思いますけど……」

「そうですね……あ、でも敵が使ってくる魔法の種類とかよく分かってないし、そういうのを学べたらいいんですか」

「となると実戦魔法コースですね」


 ユウカもとんとん拍子に決まって。


「そちらの少年は魔法に関して…………えっと初等部で基本から教わるというのがオススメになってしまいますが……」

「可能ならばそれでお願いします」


 随分と言葉を選んだ事務員に、俺は一も二もなく頭を下げた。

 元の世界では高校生だった俺が小学生扱いされてるわけだが、実際魔法についてはずぶの素人だ。当然の扱いだろう。


「初等部とは……大丈夫ですか、サトルさん? 周りが小学生くらいの子供ばかりってことなんですよ?」

「逆に初等部に俺なんかを混ぜてもらえる方がありがたいことだ」


 と、心配するリオに対して強がって見せたことを早くも後悔することになるとは思ってもいなかった。






 先生による魔力から魔法に変換する説明も終わり実践練習の時間となった。

 異世界人である俺でもちゃんと練習すれば魔法が使えるようになるらしい。その言葉に心躍っていた俺だが……実際には魔法発動の第一プロセス、空気中の魔素を取り入れるというところから俺は躓いていた。

 だいたい魔素って何だよ、本当にそんなもの存在するのか?


「出来た!」

「あら、すごいわねー!」

 しかし子供たちの中から成功させる者が出てきて、俺の言い訳もつぶされた。大人しく試行を繰り返す。


「…………」

 正直に言って、俺が魔法を使えるようになったところで何かが変わるとも思っていない。

 今練習している初級魔法『火球ファイアーボール』はその名前の通り小さな火の玉を一つ飛ばして相手にぶつける魔法なのだが、衝撃波を飛ばしたり氷塊の雨を降らせる仲間たちがいるのにそんなことが出来て何になるというのか。

 分かっているのに俺がこんなところにいる理由……それは悩み事から気を紛らわせるためという側面が大きいだろう。


 独裁都市での一連の出来事により、ユウカへの心証が変わってきた矢先の出来事。王国のスパイ、聖騎士のナキナが、状態異常耐性スキルを持っていると明かしたのだ。

 それによってとりこ状態になることを防げると思っていたが、実際には魅了スキルの支配下において王国に対して逆スパイとして潜入させている。

 そうなると同じく状態異常耐性スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているというユウカの発言がおかしくなる。


 ……おそらくユウカが嘘を吐いて、俺を騙しているに違いない。

 その発想に至った瞬間、俺の精神がズンと沈むのを感じられた。思っていた以上にダメージは大きかった。


 すぐにでもユウカを問い詰めようと思ったが、すんでのところで思い留まる。

 というのも気付いたからだ。どう考えても辻褄が合わないことに。




 状況を整理しよう。

 まずナキナの発言により、ユウカに中途半端に魅了スキルがかかっていることが否定される。

 となるとユウカの本当の状態として考えられる可能性は二つ。

 魅了スキルが完璧にかかっているか、完璧にかかっていないかだ。


 どちらであるかを考えて、俺はすぐに後者だと判断した。

 これまでに何度もユウカは命令を無視した実績があるからだ。魅了スキルにかかっていてはそんなこと出来るはずがない。


 ここまでは理詰めで考えられる。だがここからが分からない。

 というのもユウカは現状、俺の魅了スキルにかかっていると言っているからだ。


 その嘘を吐く意味が理解出来ない。

 魅了スキルにかかっているフリをしても、俺に好意を持っているように見せたり俺の命令に無駄に従ったりしないといけないだけだ。何ら得がない。

 逆だったら分かる。本当は魅了スキルにかかっているのに、俺に命令されたくないためにかかっていないと嘘を吐くのなら。


 そんな非合理的な嘘を吐いたのには……何らかの事情があるのだと。決して俺を悪意で持って騙そうとしているのではないのだと……そう思ったから、未だに行動を共にしている。

 相手がユウカでなければ嘘を吐かれたということだけで失望し、後先考えずに縁を切って独りになっていたかもしれない。




「…………」


 とはいえすぐに今まで通り接することは難しい。昨日もユウカとのやり取りがぎくしゃくしたことは自覚している。


 幸いにも学術都市にいる間はこれまでよりもユウカとは顔を合わせずに済む。日中は違うコースだし、夜も今までは節約のため同じ宿の部屋に泊まることが多かったが、今回は先方の厚意で女子寮の一室と男子寮の一室が割り当てられたため違う部屋に寝泊まりしているからだ。


 ユウカが抱える事情とは何なのか、今後どうするべきか、俺はどうしたいのか?

 一人でゆっくり考える時間が持てるのはありがたかった。



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