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120話 改心


「ううっ……サトル君……」

「ユウカ……悲しまないでください」

「リオ……でも無理だよ。私には受け止めきれない」

「そんなの私も一緒です。しかしそれで天国のサトルさんが喜ぶんですか?」

「それは……」

「私たちは犠牲になったサトルさんの分まで前に進まないといけないんです」

「うん、そうだね! 私、頑張るから! サトル君どうか見守っていてね……」




 ユウカは天を仰ぐ。想いよ届けと願いながら。




「……俺はここにいるぞ」


 茶番に耐えきれなくなった俺はユウカの隣から声をかけた。




「待って、サトル君の声が聞こえる……!」

「本当ですか!」

「うん。えっと……『すまんな、ユウカ。でも俺は一生おまえのことを愛してるから』だって!」

「もう……死んでからやっと素直になったんですか。本当あまのじゃくですね」


 二人は幽霊になった俺から声が聞こえた、と茶番を続行する。どうでもいいが死んだのに一生っておかしくないか?




「はぁ……」

 二人が何故このような茶番をしているかというと、俺が独裁都市内では死んだことになったのを茶化してだろう。


 昨日の話し合いの最後に出されたホミの『えっとサトルさんには死んでもらおうと思ってるんですけど、いいですか?』という提案。

 あれは本当に殺すというわけではなく、死んだ扱いにさせて欲しいという提案だったようだ。それを了承したためこうなっている。


 現在俺たちがいるのは結婚式の会場ともなった神殿前広場だ。あのときは満員だったが、今日は人がまばらにしかいない。とはいえ死んだことになっている俺の顔を見られてはマズいのでローブに付いたフードを深く被り、ユウカ、リオと合わせて三人で聴衆としてこの場にいる。


 さて何故ホミが俺を死んだ扱いにしたかったのかというと、ちょうど壇上で話をしているところだった。




「一昨日の結婚式。余の伴侶となるはずだったサトルは襲撃者の手に掛かって……死んでしまった」


 ホミが壇上でワガママな姫様モードながら悲壮感たっぷりに話す。


 俺がホミと結婚したことは独裁都市中の住民が知っていることだ。実態はオルトとナキナによって強制された結婚なのだが、民はそのことを知らないしホミは今後も明かすつもりもないようだ。


 俺は宝玉を集めるために今日の午後にもこの都市を出て行くつもりである。となるとホミが、あれ旦那さんはどこ行ったの? と疑問に思われるのは当然だ。

 そのため面倒が無いように俺は死んだということにするらしい。幸いにも結婚式に来ていた観客は襲撃が起きた時点で逃げ出したので俺が最後どうなったかは知らない。近衛兵には姫が直々に事情を説明したようだ。

 というわけで無事死んだことになった俺だが、これには一石二鳥の効果もあって。




「余のことを良く思わない輩の犯行に最初は激怒した。それならばさらに民から搾り取ってやるかと。

 じゃが、余の腕の中で息も絶え絶えとなったサトルが言ったんじゃ。『彼らを恨むな。悪いのはホミおまえだ』と。

 自分の命が危ないというときに生意気にも余に説教をして。……じゃが、そうじゃ。サトルの言ったことは間違っていない。全部悪いのは余じゃと。

 すまぬ……今さら謝っても遅いかもしれない。じゃがこれから余は民のための政治を行う。死んだサトルも愛していた、この独裁都市を守っていくために」




 ホミが感情を込めて語るデタラメな話。中々に演技が上手いと思ったが、そもそもワガママな姫自体が演技であることを考えると納得だ。


 ネビュラのやつらは『姫の政治に不満を持って襲撃』と装っていた。それに乗っかり死んだことになった俺との約束で改心したということにする。それで今後は独裁都市のための政治をしていくつもりのようだ。

 ユウカが助けにくる前に俺が提案した死からの蘇生で改心したことにする策の改良版ということだ。




「でも本当のこと言っちゃ駄目だったの? 今までの行動はオルトさんとナキナさんに強制されていたんです、私は悪くないんです、って。ナキナさんが王国の工作員だったって明かすと面倒だからそこだけは伏せておくとして」


 茶番に飽きたのか普通に話しかけてくるユウカ。


「独裁都市の民は高い税金や連発された愚策のせいでホミに恨みを持っている。私は悪くなかったんですと言われて納得するやつも中にはいるかもしれないが、『知るかボケ』ってキレる方が多いだろ。

 それにそもそも釈明して何の得になる。ホミが精神的安寧を手に入れるだけでしかないだろ。民には一銭の得にもならない、過ぎた二年間は戻らないんだよ」


「それはそうかもしれないけど……でもホミさんが悪い印象のままなのはかわいそうだよ」


「だとしてもあいつはそれを背負っていくって決めたんだ。外野がとやかく言う必要はねえ」


 結婚式前夜、魅了スキルで聞き出したホミの覚悟は固かった。茨の道だとしてもホミならやれると信じている。




「まあでもここまで敵意剥き出しだと辛いですね」


 リオが聴衆を見渡してつぶやく。


 今までホミが演説するときはこの広場に詰めきれないほどの人が集まったらしい。というのも集まらなければ処刑だと担当者を脅して必死に集めさせていたからだ。

 今のホミは当然そんなことはしない。そのため聴衆はまばらで、集まったのも自主的に演説を聞きに来ようと思った人か、いざ心変わりしたといっても本当は変わっていなくて、行かなければ悪いことが起きるんじゃないかという猜疑心の強いものなどだ。


 そんな中改心したというホミに聴衆から罵声が飛ぶ。


「独裁都市を良くしたいっていうなら、まずおまえが辞めろ!!」

「おまえのせいで何人が死んだっていうんだ!!」

「今までの責任を取れ!!」


 一人が堰を切ってしまえば後に続くのはすぐだった。壇上のホミに向かって誹謗中傷が雨あられと降り注ぐ。




「酷い……みんなで寄ってたかって……」

「そう思えるのは俺たちが裏側を知っているからだ。俺たちだってパレードの前、何も知らないときは姫様を悪者扱いしていただろ」

「それは……」

「ここまで虐げられてきたんだ。正当な権利だとは言わないが、罵声の一つや二つを投げてしまうのは正直仕方ねえだろ」


 ユウカを諭しながら、俺はホミの反応をうかがっていた。


 どんなに辛くても諦めないとは言った。だが、それが現実目の前に起きても貫けるか。




 見守る中、ホミが壇から横に出る。

 それは聴衆に見えるようにするためだったのだろう――自分が土下座する姿を。


 流石に土下座しているところに罵声を浴びせるほどの畜生はいなかったようだ。静かになったところで、ホミはそのまま口を開く。




「本当に、本当に申し訳なかった。どれだけ言葉を尽くしても許せないじゃろう。責任を取って辞めろという声も当然分かる――」


 と、そこでホミが身体を起こす。


「じゃが辞めるつもりはない。責任を取るつもりが無いわけではなく、逆にここで辞めては無責任だからじゃ。

 余のせいで傾いた独裁都市を、余の手で立て直してこそ責任を取ったと言えるじゃろう。

 もちろんそれを気にくわなく思う者もおるじゃろう。じゃから余がこの独裁都市のトップとしてふさわしいかは民に直接問う。定期的に投票を行い、民の半数が余のことをふさわしくないと出た時点で即刻余はこの座から降りる。

 余は気づいたんじゃ。この独裁都市を愛していることを。先代、余の母のように独裁都市を今度こそ導いてみせる。

 余がワガママ姫と呼ばれているのは知っておる。そしてこれが余の生涯最後のワガママじゃ、どうか聞き入れてもらえるとありがたい」


 ホミは正面を力強いまなざしで見ながらそこまで言い切ると再び頭を地面に付けた。




 ホミの迫力に押されたのかしばらく聴衆は無言だった。しかし時が経つに連れて、発言の意図を理解していくにつれ声が溢れ出す。


「結局権力に縋り付きたいだけじゃねえのか?!」

「投票はいい、だがその結果をどこまで信じられる! どうせ票の不正を行うんだろ!」

「おまえに取れる責任はすぐに辞めることだけだ!!」


 反発の声は少なくない。どれだけ言葉を飾っても執政者を続けようとするのは、ホミの表したとおりワガママだ。許せない者がいて当然。


 しかし。


「そこまで言うなら……ねえ」

「今の感じからして上っ面だけの言葉だとは思えないし……」

「ちょっとは信じてもいいかも……ちょっとだけど」


 ホミを擁護する声もちらほらだがあるようだ。




「まあこれなら大丈夫だろ」

 少しだとしても味方がいるなら十分だ。

 実際ホミには王としての資質がある。時間が経つに連れホミが本当に独裁都市のことを思っていることは民に伝わっていくだろう。


「これで独裁都市の住民も困らなくなる。ユウカも心配じゃなくなるよな?」

「あ……サトル君覚えてたんだ。うん、本当に良かったよ」


 正常に回り始めた独裁都市。

 これなら後顧の憂い無く旅立つことが………………いや、一つだけ。




「そうなるとここでお別れってことだよな」




 俺の視線の先には聴衆の言葉に真摯に答えるホミの姿があった。



次が5章最終話になります。

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