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121話 露呈


 姫様の演説の後、時間を置いてからユウカこと私たちは神殿最上階の執務室に向かっていた。

 これから私たちはまた次の目的地に向かう。その前に姫様がお礼とお別れの言葉を述べたいということで招かれていたのだ。


 ただ。


「そんなの無視して出発すればいいのに……」

「何言ってんだよ、ユウカ。世話になったのに何も言わずに去るのは礼儀知らずだろ」


 サトル君が至極まともなことを言う。

 私だってそんなことは分かっている。サトル君が生き残ることが出来たのも、姫様と二人で協力したおかげだ。そのことについては感謝している。

 しかし、姫様はサトル君のことが好きだ。魅了スキルのせいだとしても、私のライバルであることには変わりない。お別れの際に何かするのではないかと私は戦々恐々していた。


「はぁ……ユウカも大人げないですね」

「ど、どういう意味よ!?」

「そのままですよ。あまりおどおどせず、どっしりと構えてください」

「……?」


 馬鹿にされたと思ってつい声を荒げたけど、リオはどちらかというと呆れているようで首をひねる。

 しばらくして執務室にたどり着き中に入った。




「よっ、ホミ邪魔するぞ」

「サトルさん!」

「演説聞いたぞ」

「私も壇上からサトルさんの姿は見えていました!」

「そうか。内容も中々良かったんじゃないか。もちろんこれからが大事だとは思うが」

「分かっています。この後も早速関係各所との話し合いがあって……これでお別れなのにあまり時間が取れないのが残念です。もっとたくさんお話したいのに」


 来客を感知した姫様がそそくさと立ち上がりサトル君の元に向かう。んー、何か二人のムードが……。


「二人で軟禁された一週間で十分満足するくらい話したと思うが。あのときは本当一日中暇を持て余していたし」

「それでもまだ足りないんです! ……ねえ、サトルさん。やっぱり考え直しませんか?」

「その話こそ何回もしたじゃねえか」

「だとしても諦めきれないんです。サトルさん、これからも独裁都市に住んで、私と一緒に――」




「駄目ぇぇぇぇっ!!」

 今にも抱きつこうとしていた姫様とサトル君の間に私は割って入った。


「そんなの絶対駄目だから! サトル君はこれからも私と一緒に旅をするの!」

「それを決めるのはサトルさんでしょう。何の権限があってサトルさんの行動を強制するんですか?」


 良いところに邪魔が入った姫様はムッとした表情でこっちを見てくる。


「コラコラ、二人とも争うなって。すまんがホミ、何度言われても俺の答えは変わらない。俺はユウカたちと共に宝玉を集めるためこの都市を出て行く」

「サトル君……!」

「っ……そうですか」


 歓喜に染まる私と落胆する姫様。




「元の世界に戻るためだ、分かってくれホミ」

「……そんなの分かっています。でも、だとしたらこれが今生の別れということに……」

「え、何言ってるんだ?」

「え?」

「元の世界に戻る前にまた会いに来るに決まってるだろ。独裁都市がどうなるかも気になるしな」

「本当ですか!?」

「ちょ、ちょっとサトル君!? 何言ってるの!?」


 歓喜に染まる姫様と焦燥する私。




「いや、宝玉を集めるのは駐留派と復活派がいることから急務だろ。でもだからって集めた後に戻ることまで急がないといけないわけではない。今まで回ってきた町を再訪するくらいのことはしたいって最初から思ってたし」

「そうですね。独裁都市だけでなく、リーレ村や商業都市あたりもでしょうか。私たちを支援してくれた村長タイグスさんやオンカラ商会長にもお礼を言いたいですし」

「おお、そうだな。リオの言うとおりだ」

「リオっ!?」


 親友に背後から撃たれた格好だ。




「分かりました! ではまたサトルさんが会いに来る日をお待ちしています! もちろんそのときになって独裁都市に住みたい、私と一緒になりたいと心が変わったとしても、私は全然オーケーですからね!」

「またそんなことを言って……うふふっ、知ってる? しつこい女は嫌われるのよ?」

「知ってますよぉ、嫉妬深い女が嫌われるってことくらい」


 ぶちっ、と頭の中で何かがちぎれ飛ぶ音を幻聴した。


「……ねえ、サトル君。ちょっとの間席を外していてくれない?」

「奇遇ですね、私も頼もうと思っていました」


 醜い言い争いになることを予想した私は、それを見られないようにサトル君に提案する。姫様も同じようだ。


「お、おう……それくらいいいけど。あまり熱くなるなよ。リオはもしものときのブレーキ役頼む」

「頼まれました。その間サトルさんはどちらに?」

「ちょうどいいから独房区画に行ってくる。出発前には戻ってくるつもりだから」

「なるほど、分かりました」


 サトル君が執務室を出て行く。

 バタン、とその扉の閉まる音が開戦のゴングだ。




「じゃあ言わせてもらうけど――」

「何でしょうか、本当は魅了スキルにかかっていないユウカさん」

「な、何を言って……!?」




 先制のジャブを放とうとした私は、カウンターのストレートにいきなり被弾した。


「あれ、違いましたか? てっきりその話をするためにサトルさんを追い出したのかと思いましたが」

「そんなわけないでしょ! だ、大体何を勘違いしているのか知らないけど、私は『状態異常耐性』スキルのおかげで魅了スキルが中途半端にかかっているだけで」

「それが嘘だとはリオの口から聞いてますよ」

「ちょっと、リオ!?」


「私は悪くありません。ホミに悟られるユウカが悪いんです」


 くわっと目を見開いて親友を睨むと、口笛を吹きながらそっぽを向いているところだった。そういえば昨日から二人が名前で呼び合っていて気になったけど、二人が何らかの理由で親しくなっていてそのときに私の秘密の話をしたのかもしれない。




「ホミもユウカをあまりいじめないであげてください。その役目は私のものです」

「あんたのものでも無いわよ!!」

「了解です。しかしここまで反応が面白いといじめたくなる気持ちも分かりますね」

「分かるな!!」


 私の頭上ごしに広げられる勝手な会話。

 気づけば先ほどまでの緊迫ムードが霧散している。


「で、でもどうして私が魅了スキルがかかってないって分かって……」

「見れば分かります。だって二人ともお似合いなんですもの」

「お似合いって……」

「なのに私がちょっかいかけたくらいで取り乱して……本当大人げないです」


 呆れたように首を振る姫様。展開に付いていけずポカンとなる私。




「どういうこと、リオ?」

「ユウカだって気づいているんでしょう。結婚式で助けて以来、サトルさんといい感じなことを」

「それは……」


 リオに言われるまでもなくだった。

 サトル君との距離が近くなった感じはしていた。ただ本当にそうなのか、私の自意識過剰かもしれないと表には出していなかったけど……。


「一緒に軟禁されている間も、サトルさんはユウカさんが助けに来るかずっと気にしている様子でした。それが本当に助けに来たものだから心を開いたというところでしょう」

「……もうサトル君ったら」


 この期に及んでサトル君は私に裏切られるかもしれないと不安に思っていたようだ。そんなことあるはずないのに。




「お似合いの二人の強固な関係に、私は自ら身を引くことにしたんです。だからというわけではないですが、ちょっとくらいイジワルしてしまったのも流してください」


 姫様が頭を下げる。そういうことなら私も正妻の余裕として流してやっても――。




「あれ? でもこの前ホミも諦めないという話をしたばかりですよね?」

「どういうこと?」

「――てへっ、バレましたか」


 顔を上げた姫様は舌を出している。


「サトルさんがまた会いに来るって話ですし、ユウカさんを油断させておいてそのときに奪おうと思ったんですが……」

「ふふっ、再訪するときには私とサトル君はラブラブな恋人になってるでしょうから。姫様……いやホミさんの割り込む隙はありませんよ」


 こんな人を食ったような少女に様をつけるのもバカバカしくなり名前で呼ぶ。


「それはどうでしょうか。未だに魅了スキルにかかっているとサトルさんに嘘を付いているようなユウカさんに成し遂げられるとは思いませんね」

「ぐっ……それは……」

「武士の情けでサトルさんには告げ口しないであげますが、また会うときにサトルさんがフリーなら本気で落としにかかりますからね」

「……分かったわ」


 ホミさんの言葉は本気なのか、中々一歩踏み出せない私への発破なのか……判断は付かないけど、私の心に火が付いたのは確かだ。




「さて。それはそれとして、戻ってくるまでサトルさんの話でもしませんか。軟禁中サトルさんがどんな様子だったか気になりますし、ホミもサトルさんの話が聞きたいでしょう?」


 リオが柏手を打ってから提案する。


「それは気になるけど……」

「私もですね。一通りは本人から聞いたんですけど、自分の恥ずかしいところは絶妙に隠している様子でしたし」

「話が付きましたね。ちょっとミニキッチン借ります、お茶を入れたいので」




 それからはリオの入れてくれたお茶を片手に、同じ人を好きになった者同士話が弾み、先ほどまで言い争っていたとは思えないほどに穏やかな時間が過ぎていった。






ーーーーーーーーーーー






「はっ、サトル殿。何か御用でしょうか!」

「そんな敬礼までしなくても。この先の独房に用があるんですが」

「承知しました。鍵を開けます!」


 敬礼する近衛兵に若干引きながら俺は用件を伝える。

 市民には死んだと伝えられたが、近衛兵は俺が生きていることを知っている。ホミがどのように伝えたのかは分からないが、俺の扱いは独裁都市トップのホミ同様なほどであった。ここに来るまでにあった近衛兵にも敬礼されたし。


「全員房の中にいるので危険はないと思いますが近づきすぎないようにしてください!」

「分かっています。それとナキナについては……」

「兵長もまたサトル殿と同様に死んだ扱いになっているため、夜になって人目が少なくなってから動くつもりですが」

「それなら大丈夫です。俺たちはこの後出発するつもりなので全ておまかせします」

「はっ、承知しました!!」


 一々リアクションの大きい近衛兵を置いて俺は独房が並ぶ通路を歩く。




 神殿内にあるこの独房は政治的に明るみに出せない者など特別な者を収容するために市民にも極秘に存在するそうだ。

 結婚式のときに捕まえたネビュラの一般構成員は都市内にある普通の刑務所に入れられているが、団結されないように離す意味でまとめ役であったクラスメイトたちや近衛兵長ナキナはこの独房に入れられているという。


「つっても捕まったクラスメイトは二人だけだったんだよな……」


 俺たちに対峙した太ったクラスメイトとめがねをかけたクラスメイトだけで、リオが対峙したらしいギャルのエミともう一人には逃げられたそうだ。

 ということは宝玉を奪い争う相手である以上、また会う可能性はあるだろうが……。


「そういえばエミについては、リオが気になることを言っていたな……」


 カイに騙されて利用されているだけかと思いきや、そのことを分かっている様子だったと。そうでもしないとカイに見てもらえないからと言ったそうだが。


「だとしたら…………まあ、今は関係ないか」




 ナキナは独房の最奥に収容されているようだ。かなり歩かされる。

 一人で話す相手もいないためつれづれと思考が流れる。


 そういえば次の目的地に行くとは言ったが、まだどこに行くかは聞いていないな。後でリオに聞いておかないと。

 まあどんな場所だろうと大丈夫だ。竜闘士のユウカと魅了スキルを持つ俺、幅広くサポート出来るリオの三人が入ればそう簡単に遅れを取るとは思えない。


「………………」


 ユウカ……ユウカには今回の出来事を経て俺の中で大きく心象が変化したことを自覚している。

 これまでだって信用はしていた。だが今は信頼できている。ユウカにだったらためらわずに背中を預けられる。


 そうだ、今回はわざわざ俺のために助けに来るなんてこともしたのだ。しかも魅了スキルの命令をものともとしなかったことから、ユウカ自身が助けに来ようと思ったというわけだ。

 そんな相手に騙されるなんて想像する方が馬鹿げている。

 ただ一つ残念だとしたらその好意が魅了スキルによるものだということだ。もし本当にユウカに好かれていたとしたら…………俺は……。




「ニヤニヤしながら歩いてどうした?」

「っ……!」




 冷やかすような声をかけられる。

 いつの間にか目的地に着いていたようだ。


「おまえには関係ないだろ、ナキナ」

「察するに恋愛ごとではないのか? だとしたら関係あるだろう。私はおまえのとりこなのだからな」

「……命令だ、これ以上下らないことを話すな」

「やれやれすぐ命令か。まあいい、ならば本題に入ってもらおうか」


 ナキナは房の中から俺を揶揄するように笑っていた。




「ここに来たのは最終確認だ。これからおまえにしてもらうことのな」

 ナキナに急かされるまでもなく、こいつと無駄話をするつもりはない。俺は早速本題に入る。




 こいつを使って何をするつもりなのか、それには一つ警戒しているものが元になっている。

 今回争うことになった王国。この世界の支配をもたらす彼の国とは、今後も関わることがあるかもしれない。

 なのに無警戒でいるわけにはいかない。やれることはやっておく。

 どのように動いているのか、その手の内を探るために――。




「ナキナ、おまえを逆スパイとして王国に潜入させる。王国の黒い部分には詳しいだろうしな」

「最初はこのまま処刑されるかと思っていたが……本当こうなるとはな」


 俺はナキナを見下ろす。


「もちろん拒否権は無い。おまえには徹底的に王国を裏切ってもらう。そのためにありとあらゆる命令を既に施してある」


 工作員としておそらく敵に囚われた場合の想定はあるのだろう。何らかの符丁で自分の状況を知らせたり、助けを呼んだりなど。その全てを魅了スキルの命令で封じる。ホミからナキナの扱いを預かって以来、時間を見ては命令をしておいてある。


「やれやれ手厳しい。王国に忠誠を誓った私が裏切り者になるとは。だが王国の方は裏切り者を始末することを躊躇しないぞ、私が魅了スキルで操られていることなどお構いなしだろう」

「だろうな、だからおまえには最大限努力して王国を探るように命令する。手を抜いてわざと捕まり王国のために命を殉じることも許させない。

 それでも相手の方が上手で捕まってしまった場合は――そのまま死ね」


 こいつは独裁都市を混乱させただけでなく、何人も殺した極悪人だ。その命令をすることに躊躇いは一切無い。


「承知した、新しき主よ」


 殊勝に従っているように見えて、こいつの心は未だに王国を崇拝しているだろう。命令は解釈の余地が無いくらいに雁字搦めにしておかないと寝首をかかれるかもしれない。その確認にやってきたのだ。




 これまでにかけておいた命令をナキナの口から復唱させる。

 基本的には王国のことを調べさせて、俺たちに定期的に連絡するようにという命令だ。だがあらゆる状況に対応できるように命令は多岐に渡っている。

 考え得る限り大丈夫だと判断した俺は確認を終了した。


「じゃあ今日の夜から行動開始だ。近衛兵の手引きに従って王国を目指せ。有用な情報を少しでも掴めるようせいぜい頑張るんだな」

「人使いが荒いな。これなら前の職場の方がホワイトなくらいだ」

「恨むなら魅了スキルにかかった自分を恨め」

「……本当にそうだな。実際食らっても私がとりこになるとは思っていなかった。もう少し本気で対策しておくべきだったか」

「……?」


 ナキナの言葉が気になる。


 食らってもとりこになるとは思わなかった……とはどういうことだろうか?

 いや、そういえば俺とホミが軟禁されているときに、やつはやけに強気にかからないと言っていた。


『それに……どうせまともに食らっても、私が貴様のとりこになるとは思えん』


 やつには何らかのとりこにならないと思う理由があったとしたら……。




「それはどういう意味だ? 魅了スキルの効果対象のことか? 自分が『魅力的な異性』に当てはまらないと思っていたとか」

「何を言う。私ほど魅力的な女はいないだろう。柄ではないがハニートラップをこなしたこともあるぞ」

「そんなこと知らねえよ。だったらどうしてとりこにならないと思ったんだ?」


 ナキナの自信の源が気になり聞き出そうとして――。








「『状態異常耐性』スキルだ。聖騎士に備わっているスキルで……そういえば貴様の仲間の竜闘士も持っていたんだったか。

 このスキルのおかげで私は並大抵の状態異常にはかからない。だからとりこ状態にもならないと思っていたが……いや、そもそも固有スキル相手に普通のスキルで敵うと思ったのが間違いだったか」








「………………は?」


 俺の思考は完全に停止した。



「………………」

 『状態異常耐性』スキル。

 そのスキルは竜闘士のユウカに俺の魅了スキルが中途半端にかかっている理由のはずだ。

 それなのに同じスキルを持っているナキナには完全に魅了スキルがかかっている。


「おまえっ!! それは本当なのか!?」

「……? 本当だが……何故動揺している?」


 激しく狼狽えている俺に、ナキナの方が困惑しているようだ。




「………………」

 落ち着いて考えろ。

 ユウカと俺の事情を知ったナキナが騙している……この可能性はない。ナキナが俺の事情を知っているなら手紙のからくりに気付いただろうし、ユウカやリオがナキナにわざわざその話をするとも思えない。

 そもそも魅了スキルがかかっているナキナが俺に逆らうことが出来ない。ナキナ自身も特に意図することがあってスキルのことを話したのではないようだ。




 だとしたら――信じたくない、考えたくもない。

 だが残された可能性は……。






「ユウカが俺に嘘を吐いている……のか?」






 ユウカなら信じられると……共に進んでいくその先には輝かしいイメージがあったのに。

 今や暗雲がかかっていた。





5章『独裁都市・少女姫』完結です。

開始からちょうど三か月かかって、約17万文字とこれまで以上に長い話となりました。


今回の話は『まさかヤンデレなのか!?』と『結婚式に乱入する主人公ヒロイン』をやりたくて構成しました。

姫様、ホミとはここで一旦お別れですが、その内また出番がある予定です。




6章は3歩進んだのに4歩戻りそうなサトルとユウカの関係にクローズアップして描く予定です。

8月を目標に戻ってくるつもりです。




引き続きブクマや評価、感想を募集しています。


もらえると作者がむせび泣いて喜ぶので、どうかよろしくお願いします。


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