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107話 結婚式2 回顧


 私はいつだってこの独裁都市のことを考えていますから、ええ。


 司祭オルトは回顧する。




 先代の大巫女、ホミ姫様のお母様は、民のことを常に考えた政策を打ち出すそれはそれは素晴らしい執政者でした。

 ですがあまりにも民のことを思うがばかりに外敵のことなど考慮できていないこともあり……そのときに全体の情勢を鑑みて忠言するのが司祭であり都市のNo.2である私の役目でした。


 ホミ姫様には見せないようにしていましたが、スタンスの違う彼女と私は政策のことで何回も衝突していました。

 しかし彼女も頭の固い人ではなく、きちんとこちらの話に理があると判断して折れることもありました。逆にこちらに理がないと判断すると絶対に考えを曲げませんでしたね。

 今思うといざというときは止めてくれる私という忠臣がいるからこそ、彼女は民のことを全面的に思うことが出来たのだと……いや、そう思うのは自惚れが過ぎますかね。


 そういうところから、どこに行っても民に慕われる彼女。

 対して私は目立ちませんでした。


 いえ、それは当然です。私の役目は目立つことではありませんのですから。しかし……こんなに都市のために尽力しているのだから、少しくらい報われてもいいんじゃないかと思ったのも事実でした。




 事態が急変したのは3年ほど前でした。

 彼女が流行病に罹ったのです。


 私は臨時的に執政者として腕を振るいながらも、彼女の回復に努めました。しかしそれも叶わず……彼女は亡くなりました。


 悲しみました。思想上衝突することは多かったですが、彼女の人柄は好んでいました。彼女を支える立場に誇りすら感じていたんですから。


 ですが悲しんでばかりはいられません。彼女の死を以て、大巫女はその娘であるホミ様に引き継がれます。彼女の思想を色濃く受け継いでいるホミ様。年齢こそ若いものの、いずれ彼女のように偉大な執政者になるのは想像が付きました。


 最初は未熟な面が目立つかもしれませんが、だとしても私が支えればいいのです。

 私はNo.2の立場で引き続き頑張って――。




「本当にそうなのか?」


「え……?」




 先代の大巫女の葬式を終えて、心を切り替えようとしている私の前に現れたのは……近衛兵長のナキナでした。


「この一年。先代の大巫女が病床に伏している間、あなたは臨時的ではあるがこの都市の頂点にいた。都市の執政と先代の回復に尽力するあなたに民は注目し、多くの声や期待をかけた。

 No.2として王を支えていたときには無かったもの。それをあなたは心地良いと感じたはずだ。だが先代も亡くなり新たな大巫女が受け継がれる。あなたもNo.2に戻される」


「……」


「あなたはそれでいいのか?」


 ナキナは私の思っていることを的確に突いてきました。




「いい……というべきなのでしょう。私は我を殺して、支える役に徹するべきなのですから。

 しかし、私は知ってしまいました。多くの人が私に従う快感を、己の思った通りに事が成る快感を、王として振る舞う快感を……!

 ええ、認めましょう! 私はこの事態を口惜しく感じていることを! 最初こそ先代には死んで欲しくないという思いだけでしていた看病も、途中からは死んで欲しくないが病気も治って欲しくないと思ってしまったことも!

 ……ですがそうならなかったのです。ならば私は元のNo.2に戻るだけです」


 見透かしたようなナキナの態度に、私は思いの丈を洗いざらいぶちまけていました。

 抱えていた思いを吐き出してすっきりした……というオチなら美談になったでしょう。


「いや、そうとは限らない」


「……え?」


「No.2のあなたと近衛の長である私。二人が組めば……権力の頂点も獲れるのではないか?」


 しかし、ナキナはそこからまさしく悪魔の提案を持ちかけてきたのです。






 そして月日は流れ現在。

 あのとき思い描いていた通りの未来まであと一歩というところまで来ました。




「この忙しいときに、どこに連れて行くつもりだ」

「まあまあ付けば分かりますよ。一度ナキナさんにも見せておきたいとは思っていたんです」


 姫様と少年の結婚式がもうすぐ始まるということもあり、神殿内は準備のため職員のほとんどが出払っています。そんな中を私とナキナさんは歩いていました。

 目的地は神殿一階、行き止まりの壁。それを決められた手順で私は触ります。すると。


「……驚いたな、こんなところに隠し通路があったとは」

「大巫女と司祭しか知らない通路です。もっとも姫様は大巫女になってから自由に行動出来なかったため、入ったことは無いでしょうが」


 現れた下り階段。二人で中に入った後、壁を元通りにしてから私たちは進みます。




「思えばナキナと出会ってから約二年が経ったのですか」

「いきなりどうした」


 階段を下りながら私とナキナは言葉を交わします。


「ふと、思い出しまして。長くかかりましたが……いよいよ今日私たちの野望は叶うのですね」

「そうだな」


「長い道のりでした。まずはホミ姫様を軟禁して服従させ、自分本位に振る舞わせることで民からの支持を削る。同時に私がお目付役として奔走することで支持を得ていきました。

 機が熟したと見た今回、最後に演説で姫様に特大のヘイトを稼いでもらった後、パレードの大観衆の前で殺すつもりでした。


 あんなワガママな姫様死んでしまえばいいと思っていても、いざ目の前で死ぬと混乱するのが人間というものです。

 そうやって民が動揺する中、予定通りの私はどうにか感情を抑え込みながらと装いながらも迅速に動き事態を収拾。

 姫様の襲撃犯として自ら用意しておいたスケープゴートを捕まえて見せます。仇を討った演出で英雄視されることで、その後大巫女の後継者がいないためぽっかり開いた権力のトップに就くのは私がふさわしいというムードを作ります。


 そしてそのときこそ私は名実ともにこの都市の王となるのです」




「私としてはわざわざ大観衆の前で殺さなくても、今の情勢的に姫様が死ねば後継はオルトに収まると思うがな」

「同感ですがそれではげすの勘繰りをする者も出てくるでしょう。権力を奪うために私が姫様を殺したんじゃないかと」

「まあ、実際そうだしな」

「私は完全に支持される王に成りたいんです。そのため姫様には大々的に死んでもらって、そのインパクトで民の注意を逸らしてもらわないと」




 そのとき階段を降り終えます。しかし、そこで到着ではなく平坦になった道をもう少し歩かないといけません。


「ところでそろそろ教えてもらえないか? 何故このタイミングで隠し通路を進まされているのか? この先に何があるのかを」

「ええ、そうですねえ。このタイミングであることは簡単なことで、職員がほぼ出払っているからです。先日の漏洩した情報からして、どうやら王国の間者は神殿内部に潜んでいるようです。その者にこの先にある物を万が一にも見られないように、こうして人目の少ないタイミングで動いているんです」

「用心深いのはいいが、わざわざこんな忙しいときにしなくても……」

「いえいえ、忙しいのはこれからですよ。私の試算では姫様殺害の対応で今日から向こう一週間は忙殺されるでしょうから」

「ため息が出るな……はぁ……」




 そのときちょうど目的の場所にたどり着いた。


「そしてこの先にあるものは……この通りです」

「そうか。誰にも見つかってはいけないもの……ここにある金は表に出せないものってことでいいか?」

「その通りです。姫様を通じて法外な税で巻き上げた金の大部分がここにあります。

 表向きは神殿を豪華にするためにという名目ですが、もちろんそんなことには使いません。陰謀の協力者に支払った分、今回ネビュラへの依頼金もここから出していますが、それでも額が額だけに大部分は手付かずです。

 この金は私が王になった後、全て軍事拡大のために使います。現在勢力を伸ばしつつある王国が、近い位置にあって広大な領地を持つこの独裁都市に目を付けるでしょう。……民のためを思った政治ではいずれ訪れる難局に対応できない事は明らかです。そのために私は悪魔と契約したのですから」




 名誉に対する欲が無いとは言いません。しかし、それだけで動いていないことも確かなのです。

 幼い姫様に任せては、これからの激動の時代は乗り切れない。

 独裁都市は滅ぼされるでしょう。


 そうはさせません。先代が愛したこの地を守るために……私は心を鬼にして……。




「見上げた心上げだな。これだけの金を前にすれば少しくらい自分の懐に入れようと思ってもおかしくないのに」

「私はいつだって独裁都市のことを考えていますから、ええ」

「それで。どうしてその金の居場所を私にも教えたのだ?」

「これから私は王になります。忙しくてここに来る余裕も無いことも出てくるはずです。そのときのためにもう一人この場所を知っていて、金を動かせる者がいた方がいいという判断です」



「そうか、その役目に私を選んだという事は……私を信頼しているのだな」

「もちろんです。そうでもなければここまで陰謀を共に進めたりも出来なかったでしょう」

「……それもそうか。この際だ、他にも共有しておく秘密でもあるか?」

「いえ、特には。私の全ては打ち明けました。これからもよろしくお願いしますよ、ナキナさん」


 私の求めに対して、これまでずっと忠実に働いてきたナキナ。

 先代に対しての私のように、これから王となる私のNo.2として長い付き合いになるだろうとその言葉をかけて――。






「ならば任務はここまでだな」






「え…………ごふっ……!?」


 その瞬間に起きた出来事は理解不能でした。


 どうして私の胸から剣の切っ先が飛び出しているのか?


 ……誰かに襲われていやここには私とナキナの二人しかいません隠れるような場所も剣は背後から私を刺してしかし背後にはナキナがいて賊に後れをとるような腕ではなくそもそもこの剣の持ち主は。




「こうも無防備では斬り甲斐が無いな。スキルを使うまでもない」


 剣が抜かれる。

 痛みや血の喪失、襲撃した人物がはっきりとなったショックが合わさり、床に崩れ落ちるように倒れた私は、それでも最後の力を振り絞って見上げます。


「どう……して……裏切、ったのですか……ナキナ?」

「おめでたい頭だな。私は裏切っていない。元々貴様に忠誠を誓った覚えも無いからな」

「っ……それ、は……」




「私の行動方針は最初から一貫している。――全ては王国のためだ」




「まさか……あなたが、王国の、間者……?」


 警戒していたのに網に引っかからなかった理由は……つまり最初から……。




「王国を驚異と見なし対応しようとしていたのは流石と言っておこう。しかし想定が遅過ぎたな。貴様が思っているよりも王国による各地への侵食は既に進んでいる」


「そん、な……」


「私の役割はこの独裁都市の弱体化。そのため潜入した私は貴様に目を付けた。王の器も持たない癖に愚かにも自身が王になろうとした貴様にな。

 結果は上出来だ。領地は荒れ果て、犯罪が蔓延り、民は疲弊した。あとは巻き上げた金さえ奪えば再起は不能と判断していた。その隠し場所を暴くために、従うフリして信用を得ていたわけだが……こうして分かれば用済みの無能は不要、ここいらで退場してもらおうというわけだ」


「……」


「おや、もう返事する余力も無いか。さて、ここの金の運搬は他に任せて……ああ、そうだ安心しろ、計画は最後まで完遂する。姫と魅了スキルの少年には今日死んでもらう。

 私から見ても分かる。貴様と違って、姫は類い稀なる王の素質を持つものだ。やつを中心として復興する可能性を奪うために殺す。この世界に王は、我が王一人存在すればいいからな。

 そして魅了スキルの少年も確実に殺す。やつの力が存分に発揮された場合、王国の危機となる可能性が僅かではあるが考えられる。どんな芽も摘んでおかないといけないからな」




 ナキナは……そこまで、言うと……倒れ、伏した私に、興味を……失った、ようにその場を、去って……いき、ます。




「…………」


 命が……喪失していく、意識が……薄れる。


 最期に、私が思い、浮かべたのは……謝罪。




 申し訳、ありません……でした、姫様……と。




 今さら、どの面、下げて……謝ってるの、でしょうね…………。



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