106話 結婚式1 準備
やってきた結婚式の朝。
俺とホミは朝からやってきたオルトとナキナにそれぞれ部屋から連れ出された。
久しぶりに部屋の外に出たが、オルトが常に監視の目を光らせているため妙なことは出来そうにない。ホミの方もナキナが付き従っている。
神殿の一階にある大部屋に通される俺。ホミは別の部屋のようだ。
人員総出で慌ただしく準備が進んでいく様子が見て取れる。それでも魅了スキルを持つ俺に女性の職員を近づけさせないように細心の注意が払われているようだ。
俺の用意はというと着替えるくらいだけだったので、タキシード姿になってからはぼーっとする時間もあった。
だから愚痴をこぼす職員二人の会話を聞く余裕もある。
「へえ……あの方が姫様のお相手ねえ」
「おい、聞こえるぞ」
はい、聞こえてます。
「大丈夫だって。つうか冴えなさそうなやつに見えるけどなあ」
「まあ、それは……。姫様が一目惚れするくらいだから超イケメンなのかと思ったけど、見る限り普通だよな」
「パレードで初めて会ってから一週間で結婚式が開かれるくらいの超絶スピード婚なんだろ。何が決め手だったんだろうな」
「さあな。にしてもこれで姫様もちょっとは丸くなってくれるといいけどな」
「そうだな。俺はもう半分諦めてるから受け入れたけど、親が黄金像建てるって言った姫様に激怒して、いつも愚痴ばかり聞かされてさあ」
「おう、それはご愁傷様」
「ワガママの矛先が旦那に向かうことを祈るばかりだぜ」
最初は諫めていた同僚だが結局一緒になって愚痴をこぼしながら去っていく。
「………………」
一週間……そうか、パレードから今日で一週間経つのか。
もうというべきか、まだというべきか悩む。姫に捕まってからは傀儡であったことが判明したり命の危機が迫ったりと怒濤の展開だったが、あの部屋から一歩も出れず特に代わり映えの無い日もあって、時間感覚がめちゃくちゃになっている。
そしてホミの言っていたとおり、かなりヘイトが集まっているようだ。俺との結婚で丸くなるように願われているが……その前に殺すのがオルトたちの狙いだ。
「サトルよ」
「……どうなされましたか、姫様」
いきなり声をかけられてビックリしたが、どうにか反応できた。
そこにはナキナを傍に控えさせたホミがいた。ぼーっとしている間に近づいてきていたようだ。
尊大な態度に呼び捨てで名前を呼ぶホミに俺も恭しく対応する。
現在周囲にはこの都市の真実を知らない人が大勢いる。その人たちのイメージを崩させないために、ホミにはワガママな姫を、俺は従順な人間を演じるようにオルトとナキナから命令されていた。
ということがあって今のやりとりなのだが……。
「やっぱりその言葉遣い面白いな、ホミ」
「うー……分かってますよ!」
小声でからかうとホミも小声で恥ずかしそうに返す。
ホミの本当の姿を知ってしまった俺からすると吹き出してしまいそうだ。
「こほん……それよりずいぶん似合っているようじゃな」
「はっ、ありがたき言葉」
ホミは咳払いして俺の姿を褒める。
現在俺は白のタキシードを着ている。この服を見ての第一印象が、汚れが付いたらめちゃくちゃ目立つな、である俺が着こなせるような服ではない。おそらく服に着られている状態なはずだが、姫様モードであるホミはお世辞を言ってくれるようだ。
「……本当に似合っておるぞ」
「はっ、ありがたき言葉」
何故か繰り返すホミに俺も同じく返す。
「お主……余の気持ちを本当に分かっておるのか?」
「もちろんです。姫様の御心のほどは……」
「いや、分かっておらぬ。………………本当にかっこいいですよ、サトルさん」
周囲を気にした後、素の調子で口を開くホミ。その様子に基本的に疑心から入る俺も、ホミの本心からの言葉なのだとすっと入ってきて。
「そ、そうか……」
俺は普通に照れた。
かっこいいなんて言われたのは幼い頃の両親以来だろう。……俺、かっこいいのか。いや、確かにこの服着たとき『服に着られているだけかもしれないけど……俺、かっこよくね』と思って珍しく鏡の前でらしくないターンとかもしたけど。自分で思うのと他人からの評価は違うもので。
「珍しい様子じゃが……何か忘れておらぬか、サトルよ?」
「……?」
いきなりのことに何のことかと思案していると、ホミはその場でターンをする。ドレスの裾がふんわりと舞う。
その仕草の意味は分かる。そうか、ホミも結婚式用のドレスに着替えているわけで、つまりは……。
「似合っていますよ、姫様」
「うむ、そうか」
「ええ、姫様の魅力が存分に表れています」
「その言葉も嬉しいが……」
「……? ん、ああ………………ホミ、綺麗だぞ」
演技している状態の言葉はどうしても空虚に聞こえてしまう。そのためいつもの調子で伝えると。
「それじゃ。そうか……サトルが余のことを……えへへ……」
最初こそ耐えていたが顔がほころび始める。その表情を見られていたらイメージが崩れていただろうが、幸いにも見ている人はいない。
周囲を確認して結論づけたところで……ちょうど気づいたことがあった。
「オルトとナキナがいない……?」
つい先ほど、ホミがやってくるときまではいたはずだ。その後会話をしている間にいなくなったのだろうか? だが、俺たちの監視を放り出して何をしている? 監視の目がないなら形振り構わず逃げても……。
「姫様、サトル様。時間です。オルト様、ナキナ団長の役目を引き継いでここからは私が案内します。付いてきてください」
声をかけられた。近衛兵の服を着た男性……そして二人の役目を引き継ぐということは……こいつも真実を知っているということか?
まあ流石に二人だけでは少なくて手の回らないところが出るのを埋めるために協力者がいるのではないかと想像したこともあったが……その反面、人数が多くなるほど情報漏洩の危険性も増える。ならば二人の役目を引き継ぐと言わせただけの何も知らない人物という可能性も……いや、だとしても俺たちが何かしたら報告するように言われてるとしたら軽率な行動は……。
「行くぞ、サトル」
「姫様……」
「お主の考えてることは分かる。じゃがこの服装は逃げるにも目立ちすぎる。そして説得の時間もない」
「……そうですね」
ホミの言うとおりだ。
近衛兵がどちらの立場だろうと、俺たちはすでに結婚式へのレールに乗せられて動き始めている。ちょっとやそっとのことでは止まってくれない。
「じゃから……今はこの状況を満喫するだけじゃ!」
「ちょ、ちょっと……姫様!?」
俺は慌てる。ホミが俺と腕を組んで近衛兵の後を付いていき始めたからだ。
「どうやら余とサトルのラブラブ具合を珍しく思われているようじゃな、みんなに見られておるぞ」
道行く人々が『あのワガママな姫様が男と腕を組んでいる!?』と驚いた表情だ。それを余裕気に眺めながらホミは歩いているが。
「……あまり無理するなよ、耳真っ赤だぞ」
「し、指摘しないでください!」
どちらかというと小心者なホミにそんな余裕があるわけがない。
「………………」
昨夜は魅了スキルの命令で眠らせたから、何か影響が出てないか気になったが……この様子だとしっかり体力は回復したみたいだな。
しかし、俺は根本的な問題、ホミの恐怖について解決できていない。
結婚式……魅了スキルで好きになってしまった俺との祝福の場でありながら、断頭台が設置されている場でもあり、それを前にしてホミのテンションがおかしくなっているのだろう。だからこうして慣れないことをして誤魔化そうとしている。
「すいません、姫様。歩くのが早いです」
「そうだったか?」
「ええ。まだ時間はありますから、落ち着いていきましょう。大丈夫ですから」
「う、うむ……」
腕を組んでいるため俺はホミと歩調を合わせないといけない。その内スキップでもしだしそうな勢いのホミに落ち着くように言う。
「そうです、姫様。………………大丈夫だからな、ホミ」
「うむ。………………ありがとうございます、サトルさん」
ホミの表情に落ち着きが戻った。これでしばらくは大丈夫なはず。
にしても気になるのはオルトとナキナの行方だ。
大事な計画であるはずの結婚式直前に……俺たちから目を離してまで何をやっているのだろうか……?




