6、女王様は勘違い!?
……皆さん、奇跡が起こりました!俺、生きてます!死んでません!もう放課後で、しかも部活も終わったのに、俺、生きてます!これ、奇跡ッすよね!
ああ、やっぱり神は、俺を見捨てなかったんですね!有難う神様!有難う!!
でも、本当の試練はここから。どうやって、待ち伏せしている森野にバレずに、無事に家までたどり着けるか。そこが問題なんですよ。
「アレ?瀬川じゃん。こんなトコで何してんのよ」
「な……」
ここで一つ分かった事、一人でこそこそしている人には、急に声は掛けないでください。多分、寿命が三年くらい縮みます。……ここ、テストに出ますよ。家庭科的なテストに。
「何だよ、急に声かけんじゃねぇよ!」
「いいじゃない、気にしない、気にしない」
「お前はマイペースすぎんだよ!」
女子に向かってストレートを入れる俺って、……男失格?
「……ひっどい!何すんのよ!」
「あ゛あ゛〜分かったから、大きな声は出さないでくれよ」
「……ヤダって言ったら?」
「……え?」
「もーりーのーさーーん!!ここに、瀬川君が―――!」
「だぁーーーーーーー!!」
無理矢理階段登らせて、森野の様子を見る。あいつは飢えた野獣みたいにやってきて、周りを見回してたけど、いつの間にかいなくなってた。……はぁ、よかったぁ。
「何すんのよ、レディに向かって!」
「……お前、森野と似たような事言うな。……なんか、ムカつく」
「……そんな事言うと、また叫ぶよ」
「それはやめろ、いいな。叫んだら、……ゆるさねぇぞ」
「ふふ、いいわ」
この根性が曲がった女の名前は、斎賀良美。名前に『良』が入っているのに、全然いい所なんてない、性悪女だ。根性から腐ってる、金○先生が言っていた、腐ったみかんとは、間違いなくこいつの事だ。絶対に。
「ねぇ、瀬川。一緒に帰ってあげればすむ事じゃない。何でそんなに嫌がるの?」
「……俺は、あんな馬鹿でアホで間抜けで非常識で頭がいかれてて馬鹿な奴、大っ嫌いなんだよ!」
「……今、馬鹿って二回言ったわ」
そう言って楽しそうに笑う、こいつはそういうところを指摘するのが大好きなんだ。
よく昼ドラで見るだろう?
『サチコさん。ここにまだ埃が残ってますわよ』
『す、すみません。お母様』
『まったく、ちゃんと掃除くらいしてよね。これだから最近の嫁は嫌いなのよ』
的な発言を繰り返す、姑的な奴だ。いじらしく隅々まで見回して、相手の欠点を探し、見つけた欠点で、とことん相手を貶める。
だから、相手に欠点がないときは、余計に苛々して、嫁に当たる。そんな姑魂の集大成はこいつなのだ!
「悪いかよ、それだけアイツは馬鹿だって事だよ」
「……ふふ、それなら別にいいけどぉ」
うわぁ〜〜!!ムッカつく!森野以上にムカつく!アイツと違ったこの感じが、かなりムカつく!!信じられないほどムカつく!!
「そうだ!私が囮になってあげようか?」
「囮ぃ?」
「だって、そうしたら、瀬川は逃げられるでしょ?」
「……そう、だけどさ。お前の事だから、なんか条件付なんだろ?」
「ふふ。さすがは、この世界の女王の私が認めた男だけあるわ。分かってるじゃない」
その笑いは何だ。そして世界の女王って何だ。認めた男って何だ。分かってるって何がだ。
「今週の土曜日、デートしてくれたらいいよ」
「はあ?」
思わず大きな声がでちまった。ヤバイ。森野に聞こえたかも。
「ダーリン!?どこなの!!ダーーリーーーーーン!!」
「ふふ、呼ばれてるわよ。どうするの?」
世界一のM女か、それとも、世界一の勘違い女か。どっちを選ぶ、俺。どうする、俺。どうなる、俺。成せば成るのか、俺。……でも、何を成せばいいんだ?
「何でデートなんだよ」
「ふふ、……タイプだから。かな?」
「……嬉しくないのは、どうしてだろーな」
「ふふ……そんなに私に叫んで欲しい?」
それだけは嫌だ。でも、何でこんな腹黒女とデートなんだ。何で俺は、こういう変な奴にばっかにモテるんだ。かなり嬉しくない。喜ばしくない。
それに、この『ふふ』って笑い方、かなり気に食わない。人を見下してますって、自分から言ってるような笑い方だからな。
「ふふ、どうする?」
……そういえば、近所に住んでるパブのおばちゃんと似たような笑い方だな。……将来は、極道の妻になりそうだな、こいつ。
あ、そうだ。良く考えてみろ、俺。デートは約束しても、行かなければいいんだぜ。約束だけして、後はなんか理由つけて逃げればいいんだよ。そうだよ、俺!ナイスアイディア!!
いや、待て待て。その後この顔の広い腹黒女の事だ。俺のよからぬ嘘話を作って、周りに言いまくりそうだな。そう考えると、森野より質悪いかも……。
「ふふ、どうするのよ」
「……デートは、しない。自力でどうにかするから、あっち行ってろよ」
そうだよ、俺。後で厄介事に巻き込まれるのは、ゴメンだよな、俺。自分が一番大切なんだよな、俺。……って、女子からみれば、最悪な奴って、今の俺じゃね?カッコ悪くね?……まあ、仕方ないか……はぁ。
「アンタ、後悔するよ、こんな美人フッて」
自分で自らの事を美人と言いますか、普通!?
「極道の妻になって、アンタを殺しに行くかもしれないよ」
……え?これって、殺人予告?しかも、極道って、俺の想像通りじゃん!なんか、怖っ!!
「もしかしたら、祟っちゃうかも」
呪○じゃん!テレビの中から、出てきそうだよ!!……って、それはリ○グか。
「……あ、でも、呪い殺すの方が楽しそうかも」
楽しそうってなんだよ!軽く危ない事言ったよ、この人!呪い殺す事が楽しいって、狂った人の発言だよね!?そうだよね!?
「ふふ、後で後悔するのは瀬川、アンタだよ」
なんか怖ぇよ。毎晩夢に出てきそうだし。ふふって笑いが、呪いみたいに聞こえてきたよ……。
「みぃつけたぁ」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」
妖怪ストーカー森野だーーーー!!悪霊退散!!南無阿弥陀仏!!極楽浄土でも、天竺でもどこにでも逝ってくれ!!頼むから、逝ってくれ!!
「そんなに私に会いたかったの、ダーリン」
「会いたくなかったんだよ、ボブ・サ○プ並に会いたくなかったよ」
「私って、そんな存在?南、嬉しい!」
「何でだよ!どこが、どう嬉しいんだよ!もう、タッ○ネタはやめろ!もう飽きたんだよ!」
「じゃあ、他のならいいの?」
「よくないわぁ!!」
上履きを投げつけて、とりあえず逃げてきました。正門まで。そこまでしか体力が持たなかったと言うか、防具が重過ぎるというか……。そこまでで、俺には精一杯だったんです。マジで。
「ダーーーーーーーーリーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
来た!馬鹿アホ間抜けM女のストーカーが!!か、隠れなくちゃ!
「あれ?いないわ。でもダーリン。私をなめちゃいけないわよ!」
なめたかねぇよ!なめる気力もねぇよ!!それどころか、今すぐ殴りつけたいよ!!
「美咲探知機、スイッチ音!!」
音の字ちげぇよ!!入力ミスじゃなくて、マジで違うよ!!イントネーション、微妙にちげぇよ!!気付けよ、馬鹿森野!!だから英語の先生にも「what?」しか言ってもらえねぇんだよ!!
「あ、間違えた。ダーリン探知機、スイッチ音!!」
間違えたのそこーーーー!?!?普通、イントネーションだろ!?
「馬鹿な女がタイプなの?」
「うわっ!何で極道の妻がいるんだよ」
「まだ決まった訳じゃないわ。未来の話よ、未来の」
お前の場合、未来じゃ済まされない気がするんですけど……。
「で、なんでいんの?」
「ン?何となく。人の恋路を邪魔するのって、楽しいわよね?」
不敵な笑みで言う事は、それですか!?お前、ほんとに中学生!?実は高校生以上じゃねぇのか!?
「ダーリン発見!!」
「世界発見的なイントネーションで言うな!!ウゼェよ!!」
「だって、さっきのネタ、飽きたんでしょ?」
「そーゆー問題じゃねぇんだよ!!」
「あ、待ってロミオ!!ジュリエッタを置いてかないで!!」
「だぁれがロミオじゃボケェ!!しかも、ジュリエッタじゃなくて、ジュリエットだよ!!ばぁか!!」
「ああ、懐かしい屈辱的なお言葉。森野美咲、死んでも悔いはありません」
「じゃあ、死ねぇぇぇ!!一生よみがえってくんな!!」
「嫌よ!!ダーリンのためだったら、地獄の底から這い上がってきて見せるわ!!」
「悔いあんじゃねぇかよ!おもいっきし、悔いあんじゃん!!」
「そうよ、あなたを置いて、先に逝ける訳ないじゃない!!あなたもそうでしょ、ダーリン!!」
「できれば先に逝って欲しいよ。いや、先に逝け。頼むから先に逝け。150円アゲルから!」
「何で150円なの!私はそんなに安い女じゃないわ!!」
「ジュース代だよ!!念のために持ってんだよ!」
「私よりジュースを取るのね!ヒドいッ!酷すぎるわ!!」
「ふふ、そうよ瀬川。せめてジャンプ代くらいにしてあげないと」
「なんで斎賀がここにいんだよ!!」
「ン?帰る方向が一緒だから」
鬱陶しいのが増えたよ。森野だけでも疲れるってのに……。
「そうだ、森野さん。瀬川君をかけて、勝負しない?」
何故に俺をかける!!……てか、こんな展開、前にもあった気がするんですけどっ!!
「いいわよ、掛かってきなさい……ええっと」
相手の名前知らんのかいーー!!その時点で、森野の負け決定だよ!!
「あら、私の名前、知らないの?」
ほーら指摘された!思ったとおりだ、さあ、どうする、森野。
「……あ、あなた、隣のクラスの、……アレでしょ、あの人でしょ?」
分からないからごまかそうとしてるよ!汚い!!やり方が汚い!!
「アレって、何?」
「アンタねぇ、私に屈辱的な言葉を言っていいのは、ダーリンだけなのよ!!アンタにそんな事言われたって、嬉しくないんだから!!」
十分嬉しそうに見えるんですけど、頬がもう真っ赤に染まってるんですけど。顔にやけてるんですけど。
「……ふふ、その割には嬉しそうじゃない?」
「……嬉しいわよ、それが何?何か問題でもありますか?」
何で逆切れ!?どこが原因!?何故にキレる必要があった!?
「……ふふ、私とやり合う資格くらいは持ってるみたいね」
何をやりあうの?
「……ふふ、あなたこそ」
おーい森野。キャラかぶせんな。読者様に分かりにくいだろーが。
「ふふ、それでも私を真似しているつもり?」
「ふふ、あなたこそ、何様のつもり?」
えーと、解説しなくても分かる方は分かると思うんですけど、先に言ってるのが斎賀で、後のが森野です。分からなくなったら、馬鹿っぽい発言してる方が森野だと思ってください。
「ふふ、あなた色気に欠けるわね。そんなんじゃ、立派な男はものに出来ないわよ」
「ふふ、私にはダーリンという婚約者がいるの。だから、そんなもの必要ないわ」
「ふふ、あなたも馬鹿ね」
「そうよ、かばよ」
「ふふ、頭のねじ、もう一本も残ってないんじゃなくて?」
「ふふ、あなた、馬鹿ね。頭にネジなんて元から付いてないわよ」
「……ふふ、そこまで頭の鈍い子だとは思ってなかったわ」
「ふふ、どういたしまして」
「……ふふ、褒めてないわよ。どちらかといえば、馬鹿にしてるわ」
「かばで結構よ。私、かばは大好きだから。あの首の長さなんて、素敵じゃない」
「……ふふ、それ、キリンじゃない?」
「……」
おーい森野、言い返せなくなるタイミング違うぞぉ。てか、もっと前から気付くべき失点に、お前気付いてないだろ?やっぱり、お前、死んでも直らないほど酷い馬鹿だろ。
まず、俺は婚約してねぇし、ダーリンでもねぇし。
馬鹿って言ってるのに、何故か、かばに変換されてるし。
かば好きって言ってたのに、キリンと間違えてるし。どこをどう見ても、全然違う動物なのに。
「私の勝ちね、お馬鹿さん」
「私、おかまじゃないわっ!!」
おーーーい!!どこをどう間違えた!どうしてお前は聞き間違いするんだ!?どうして変な方向に変換されんだ!?
「……ふふ、あなたとは付き合いきれないわ。帰るわね、じゃあね」
本当に、銀座のママみたいに疲れきってる!タバコ吸いながら家に帰ってそうだよ!!そんでもって、家で、焼酎水割りで飲んでそうだよ!!いや、ブランデーを一人で飲んでるかも!!
「やった、勝ったわ、ダーリン!!」
「抱きつこうとすんな!!」
飛び掛ってきた野良猫を払って、俺はそいつをほっといて、家に帰ることにしました。
もし、道端で、半べそかいてる怪しい奴を見かけても、声を掛けないでください。怪しい世界へ連れ込まれますよ。
そんな奴を見つけたら、こう言ってやってください。
「もう、帰れば?」
きっと、期待通りに返事してくれますよ。




