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ドSな俺と、ドMなアイツ  作者: 下弦 鴉
第一章 彼の周りの不思議人物たち
3/117

3、神出鬼没のM女!?

 今日も暑く、くだらない一日が始まった。眠い目を擦り、洗面台で顔を洗う。酷い寝癖だ。それに今日は特別に、背後にお化けがくっ付いて来ている。日頃の行いが悪いせいだろうか。

 ……え?お化け?朝っぱらから?そな、あほな?どんなベタな心霊現象でも、朝っぱらからお化け出現なんてありえない?……うん。ありえない。きっとまだ寝ぼけてんだ、俺。昨日は散々な目に遭ったからな。

 もう一度、よく冷えた水で顔を洗う。気持ちいい。

 「おはよ、慎ちゃん」

 お化けが話しかけてきた。しかも、母と同じ呼び方で。……何故か無性に腹が立つ。

 「無視しないでよ、慎ちゃん」

 あっ、そっか。わかったぞ。これ、母さんだわ。だってあの人、こういう事するの大好きだから。無視していこう。無視して。

 歯磨き粉を歯ブラシに塗って、シャコシャコと歯磨きしながらリビングへ。その後ろを、母さんも付いて来る。

 「慎ちゃん!クレ○ン慎ちゃん!」

 「慎の字が違うよ、母さん」

 「母さんじゃないわよ!愛しのハニーよ、慎ちゃん」

 はあ?愛しのハニー?蜂蜜のCMのキャッチコピー?

 「蜂蜜のCM、また新しいの始まったの?でも俺、蜂蜜嫌いだから関係ないや」

 「蜂蜜のCM?何の事?愛しのハニーよ、ダーリンの!」

 ダーリン?ああ、新生ユニットの新曲か?そういえば、そんな名前のユニットがいたような……。いたっけ?

 「どんな曲調なの?いい歌詞?」

 「曲調?歌詞?関係ないわよ、そんな事!何、慎ちゃん。新しい、ツッコミ?」

 ああ、新人の笑い芸人の事を言ってるのか。でも、愛しのハニーだなんて、ダサい名前のお笑い芸人、いたっけ?……でも、ホントにいそうだな……。蜂蜜を全身に塗り付けてるみたいな感じ?

 「もう、アタシよ。マイダーリン。貴方だけの、アタシよ」

 このMな響きのある声は、いや、まさか。だって、今は朝だぜ?しかも、六時半だぜ?なのに、人の家にいるとか、ありえないだろ。うん、ありえない。てか、あったとしても、不法侵入だろう。

 「どうして何も言ってくれないのよ、ダーリン。美咲はいつでも、ダーリンの事を想ってるのに……どうして!?」

 美咲?……美咲だと!?

 振り返れば、パジャマ姿の森野がそこにいた。頬を赤らめ、泣いている。

 「な……」

 「あれ?ダーリン。嬉しくて声も出ない?美咲、嬉しい!」

 「嬉しくて声がでないとか、ありえないから、マジで。てか、なんでお前ここにいんだよ」

 「ん?泊まったからに決まってるじゃない」

 「泊まった?どこに?」

 「ここに」

 「ああ、地中か」

 「地中じゃないわ、地上よ」

 「地上のどこ?」

 「ここに」

 「ああ、俺の家か。……はあ!?俺んちに何で、勝手に泊まってんだよ!」

 「ダーリンの家じゃないわよ、詳しく言えば」

 「そんなこたぁ、どうでもいいわ!!」

 「どうでもよくないわっ!私とダーリンで、夢のラブ・スイートハウスを立てるのよ!!」

 「どこからそんな言葉が出てくるんじゃ、ボケ!!」

 歯ブラシを奴の足元に投げつけて、そのまま自分の部屋へ飛び込んだ。ありえない。マジ、ありえない。どれくらいありえないかって言うと、地球の地軸が真っすぐになるくらいありえない!……ちょっと言いすぎかな……。

 「……何で俺の家にいるんだ?どこから入って来たんだ?……あ」

 良く落ち着いて考えてみれば、怪しい人が、約一名。どっかに出張に行っている親父は別として、考えられるのは、やんわりと笑っている母だった。

 「あんにゃろぉ……森野だけ入れるなって、言ったのに……!」

 ここでじっとしている暇はない。朝飯も食わずに学校へ行く気もない。森野と一緒に登校なんて、もっとありえない。絶対にない!

 「かーーーーさーーーーーーーーーん!!」

 思い切り扉を開けて、部屋を出、リビングに着くと、キョトンとした表情の母がいた。そして、平然と人の家の飯を食っている森野もいた。

 「どうしたの?慎ちゃん。……もしかして、体操服、なかった?」

 「そんな事じゃなくて、何でこいつを家に入れてんだよ!入れるなって、言っただろ!?」

 「そんなに怒る事ないじゃない。だって、こんなに朝早くから待っててくれてるのに、外で待たせておくのは、可愛そうでしょ?」

 「その前に、何でこんなに朝早く来たのかを疑ってよ!」

 「……ああ、今思えば、そうね。……ゴメンね、慎ちゃん」

 「……もういいよ、飯は?」

 「私の、手作りなんです!食べてください、先輩!」

 「だぁれが先輩じゃ!お前は飯持ってきてんなら、自分の飯食えよ!人の家の食費を増やすな」

 「まあ、家庭的な慎ちゃんも好きよ。美咲は、全てを受け入れます」

 「受け入れて欲しくねぇよ!お前みたいな変な奴に、受け入れて欲しくなんかねぇ!!」

 弁当包みを開きかけていた森野は、その言葉に機敏に反応し、嬉しそうに頬に手を添える。

 「私だけの、屈辱的な言葉。……美咲は、幸せです」

 「お前は学校行く前に、病院に行ってけ」

 そんな面白い息子を見ながら、母は嬉しそうに微笑んでいた。

 それはそれで、いいかもしれない。だけど、俺の苦労を知って欲しいぜ……。

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