21、親馬鹿の親馬鹿!?
森野の被害に遭う事もなく、やっと家にたどり着く事が出来ました。ちょっと嬉しいっすね。
「ただいまぁ」
いつもの如く、そう言った。なのに、返ってくる言葉は―――。
「慎吾ぉ!!会いたかったよぉ!!」
「ゲ!親父!!」
そう、涙目をして飛びついてくるキモ……ウザい人こそ、俺の親父。世界一嫌いな人物。……あ、森野も嫌いだな。まあ、両方世界一嫌いな人物って事で。
「帰りが遅いから、パパ、心配しててんだぞ?」
「……いつもと変わらないんだけど」
いかつい顔してるくせに、『パパ』ってありかよ……。しかも自ら言いやがった。
「パパ、あまりにも心配すぎて、学校にTellしようかと思っちゃったよ」
「……いちいちTellなんて言わないで、電話って言えよ」
「それぐらい心配だったんだぞ?ああ、無事に帰ってきてくれて、パパ、本当に嬉しいぞ」
「……無事に帰ってこられない学校なんて、あるのかよ」
「ああ、慎吾。もっと顔をよく見せておくれ」
「……十分近いと思うんだけど」
もうそんなに離れていない位置に、親父の顔はある。いつもは怖い顔してるのに、こういう時は、気持ち悪い程に笑顔になる。
「……離れてくんない?」
「イヤだよ、せっかくの再会じゃないか。パパ、ずっとお前の事を考えてたんだぞ」
「……ありがたくねぇよ、バカヤロォ」
「コラ、パパに向かってそういう言い方はしちゃいけないだろ?」
「……じゃさ、離れてよ。とりあえず」
近い、近い、非常に近い!!もう、目の前が親父の顔しかねぇんだけど!親父以外のものが、何も見えないんですけど!!
「離れたら、消えたりしないよな?慎吾は、ずっと傍にいてくれるよな?」
何なんだよ、この親父。女か?メッチャダンディな顔した女なのか!?
「……キモッ」
「慎吾!」
「……んだよ」
急に声を出すな!怖いだろ?いくら親父でも、元から怖い顔してんだから、それ以上怖い顔するなよ!!寿命が縮むだろ、コンニャロッ!!
「いけません、いけませんよ!パパに向かって、暴言はいけません!」
じゃあ、この距離はどうすればいいんだよ?いくらなんでも近すぎるだろ?ドアップはキツいだろ?
「分かった?」
「……」
「聞いているのか、慎吾?」
脅しですか?これは脅しなんでしょうか?
親なのに、誘拐犯に見えるんですけど。俺、誘拐されそうなんですけど、親なのに!
「わ、分かったよ、親父」
「親父じゃない!パパと呼びなさい!帰ってくる度に、いつもそう言ってるでしょうがぁ!!」
それだけは出来ねぇーーーー!男としてのプライドがっ!Sとしてのプライドが、消えてなくなってしまうぅ!!
もし俺がこの子離れ出来ない親父の言いなりになってみろ。
「ただいま、パパ」
「ああ、お帰り、慎吾」
「パパ、やっと帰ってきたんだね。ボクも嬉しいよ」
「そうかそうか。そんなにパパに会いたかったか」
「うん!ボク、パパだぁいすきだもん!!」
的な、とてつもなく気持ち悪い展開になってしまう恐れがあるぞ!鳥肌が、世界を制すぞ!嘔吐の並が、世界を破滅へと誘うぞ!!
ダメだ!そんな事させる訳にはいかないぞ!そんな惨めな世界破滅、いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「……誰がお前なんか、パパって呼ぶかよ」
よく言った!よく言い切ったよ、俺!偉いぞ、お前は偉い!よく勇気を振り絞って言ってくれた!!
「……それにさぁ、俺はもう中一だぜ?パパなんて親父の事呼んだら、とんだ笑われもんだ。ハズいったら、ありゃしねぇよ」
「……」
……親父黙っちゃったけど、大丈夫だよな、これ。何とかなるよな、これ。願いは通じてくれるよな、これ!
「ああ、慎吾。よく分かったよ。慎吾はパパのことが嫌いなんだね?」
そんな事一言も言ってねぇ!!
いや、確かに嫌いだよ?森野並に嫌いだよ?だけどさ、嫌いなんて、まだ一言も言ってねぇじゃん!
思い込みすぎか?そうなんだよな、そうだと言ってくれ、親父!!
「嫌いなら、はっきり言って欲しかったな、パパ」
「……え、いや、その―――」
「嫌いなんだろぉ!?パパの事、とっても嫌いなんだろぉ!?」
じ、自爆だぁぁぁ!!あまりに深く考えすぎて、思考がマイナス方面へと一直線だ!!もう曲がれねぇよ!もう止まれねぇよ!!ただ走る事しか出来ねぇよ!!!
「あわ、慎ちゃん。お帰りなさい」
神様ぁ!!ナイスタイミングで母さんを投入してくれましたねっ!!心から感謝申し上げます!!
「た、ただいま、母さん」
「もうすぐご飯できるから、着替えたら降りてきてね」
「……う、うん」
ヤバいっ!母さんが、神々しく見える!そう、まるで菩薩だ!!全ての事を優しく包み込む、まさに菩薩だ!!
「ホラホラ、俊さん、慎ちゃんが困ってるわ。もう少し離れてあげないと」
「だけどさ、麻理。パパは慎吾と離れたくないんだよぅ」
「コォラ。甘えた事、言わないの。さあ、俊さん。私を手伝ってくれない?」
「……慎吾と話したい」
「なら、私、家出しちゃうかも」
「それはイヤだよぉ!麻理、お願いだ!どこにも行かないでおくれぇ!!」
「よしよし。全く、俊さんったら甘えん坊さんなんだから」
ば、番犬ケルベロスが、女神様に頭よしよしされて微笑んでるぅ!!
何だこの光景!?子供は見ちゃいけないんじゃないのか!?仮面ライダーショーとかが終わったあと、すぐにキグルミ取っちゃって、それを見てた子供の夢を壊す的な!!そんな光景じゃないですか!?
「あ、そうだ慎ちゃん。今日は塾を休んでいいからね。久しぶりに、親子揃って楽しくお食事しましょ」
「……分かった」
今、この状況が、幸せなのか不幸せなのか、分からなくなってきました……。