女子力
※2014/11/18 『ご拾得は計画的に③』の文末に樹里子の決意を追加しました。
※匂わす程度ですが、腐女子的表現が出てきます。ご不快に思われましたら、ご一報頂ければと思います。
家族が増えるって、良いですね。
あれから洸は、本来の子どもらしい我儘さをどんどん取り戻し、ちょっと生意気で神経質なとても愛らしい少年に育ちました。
独立心も旺盛で、「キィコお姉ちゃん」から「キィちゃん」に呼び方が変わったあたりから、お風呂も寝るのも部屋すらも別になりました。世のお父さんの気持ちがちょっと分かる気がします。僕と父ですか?一緒に入ったことは一度もありませんが、なにか?
成長を喜びつつ、お姉ちゃんとしてはちょっと寂しいです。
彼の今の悩みは、同年代と比べて小さい事。
こればかりは出足が遅れた分、しょうがありません。
僕が抜かれるのは高校に上がる頃かな?と言ったら、「あと四・五年も掛かるの?」と悔しそうに呟いていました。
同学年の中でも背の高い僕を、早く追い越したいようです。
男は二十五歳くらいまで伸びる可能性があるらしいですから、まだまだ取り返せますよ。
いっぱい食べて、たっぷり眠って、大きくなるんですよー。
対して僕ですが、髪は相変わらず短いままです。
伸ばそうとは思ったんですよ?
しかし、こう……人には向き不向きがあるというか……ありていに申し上げれば、似あわなかったんですっ。試しにかぶったカツラがっ、全くっ、これっぽっちもっ!
自分で言うのもなんですが、この凛々しい美少年顔がっ!髪型を選ばせてくれないのですっ!!
お陰様で、美容室に行けば問答無用でショートカットにされ、学校ではその髪型で大絶賛、女子たちには「キリ君」と呼ばれる始末。
カツラ試着の際、あまりに似合わない気まずさを誤魔化すために、一緒に鏡を覗き込んでいた洸にかぶせた所……きょとんとした美少女に見上げられました。
ウホッ!
「ちょっと!ボクが可愛いからって怪しい目つきで見蕩れてないで、少しは女らしく見せる努力をしなよ!養母さんは手をワキワキさせないっ!やっやめてっ。あっ、あっ、いやぁ……らめぇ……」
ああ、弟にすら色気で負けた僕……小学生にして、女子力の無さをちょっとだけ嘆きたくなりました。
第二次性徴、早く来ないかな……ボソッ
周囲の女子たちにはソレが訪れ始め、花畑の中のススキな気分を味わっていた最高学年の秋、来年から通う龍光中学校の学校祭開催のポスターを見かけました。
気分転換がてら学校見学に行くことにしましょうか。
誘わずともついてくる洸と共に、飾り付けられた中学校の門をくぐります。
「キィちゃん。休みの日にまで名札なんか付けてないでさ、たまには可愛い恰好してあげなよ。養母さんの持て余された魔手が、再びボクに伸びそうで怖いんだけど」
「名札、大事だよ?」
主に、小学生に見られない僕の身分証明的に。
心の中で付け足しつつ祭り特有の喧騒を見回し、設えられた案内カウンターへと向かいます。
『生徒会』の腕章をした学ラン姿の少年が、営業スマイルでパンフレットを手渡しながら、僕の顔と名札を二度見しました。
ほらね?名札、大事。
「蛤、小学校の子?」
「はい」
「なら、これをあげるね」
手渡されたのは食券二枚×二人分。
小学生以下に配られるウエルカムドリンク的な特典で、ジュースと焼き菓子に交換できるそうです。
「他に食べたいのあれば、このお姉さんから食券を買ってね」
と、隣の同じく腕章をしたセーラー服の少女を指しました。
「ようこそ、龍光祭へ!」
輝く笑顔を向けられます。
女子力の宿る胸元から目を逸らし、後ろに話を振りました。
「洸はなにを食べたい?」
「んー、焼きそば、おでん、アメリカンドッグ。あ、あんみつも食べたい!」
するりと腕をからめて来ます。
かっ、可愛いじゃないか。これはあれか?『む、胸が当ってるんですけど』『当ててんのよっ』か?洸に胸は無いけれど。
でも、ここは年長者としてたしなめましょう。
「……食べきれるの?」
「キィちゃんも一緒に食べるでしょ?半分こ、しよ?」
首コテン付きで、春の若草色の瞳をウルウルさせて見上げて来ました。
お姉ちゃん、ノックアウトです。ちょっとデレデレしそうです。
受付から「けっ、リア充爆発しろ」とか低い声が聞こえてきましたが、関係ありません。
可愛いは正義です。
「仕方ないなぁ。じゃあ、いま言ったの下さい」
話を振ったセーラー女子から返事は無く、ただキラキラした瞳で僕たちを見ていました。
「あの……?」
僕の不審そうな声を受けて、少々不機嫌な学ラン少年が肘で小突き、彼女はようやくハッと我に返ります。
「あっ!はい、喜んで!!」
前世の居酒屋で馴染みのある挨拶の後、わたわたと無駄な動きを交えながら食券をまとめ、少年に助けられながらお金の受け渡しまでなんとか済ませました。
「お手数おかけしました」
一段落付いたので、軽く頭を下げます。
ちょっと子どもらしくないかな?とは思いますが、言わずにはいられない程、時間が掛かったので……ええ。
洸に腕を引かれ、会計少女の「楽しんでいってねー」に笑顔を返して、校舎へ向います。
「あー、目の保養になった。下の名前、聞きたかったなー」
「受付でナンパしようとすんな。ってか、生意気にも彼女持ちだろ?」
「はあ?なに言ってんの。両方とも男の子だったわよ?」
「えっ?!あの可愛い子も男だったのかよ」
「将来有望な二人よね。片やスラリとしたイケメン、片や小生意気そうな美少年……来年、入ってくるのかしらー」
そんな受付二人の会話を、背で聞きながら。
※ウホッと喜ぶ主人公、「オジサン過ぎる」と言われてしまいました(笑)




