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私は、敵を見誤るという失敗を犯した!
王妃様の手の者が、王城にいる私をわざわざ拉致する意味などないのに……。
あの男は、何も教える気などなかったはずだろう。
たまたま、あの男を呼びにきた別の男が『銀狼』と言っていたのを聞かなければ、私は、名前すら知ることができなかった。
銀狼……あの男が、本物であれば、私は殺されるのだろうか?
この呼び名には、覚えがある。
ラインストーンの王女として、ずっとお城の中にいたならば、知りえなかっただろうが、私は、辺境候で育った。
だから、知っているのだ。
ラインストーン公国の影の部分、銀狼という暗殺者のことを。
銀狼が一人なのか、それとも、複数なのかまでは、分からない。
銀狼は、怖ろしく強い。
しかも、変身技術が高い。或いは、魔法なのか……?
もし、魔法ならば、それを使った痕跡すら残さない強者の術者といえよう。
銀狼のことを私が知っていることがバレたら、消されてしまうのだろうか?
銀狼に命令している主は、当然、ラインストーン公国の王だ。
お父様は、どうして……?
私が、言われたとおりにヴァンデル国へ嫁がなかったから?
そんな……!
「ルナ!」
よく耳慣れた声音で、私を呼ぶ声が聞こえた。
「えっ、ライ?」
「そう、助けに来たよ!」
えぇ? どうして、ここにいるわけ?
「僕の妹をむざむざ殺されるのを黙って見ているわけにはいかないからね!」
ライが呪文を唱え、パチンと指を鳴らす。
バサッと、戒めの縄が解けて床に落ちた。
「かわいそうに、ルナ! お兄ちゃんが迎えにきたからには、もう、大丈夫だからね!」
ギュッとライに抱きしめられる。
懐かしいと感じられるくらいには、久し振りだった。
もう、二度と会えない覚悟をして出国したはずなのに……。
やはり、ライに会えたことは、無条件に嬉しかった。
「ライオネル王子、早くしてくれ!」
今の声って……?
「フィリップス殿下?」
「そう。僕は、手助けなんていらないって、断ったんだけど、どうしてもついてきたいっていうから、仕方なくね! 足手まといにでもなったら、容赦なく捨て置くつもりでも良ければという条件でね。それでもいいからって言うからさ、連れてきたんだ」
「ライオネル! 早くしろっ!」
「おっと、いけない! 今、銀狼をおびき出して、ここから離れさせているんだ。奴が帰ってきたら、ちょっと厄介だからね。それまでには、脱出したいんだ」
私は、わかったと頷き、ライに続いて外に出た。
そこで待っていたのは、ミーナ、フィリップス王子とその従者。確か、名前はグリーンと言っていた。
勿論、ライの従者である、プリウスも一緒にいた。




