血塗られた屋敷
弘基と元基の最初の狙いは、二人の人物だった。
ジョーカー兄弟をこの世に生み出し、捨て去った者たちへの復讐。特に弘基の憎悪はすさまじかった。
自分たちと同じ遺伝子を持つ他の人間を徹底的に葬り去ろうとしていた。いや、情け容赦なく葬り去った。
「陽気にゴキブリを潰しながら生きる」と、私に語ったあの日。
その数日後、弘基は実行したのだ。
立派な門構えの表札には「但馬」という苗字が書かれてある。
その門の両端には二人の強面の男が立っていた。
どうやらガードマンのようだ。
タクシーがその門の前で止まった。
後部座席のドアが開き、黒い鍔の帽子を目深にかぶった背の高い黒コートの男が現れた。
門前の二人の男の前に出向き一礼し、コートの内ポケットから身分証らしき黒い手帳を見せた。
その手帳には、鮮やかな金色の刺繍で特別広域捜査局と書かれてある。
二人の男はその手帳の意味がよくわかっていた。
手帳は色によってランク付けされている。白と赤とそして黒。目前に見た黒手帳は上層部が所持するものだ。しかも金文字の刺繍はその上層部の中でも格付けが上の者しか所持できない。
「但馬庄之助さんは見えるかね」黒コートの男は尋ねた。
「はい、おられます」一人の男は敬礼し答えた。
「こんな夜遅く、どのようなご用でしょうか?」もう一人の男が同じように敬礼しながら尋ねた。
コートの男はサングラスを掛けている。男は左の口角をユックリ上にあげ、笑みの表情を作りながら答えた。
「君たちにその用件を言わないと、家に入らせてもらえないのかね」
柔らかな口調だが言葉尻には、キッとした不愉快さが滲んでいた。
「いえ、…申し訳ありませんでした。すぐにお取次いたします」男はそう言いながら背広の裏に取り付けた小型マイクに口を近づけ何か言おうとしたが、急に押し黙り黒コートの男を見つめた。
「あの、お名前は?」
「特攻局の林田という者だ」
男は頷きマイクに向かって話した。
「特攻局の林田様がお見えになりました。庄之助様にご面会という事です」
『…、特広局…林田様…そのような人物の面会の予定は入ってないが…』
イヤホンからの返答は戸惑っている様子だ。
「君、家の中に護衛は何人いるんだ?」コートの男はもう一人のガードマンに尋ねた。
「二人おります」
「参考のために訊くが、配置場所はどこだね」
「配置場所ですか?…応接室の隣部屋に待機しております…」
「なるほど、応接室の隣か」
マイクで受け答えしている男がコートの男に目を移し再び尋ねた。
「林田様、用件を言われないと中にお通しすることができません」
コートの男の口元が急に不自然に歪んだ。
明らかに気分を害したようだ。
「用件をどうしても言わなければならないのか?極秘情報なのだが…」
「はい、決まりですので」男はハッキリとした口調で告げた。
それを聞いたコートの男の口元は再び綻び、笑みを浮かべた。
「その毅然とした態度こそが、護衛官の務めだ。忘れるな。それにお前、護衛官の配置情報を簡単に教えるな。俺が敵だったらどうする?」
「す、すみません」
「まあ、いいさ。この事はミスターXには内緒にしておこう」
「用件を言おう。我々の同士、但馬仁君の息子夫婦をジョーカーが狙っているという情報が入った。その旨を仁君のお父様に伝え、護衛の準備の詳細を伝えに来たのだ。この事は、情報部からのトップシークレットだ。ミスターXも承知だ。早く私を家に入れるのだ。グズグズしてるとXからお叱りの言葉をもらうことになるぞ」
「はい。仁さんのご子息は今この家に見えられています。どうぞお入りください」
「そうか。君たちは周りをよく注意して見張ってくれ。一時間後に十二、三人の護衛が新しく加わる。とにかく怪しいものは絶対にこの門を通すな…少なくとも私がこの家から出るまではな」




