永遠の別れ2の④
木の檻の中で眠っている獣が、一瞬痙攣し、体を震わした。
血の臭いを敏感に感じたのだろうか。睡眠薬で眠らされてほぼ一週間、その間何も口にしていない。
強力な睡眠薬の効果よりも、空腹を満たす血肉の匂いが勝れば覚醒はたちまち始まるに違いない。
「なぜ、俺がお前に殺されなきゃならんのだ?」
但馬は少し、膝の痛みになれたのか冷静さを取り戻していた。
「いいや。このネズミが殺すのさ」
「やかましい。一体、なぜ殺されなきゃならんのだ!」
「あんたが犯した罪さ」
「俺が犯した罪?…確かにお前と同じように多くの人間を殺してきた。それもこの国の将来のためにやったことだ」
但馬は助かる方法を必死に思案した。
「もう少し詳しく言えば、三十年前にお前が犯した罪だ」
但馬はその言葉を聞いて面食らった。
俺が三十年前に何をしたというのだ…地下警察に入り任務に没頭してた頃、まだ要人暗殺の任務には就いてはいなかった。
たとえ、その任務をしてたとしても全て自殺や事故死にみせかけ、殺人だとばれないように完璧に行った。
分かるはずがない。まして、殺人に俺がかかわっていることなど組織以外、誰も知る由もないはずだ。
但馬は男が言った三十年前の過去に思いを巡らした。
犯した罪?
三十年前に俺が起こした罪?
但馬は、ふとある事件を思い出した。三十年前のトラブルといえばあの件しかない。
「但馬さん。思い出したかい?」
「三十年前に起こした事件は一つある。だが、あれはもう解決した出来事だ」
「どう解決した?」
「和解した。全て問題なく終わったはずだ。十分なぐらいの和解金を渡しあの女は納得したんだ。それを今さら…しかも、三十年も前の話だ。いくら根に持っていたとしても、殺し屋を雇って俺を殺そうなんて」
「残念ながらブーだ。依頼人はその女じゃない」
男の意外な返答に但馬は首を傾げた。
「あの事件に恨みを持つのは、被害者の女とその家族ぐらいだ、あと誰が…」
「その後の女の人生を知っているか?」
「いいや、知るわけがない」
「女は二人の子供を身籠った。女は敬虔なクリスチャンだったため、その呪われた子供を降ろさずに産んでしまった。ところが、その子供は孤児院に捨てられたんだ」
「子供が生まれた…まさか、依頼人は…その子供…?」
「因果は巡るだ」
「待て、あの時俺一人ではなかった。複数いた。なぜ俺だけを…」
「依頼人の希望は、同じ遺伝子を持った全ての人間を、この世から抹殺する事だ」
「同じ遺伝子?いつの間に調べたのだ?…そいつは、確かに俺の子供なのか」
「俺の子供?まるで親の言い草じゃないか。あんたは、単に同じ遺伝子を持った人間の内の一人というだけの事さ」
「同じ遺伝子という事は、俺の息子や孫にまで手を掛けるのか」
「そういう事になるかもしれんな。ところで、最後に何か言い残すことはないか。俺が代理として聞いてやろう」
「その二人は、俺に似ているのか?」
但馬はふと、そんな質問をした。
「それが最後の質問か。どうでもいい事だが教えてやろう。お前とは似ても似つかん。二人はアルビノでオッドアイの持ち主だ。金色の瞳と青い瞳。瓜二つの一卵性双生児だ。お前たちが誕生させた、悪魔の申し子だ」
「アルビノ?まさか、そいつは今まで俺たちが捜していたジョーカーという男か」
「さあー、どうかな」
突然、檻の中でガサガサと音がした。
「おっと、死刑執行人がどうやら、お目覚めのようだ。早く、ドロップショットを打て。さもないと地獄の苦痛を味あうことになるぞ」
男は木箱の檻の閂を外した。
「待ってくれ。俺と交渉しようじゃないか。奴らの報酬の十倍、いや百倍、いや、お前の好きなだけ金をくれてやる。だから、助けてくれ」
「すまんが、いくら報酬を積まれても無理だ。なぜなら、俺もこの日を待ちかねた一人なんだ。腹を空かしたネズミの餌になってやれ」
男はそう言い捨て部屋を去った。




