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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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人買いブローカー

 バスルームの湯気が天井で粒を成し、膨れていく。膨瑠した水滴は重みに耐えきれず滴となって落ちはじめた。一滴、一滴湯船に撥ねる。ポチャ、その撥ね落ちる音は次第に空気を切り裂くような音へと変わりはじめた。

全身を真白で染めたような肌の男は、半眼で天井を仰ぎ湯船に横たわっている。

体はピクとも動かない。まるで死んだようだ。

しかし、瞼の隙間から垣間見える金色と青の瞳は震えるように動いている。

再び、男の脳裏に別の過去がよみがえりはじめた。


「ミスター佐藤。取引ハ二人ノハズダガ?」

頭に青いターバンを巻いた、顎鬚の男、明らかに中近東辺りの出身の男がパナバ帽を被った日本人に尋ねた。


「ミスター・アフマド、ソノ予定ダッタガ、今回ハヒトリダ」

佐藤はパナバ帽を取り、白髪の混じった髪を掻き揚げた。


「話ガ違ウジャナイカ。約束ハ二人ノハズダ」

ターバンの男は口から唾を吐きながら激しい口調で怒鳴った。


「ダカラ予定ガカワッタノダ。イヤナラ、取引ハナシダ。貰ッタ手付金ハ返ソウ」


「イヤ、ワカッタ。シカタガナイ」


「ミスター・アフマド、文句ハナイダロウ。望ンデイタアルビノデ、シカモ、オッドアイダ。見テミロヨ。金色ノ瞳ト目ノ醒メルブルーノ瞳ヲ」

佐藤はソファーに横たわる子供の瞼を無理やり指で開いた。

ターバンの男は目を近づけ子供の瞳の色を眺め、ため息を吐いた。

子供は薬で眠らされているのかピクリとも体を動かさない。


「タシカニスバラシイ商品ダ」



「貴重ナ代物ダ、アンタタチノ国ナライイ値デ取引デキルダロウ」


アフマドは笑みを浮かべ頷いた。

「アルビノハ、悪魔ノ申シ子ト呼ンデイル者モイルガ、ナカニハ神ノ力ヲモッテイルト信ジテイル部族モイル。ソシテ、ソノ力ヲ得ルタメニソノ肉食ラウ者モイル」


アフマドの言葉に佐藤は苦笑し、気が滅入るような表情になった。



「モウヒトリモ同ジヨウナ子供ナノカ?」


「アア、双子ダカラナ」


「ナゼ、二人ヒキトラナカッタノダ」


「ナゼッテ……モウ一人ハ普通ジャナカッタカラサ」


「普通ジャナイ?ドウイウコトカ」


佐藤は、別れ際のときを思い出した。

弘基を連れ出しあの部屋を出ようとしたとき突然聞こえたのだ。

『地獄に送ってやる!』その言葉がまるで佐藤の鼓膜を突き破るように頭の中に響いたのだ。

あれは、確かに弘基の弟の声だった。

そして吐き気をもよおすような激しい頭痛が襲った。

佐藤は逃げるように子供を連れ出したのを思い出した。佐藤は初めて元基に会った時からその子供が発する不気味な気配を感じ取っていた。

自分の心を射抜くようなあの金色の瞳。あの瞳に睨まれるとどうしようもない全身の震えがおきた。

たしかに、あの弟は普通じゃなかった。始めは一緒に引き取るつもりだったが、会うにつれ得体の知れない恐ろしさが湧き起こり結局、弟の方はあきらめることにした。


「佐藤、君、鼻血ガデテイル」


アフマドにそう言われた佐藤は思わず鼻に手をやった。

指先に血糊が付いている。


「耳カラモ出テイルゾ」


佐藤の鼻や目、耳、口から溢れるように血が流れ始めた。

目の前が暗転したように視界が落ち佐藤は崩れるように床に倒れた。


アフマドは慌てて佐藤の頚動脈に手を当てた。

脈は触れなかった。

「佐藤、一体ドウシタノダ?」

そう言った後アフマドは佐藤の衣服をまさぐった。

アフマドはその衣服から金目の物を物色したのだった。




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