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最後のピエロ  作者: ハロル・ロイド
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四人の身元

夜の七時、家路へ急ぐ人々が駅前を行き来する。

一人のサラリーマンが足を止め駅ビルを見上げた。

その視線の先に電光掲示板のニュースが走っている。

立ち止まったサラリーマンを見て、もう一人のサラリーマンが同じように掲示板を見上げる。

また一人、また一人と大勢の人が同じように立ち止まりその掲示板の文字を追った。


昨夜未明、東京都港区繊維問屋街の廃墟ビルにて若い男性の遺体が四体発見される。四人の男性全てが

爆発物による衝撃で頭部に損傷を加えられ、頭蓋骨損傷にて死亡の模様。殺人事件として警視庁は被害者の身元の捜査を開始。


「物騒な世の中になったもんだ」

六十前後のサラリーマンがため息交じりで呟いた。


捜査主任の平形淳の周りを多くの報道陣が取り巻いていた。


「被害者の身元は分りましたか」

報道陣の中から質問が出た。

平形は用意していた便箋に目を通した。

「発表します。被害者の名前の敬称は省略させていただきます。

四人の被害者の名前は、後藤 力 無職、住所不定で年齢 二十四歳、島田 淳也 アルバイト勤務、東京葛飾在住で 二十三歳、沖田 満、港区在住 派遣社員 二十四歳、高島 郡司 杉並区在住大学生 二十歳。以上です」


「四人の被害者の繋がりはどうなっていますか」


「まだ捜査段階でありますが、特につながりがあるような関連性は見当たりません。それぞれが他人同士で面識もない四人と思われます」


「面識もない人間同士が何故あのような寂しいビルに集まったのでしょうか?」

「他殺ではなく自殺の線はどうでしょう」

「物取りですか、怨恨ですか」

「単独犯ですか?」

「現場にトランプのジョーカーが一枚置いてあったと聴きましたが…」

矢継ぎ早に畳み掛けるように記者の質問が飛んだ。


報道陣の中からジョーカーという言葉が飛び出たことに平形は眉をしかめた。

「まだ捜査段階ですので詳細な事は分り次第順次発表します」

平形はそう言って足早に報道陣から姿を消した。


「なんで、トランプの事がもれたんだ」

平形は不機嫌な顔で呟いた。


朝中日報の事件記者、坂口正太は携帯を掛けた。

「俺だけど、目新しい情報はなかった。あと、被害者の身元が分った。今から言う、一人は…」

坂口は周りにいる報道記者を避けるように廊下に出ながら小声で話続けた。

「この四人の詳細な素行を徹底的に調べてくれ。何か関連があるような気がする。

えっ?見出し?そうだな、…殺人鬼、爆破魔ジョーカーって言う見出しはどうだい」


コンクリートむき出しの壁に囲まれたワンルームマンションの一室。

作業机に向かって男は息を殺し慎重に手を動かしながら黙々と仕事をしている。

机の上にあるのは色褪せた金物でできた岡持ちだ。

その中に顔を突っ込み、なにやら

粘土用の物体を張りつけている。少しづつ岡持ちの内側は均等に同じ厚さの粘土様の物体で覆われていく。

その上に銀紙を張りつけていく。

銀紙を張り終えた男は

岡持ちの中の真ん中の仕切りに手を載せ力を入れた。僅かにその仕切りは下に動く。男の手が離れると

その仕切りがユックリユックリと上に上がる。

目では確認できないほどの動きでその仕切り全体が上に移動する。

その一センチ程度の動きを男は慎重に何度も何度も繰り返しながら見つめた。

時計を見ながらその仕切りが上に到着するまでの時間を計った。

「ちょうど三分。何度やっても三分、そして最後の三分。三分のおまけだ」

男は口元を歪めながら笑みを浮かべた。


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