第26話 意志の眼差し
言いながら、泰司は皆人の顔を見ることができなかった。息子を庇うための言葉のはずだった。
しかし、店内の静寂は破られなかった。
トラックが遠くの国道を走り去る低い振動だけが、足元を揺らしていく。沈黙があまりにも長く続き、泰司が耐えかねてゆっくりと顔を上げたとき——そこにいたのは、泰司の知っている「息子」ではなかった。
皆人は、固く拳を握りしめていた。爪が掌に食い込むほど強く。その浅い褐色の瞳には、これまで一度も見せたことのない濃密な感情の火が灯っていた。怯えでも、父親に対する甘えでもない。むき出しの、鋭い人間の意志だった。
「俺は、ここにいたいんだ。俺自身が、この場所で、この店で生きていきたいんだ。」
言葉が途切れ、皆人は激しい息を吐いた。その額にはうっすらと汗が浮かび、目は激しく揺れていたが、その立ち姿には一点の揺らぎもなかった。
泰司は、金縛りに遭ったように動くことができなかった。
胸の奧で、固く結ばれていた何かが、ガラガラと崩れ落ちていく音がした。
泰司の視界が、急に歪んだ。
「……そうか」
泰司の口から漏れたのは、情けないほど小さな呟きだった。だが、その言葉には、長年彼を縛り続けていた過保護という名の重荷が溶けていく感覚が伴っていた。
泰司はゆっくりと立ち上がった。かつて自分よりもずっと小さかった息子の肩幅が、いつの間にか自分と変わらないほどに大きく、逞しくなっていることに、今更のように気づく。
泰司は手を伸ばした。しかし、かつてのように「守るため」に抱きしめたり、宥めたりするための手ではなかった。泰司は皆人の肩に、力強く、それでいて確かな敬意を込めて手を置いた。
「悪かった、皆人。……僕が間違っていたよ」
泰司の視線を受け止める皆人の瞳から、先ほどの鋭い角が削げ落ち、静かな決意の色だけが残った。
「お前はもう、僕が庇ってやらなきゃいけない子供じゃないんだな。自分の意思で、この場所を選んだんだな」
「うん」
皆人は小さく、だがはっきりと首を頷かせた。




