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第一話 逃げ足ロルフ

 

 世界には巨大迷宮(ダンジョン)と呼ばれるモンスターを生み出す不思議な塔が溢れている。

 神話によると、これらの迷宮は神達が人間を試す為に創り出したと言われている。

 その理由というのが紋章だ。

 神話では人間というのは元々最弱と呼べる程に弱かった。人間の叡智を持ってしても、モンスターには通用しなかった。それを見かねた神々が人間に特別な紋章と力を与え、その代わりに大いなる力の試練として迷宮を立てたのだと言われている。


 今では迷宮に挑む者たちを冒険者と呼ぶ様になった。彼らは迷宮に入り、モンスターを倒しそのモンスターの魔石やドロップ品を売って生計を立てている。

 強ければ強いほど稼ぐことが出来、今では夢見る少年少女が後を絶たない。その反面、紋章を持たなければ、夢見る資格すら与えられない。


 では紋章とは何か?


 それは人の能力を底上げし、具現化する。

紋章は体のどこかに発現し、能力を数値と言葉にして示してくれる。

 力・俊敏・持久力・器用・魔力、この五つの要素が基本能力(パラメータ)と呼ばれ、普通の人間にはなし得ない動きを可能にする。基礎能力は主に、迷宮のモンスターを倒していくことで成長する。しかし、成長にも限界はあり、単純に基本能力が高さで強さが決まるわけではない。

 では、何が冒険者の強さを決めるかといえば――スキルである。

 スキルはパラメータの優劣すら簡単に覆せる程の力を持つ。例えば、火の矢を打つ魔法であったり、自分の基礎能力を高めるものなど多岐にわたる。

 しかし、基礎能力を高めるものもあれば、逆もまた然り。世の中には寧ろマイナスの効果を与えるものだって存在する。


「おい、逃げ足(スプリングホック)がまた迷宮へ潜るってよ」

 冒険者ギルドの食堂で朝っぱらジョッキを傾けている巨体の男が、いつものように少年を嘲り笑う。

「逃げ足だけの腰抜けが」「お前なんか冒険者じゃねぇ!」野次を飛ばす男共の声に、少年は我慢ならずに声を上げる。


「ワーワーうるさいなぁー! 力だけの筋肉ダルマ共が ! 俺を捕まえられないからって嫉妬してんじゃねぇーよ!!ばーか!」

 べーとベロを出し、自分よりも屈強な男達を煽り、スタコラとギルドの扉を乱暴に押して逃げ去っていく。


「「こ、このっ、クソガキがッ!!」」

 酒のせいで真っ赤な顔が一層と赤く、男達の頭は沸騰するように熱くなる。

 周りから見れば、自分から煽っておいて自爆した恥ずかしい奴らだ。しかも、これが一度目でなくほぼ毎日のように行われるのでもう呆れている。


「おいっ、お前らあいつを追う…………ぞ。ひっ!」

 男の後ろにはじっと笑顔で睨む女の姿が。その威圧感から背後に鬼が見える程、怒気と殺気が漏れ出ている。


「……ガリアさん、あまりロルフを煽らないでくれますか。わ、た、し、の、専属冒険者なのですから。次見かけたら、上に報告しますからね」


「はぁ、まったく……」

 鮮やかな桃色のショートカットに少し切れ長のサファイアブルーの瞳の美女、ナスティはため息をつきながらロルフの身を案じるのだった。




 ◇





 ロルフが住む街、カリオスは世界で最も巨大な迷宮がある街である。

 これが特殊な街で、何処の国にも属すことの無い冒険者の冒険者による冒険者の為の冒険者の街である。


 そして、この街にあるのがエデンと言う迷宮だ。

 迷宮を踏破することは極めて難解だが、特にこのエデンは一階層毎の広さが桁違いに広く、難度が跳ね上がっている。

 更にエデンは底の知れない階層数を誇っており、殆ど五十階層以内で踏破出来ると言われている中六十四階層が最高到達階層。


 こうした理由からエデンは世界迷宮(ラストダンジョン)と呼ばれている。


 エデンを踏破しようと世界の最高峰達が集い長い歴史の中で作られたのがこのカリオスという街である。


 この街の誰もがエデンを攻略しようと躍起になっている。

 そして、ロルフもまたその一人であった。


「ふんっ、あいつら人のことをスプリングホックだなんてバカにしやがって! 」

 ロルフは石畳を力一杯踏みしめながら、迷宮へ向かっていた。

 悔しさが込み上げ顔は歪み、無意識に爪が食い込むほどに拳を握る。


「…………俺だって、あいつらみたいに戦える力があったら戦ってるさ」

 ロルフはいつものように左腕の袖を捲り、肩下にある自分の紋章を見る。

 超古代文字あるいは神代文字(ヒエログリフ)で書かれたそれは一見意味のわからない紋章であるが、自身の紋章であれば読むことができる。


  ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄

 ロルフ・アンロス (十四歳)


 ヒューマン


 力 129


 俊敏 586


 器用 237


 持久力 224


 魔力 218



 スキル


 疾駆逐電(ドゥラペテーヴォ)

 魔力を消費し瞬間的な移動を可能とする。


 逃走本能(イリニスティス)

 自身より強い敵への()()()()、俊敏、持久力への超高補正。



  ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄ ┄


 迷宮大災害が起こったあの日から、冒険者だったロルフはただの弱虫で、逃げ足だけが取り柄の軟弱者に成り下がった。

 思い出すのはモンスターを前に恐怖におびえ、姉を置き去りにして逃げ出す自分の姿。

 そこにロルフが憧れ、夢を見た姿はない。まるでそれを証明するかのようにスキルは発現した。あの日から消えることなく、ロルフには恐怖と呪いの様なスキルが刻まれ続けている。


「……消えてくれよ」

 どんなに願っても、消えることはない。


「頼むからさッ」

 昼下がりの街で一人立ち止まる。

 今にも消えてしまいそうなほど弱々しい叫びは誰に届くことも無く喧噪にかき消される。



「……はぁ」

 溜息を吐き、ロルフは歩き出す。

 弱音を吐いたところで、何も変わりはしない。

 今日も金を稼ぐために迷宮へ潜る。これ以上姉に迷惑などかけられない。そんな思いを抱えながらロルフは迷宮へと歩くのだった。



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