9.年下の王太子
ウィリアム王子殿下がレーゲンスブルク領を訪れたのは14歳の時だ。戦況は有利だったので、信頼できる軍を持つレーゲンスブルクが殿下の初陣に選ばれたのだ。
年の頃もあってか自信過剰で傲慢な、扱い難い王子と評されていた。レーゲンスブルク卿自ら戦時下の心得を説くも、真面目に聞くことはなかった。
戦力で圧倒的に有利なはずだった戦いだが、後方にいた王子が勝手に自分の部隊を動かしたため、敵の奇襲部隊に襲われた。王子を守る兵は自由に動けず苦戦する。そこへ駆けつけたレーゲンスブルクの一番隊が敵を蹴散らした。
「ウィリアム殿下、自分が与えた損害がお分かりですか?」
レーゲンスブルク卿の声には怒りが滲んでいた。
「…本当にすまなかった、どうか罰を与えてくれ」
王子を営倉に入れる訳にもいかず、城の一室での謹慎となった。世話係はシャーロットだ。
「ウィリアム殿下、夕食です。お手紙も来てますよ」
「食欲がないのだが…」
「戦場では時間がある時に食事を取るのが鉄則です」
「そうか…」
すっかり素直になった王子は年相応で可愛らしい。
「大丈夫、今回は死人が出てません、失敗は取り返せます」「そうだろうか」
「王子のひと言で兵も国も動きます。言葉の重さを知るいい機会でしたね」
「ああ、色々自覚が足りなかったようだ」
兄のルークからは若い時のルークと王弟殿下のやらかしをきき、王子に笑顔が戻っていった。王子が滞在を延長したのでお忍びで城下の町を訪れたりもしたが、全てが珍しくとても楽しんでいたようだ。
※ ※ ※
王太子が訪れる日、シャーロットは少ないドレスから何とか一枚選んだ。メイド長に支度の手伝いを頼むとベスとメグがやってきた。
「私、ご主人が奥様を迎えたら侍女にしてもらうのが夢なんです」
男爵家の3女と言うベスが髪を結ってくれる。
「この家に嫁ぐ方なら侯爵か公爵令嬢でしょうから、侍女は実家から連れて来る可能性が高いわね」
「そんなぁ、シャーロット様も連れてきますか?」
「私には専任の侍女はいないので、結婚の時考えるわ」
「良かった、よろしくお願いします」
「いやいや、私がここに嫁ぐことはないから」
そんな話をしていると王太子の到着が告げられた。出迎えはアルフレッドが引き受けてくれたので、マックスのエスコートで客間に向かう。
マックスがドアをノックし、シャーロットの到着を告げる。迎えようとしてアルフレッドが立ち上がるより早く、プラチナブロンドの麗しい青年が駆け寄ってきた。
「シャーリー!ああ、会いたかったよ!」
青年、ウィリアム王太子殿下はシャーロットの両手を掴んで興奮気味に叫んだ。
「お久しぶりです殿下、また背が伸びて青年らしくなられましたね」
「貴方はさらに美しくなったね、その青いドレスもとても似合っている。あ、殿下はやめてくれ、前みたいにウィルと呼んでほしいな」
「立太子されたのですから、それはいけません」
「ではせめてウィリアムと」
「かしこまりました、ウィリアム殿下」
「ウィリアム、落ち着け。シャーロット嬢を席に」
「あ、はい叔父上」
ウィリアムの手から解放されてシャーロットはほっとする。
「シャーリーの誕生日までは僕たち同じ歳だね、ああ、婚約する前に出会えていたら」
「ウィリアム殿下、来年ご結婚されるのですから発言は気をつけてくださいね」
「ははは、ここだけのことさ。シャーリーは変わらないなぁ」
しばらく王太子殿下の初陣の話しに花が咲いた。
「辺境領での体験で私は変わる事ができた。レーゲンスブルク家への感謝は生涯変わらない。導いてくれたシャーリーへの感謝も」
「私はレーゲンスブルク家の娘というだけですわ」
「いや、貴方はかけがえのない存在だ」
侍従が王太子に時間を告げる。
「シャーリーといるとあっという間に時間が過ぎてしまうな。次は城で会えるのだろう、楽しみにしているからね」
そう言って彼はシャーロットの手の甲に口づけをした。
公爵家の玄関でウィリアム王太子を見送り、二人きりになるとアルフレッドは大きくため息をついた。
「私は10も年下の甥を見習うべきなのか」




