4.シュタイナー公爵家
久しぶりの王都、シュタイナー公爵家の門を抜け馬車は玄関へ向かう。
(なんでこんな事に)
シャーロットは馬車の中で震えていた。王都での授与式と夜会、亡き母の代わりに父のパートナーとして参加するのは珍しくはない。だが滞在先がアルフレッドの所なんてあり得ない。自分だけトーリア伯爵邸に泊まると希望したが、父に却下された。
「今王都は外国の人間の出入りが激しい、一緒にいないと守ってやれない」
娘を溺愛してくれる父の言葉には逆らえなかった。
玄関で迎えてくれたアルフレッドは、にこやかに父と挨拶を交わし、シャーロットにも声をかけた。
「いたらぬ所もあるかと思いますが、ご令嬢もごゆるりと滞在してください」
「お心使い、痛みいります」
今日も視線を合わせることはなかった。なるべくこのまま顔を合わせないのが一番だろう。
願い虚しく1人で邸宅内を散歩していた時突然アルフレッドから声をかけられた。
「貴方はレーゲンスブルク家の使用人でアンナという女性を知っているだろう?」
「いいえ閣下、アンナという名の使用人はおりません」
俯いたまま、小さな声で答える。アルフレッドは少し考えていたようだが、黙って離れていった。
アルフレッドがアンナを気にしていることは意外だった。辺境の村娘などとっくに忘れ去られていると思っていたのに。本当のことを話すべきだろうか?でもシャーロットは令嬢としてたぶん疎まれている、真実が分かると、きっとがっかりされるだろう。アンナとして優しくされた思い出を壊したくないシャーロットは打ち明けることをやめた。
昼には早速王宮から呼び出しがあり、父とアルフレッドは出かけて行った。食事を同席せずに済んで、シャーロットは安堵した。
しかし翌日の朝、父から自分だけ辺境伯領に帰ると告げられた。
「結界に綻びが出たそうだ、至急直さないと危ない。式典までには戻るからここで待っていてくれ」
領の結界は父と2人の兄の魔法の重ねがけで強力になっている、3人揃わないと補修もできない。
「私だけでしたら宿屋か叔母様の所へ移りますわ」
「いや、公爵閣下からこのままでとの申し出だ。ここなら警備も万全だし私も安心できる」
「…わかりました」
「なるべく早く戻るから充分気をつけて。出かける時は必ず護衛を付けるのだよ」
「はい、お父様もお気をつけて」
父を見送るとシャーロットは公爵家の家令であるマックスのもとへ向かった。
「私ひとりの間はなるべく公爵閣下を煩わせたくないの、食事は別でとりたいと思います」
「かしこまりました。主人は日中は不在が多いので自由に過ごされて下さい。ご要望は私かメイド長に遠慮なくおっしゃってください」
「ありがとう、あの、いつものように過ごさせていただいてよろしいですか?」
「もちろんです」
マックスからは快く了承された。アルフレッドはシャーロットには興味はないから、何をしようと気にもとめないだろう。ならば、レーゲンスブルク領の毎日のように過ごさせてもらおうと決めたのだ。




