3.すれ違い
停戦が決まり、明日フレデリックは王都に戻り、入れ替わりに官僚や書記官が話し合いにやって来る予定だ。
夜会の前に、シャーロットはドレス姿の自分を念入りにチェックした。
「久しぶりだから、おかしくないかしら?」
「大丈夫ですお嬢様、とてもお綺麗ですよ」
「そうですよ、このマリーの自慢のお嬢様ですから」
メイド達が口々に褒めてくれて、少し安心した。
(アルフレッド様にも褒めていただけるかしら)
ネックレスはシルバーにエメラルドの石が付いた物を選んだ。彼の瞳の色だと気がついてくれることを期待して。
「シャーリー、支度はできたか?」
迎えに来たルークのエスコートで広間に降りる。ルークの妻は身重で別邸に滞在中だ。
「ドレスはやめると言ってなかったか?」
「お父様から着るように言われたのよ」
「親父は親馬鹿だからな、ドレス姿のお前を披露したいのだろう。まぁ令嬢みたいには見えるよ」
「お褒めいただき光栄ですわ」
シャーロットはルークの手を軽くつまんだ。
戦勝祝いとアルフレッドの送別を兼ねた夜会が始まった。
シャーロットは父と共に挨拶に周りながら、胸の動悸が抑えられなかった。
(閣下がいらしたら私がアンナであることを打ち明けよう。驚いて、笑ってくださるだろうか。できることなら、閣下と踊れたら…)
会場にフレデリックが現れるとレーゲンスブルク卿は自ら近づいていった。
「副将軍閣下、娘を紹介させてください」
シャーロットは震える指を握り、渾身のカテーシーをした。
「辺境伯が娘、シャーロットと申します」
「シャーロット嬢、良き夜を」
ひと言だけ残すと、アルフレッドはその場を離れていった。
アルフレッドはパーティで自分に媚びを売る令嬢が嫌いだ。だから紹介されたシャーロットも、終わったとはいえ戦地で着飾る娘くらいの印象しかなかった。
それよりもアンナを探そうと歩き出したアルフレッドは、シャーロットを振り返ることもなかった。
シャーロットはアルフレッドが去ったその場で立ち尽くしていた。我に帰ると父に断りパーティー会場から抜け出した。
(私がアンナだと気づいてくれると思っていたのに、目を合わせることもなかった。ルーク兄様から閣下は貴族令嬢が嫌いって聞いていたのに、アンナみたいに接してもらえると期待してたなんて、私は馬鹿だ。自分が恥ずかしい)
シャーロットはドレスを脱ぎ捨てると部屋のベッドで泣いた。
アルフレッドは懸命にアンナを探すが、どうしても見つからない。ルークならわかるかとルークの元に行くと、兵士たちと飲み比べをしていてまともな会話は出来なかった。こんなことなら昨日のうちに色々きいておけばよかったとアルフレッドは後悔した。
翌朝、王宮隊出立の時、アルフレッドは見送りの群衆にアンナを探したが、その中にもアンナはいなかった。そして前列のレーゲンスブルク家の中にシャーロットの姿はなかった。
◇ ◇ ◇
王都に戻ってからのアルフレッドは多忙な日々を送っていた。王都に帰れば最後に会うことの叶わなかったアンナのことも忘れられると思っていた。
しかし欠席できない夜会で令嬢達と不毛な会話を交わしていると、辺境に暮らしている彼女に思いを馳せてしまう。
ずっと年下の娘のことが何故こんなに気になるのか、アルフレッドは自分の気持ちに戸惑っていた。
そんなある日の夜会で、レーゲンスブルク卿の妹トーリア伯爵夫人が挨拶にきた。
「此度の御戦勝おめでとうございます」
「ありがとうございます、すべてレーゲンスブルク家の功績と思っております。そういえば辺境伯領でアンナと言う娘に会いましたが、伯爵夫人もご存知ですか」
さりげなく名前を出してみる。
「アンナですか、あの娘とお会いになったと?」
「ええ、ルークが連れてきて彼女に世話になりました」
「そうですか…シャーリーでなくアンナと会わせたと…ルークはお仕置きね」
伯爵夫人は小さな声で呟き、挨拶待ちの貴族に場を譲った。結局アンナについては謎のまま…
レーゲンスブルクでの勝利は情勢を大きく動かし、王国に有利な条件でアハト皇国と和平が結ばれた。
ひと月後にアルフレッドやレーゲンスブルク家など功労者の勲章授与の式典が決まった。
レーゲンスブルク卿は娘と王都に来るとききつけ、アルフレッドは辺境へ手紙を送った。
会議を含めて2週間ほどの滞在を、是非シュタイナー公爵家でお過ごしください、と。




