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第15 話 第四夜


 樹の下にたどり着いた第四夜である。


 昼過ぎに樹の下へたどり着いた。その時のことを思い出しながら焚き火に当たっている。遠く歩き至り、ようやくたどり着いたのはトーキョーの中心にある大きな樹だ。


 ゆっくり歩くあたしとドーマのずっと先を、早く早くとわめきながらミフユが走っていく。


 大人になると走らなくなるのは何故だろう。ある日、そのことに気付いて以来、あたしは走ることを心がけてきた。短い距離でも、急ぐ必要のない時でも。

 あたしたちは何を得て何を失うのだろう。ゆったりと歩くアリアは、笑って首を傾げるだけだった。ある時は怒りに、ある時は復讐に、ある時は恐怖に、ある時は悲しみに、ある時は喜びに駆られ。あたしは疾走する。


 考えながらも足は進み続け、樹の下にたどり着いた。トーキョー中に根を張り枝を張り、護りながら閉じ込めている樹の下に。


 ひと足先に着いていたミフユは樹の幹にオデコをあてて、なにか話しかけている。いったいナニと話しているのか。ドーマに尋ねると、


 ……もちろん、樹と話している。


 ……樹と?


 ……そうだ。俺たちとこの子は友達だったんだよ。いや、いまもずっと友達だ。


 ……あたしにも聞こえるのか? 話せるのか?


 ……いや、無理だろうな。


 と、ドーマが首を振った通り、あたしには樹の声などというものは聞こえなかった。これっぽっちも。そう、これっぽっちもだ。


 だから意味はないと言っただろう。そう言って笑うドーマの声はひどく乾いていた。


 しかし、本当に樹の声などというものが聞こえているのだろうか。そう思い込んでいるだけではないのか。純粋にドクターを信じていた、いや、信じる振りをしていた頃のあたしに似ている。まだトーキョーが樹に護られていなかったころ、自分の腕を切り裂き血を流しながら、その温かさを感じることでやっと生きていける連中がいたと聞く。彼らの腕には、疑いという蛇が潜んでいたに違いない。


 樹の下に行くことに意味はないということを確認した、それだけの第四夜である。


 だから意味はないと言っただろう。頭の奥で、ドーマの声がうつろに響く。俺たちは行けない。過去の亡霊なんだ。トーキョーの外へは行けない。そう話していた。


 樹の下に留まるドーマたちと別れ、今夜はまた独りだ。餞別にもらった飲み物に口をつけると、赤い液体が喉を降りていった。

 まだ飲めるかどうかわからんけどやるよ、とドーマがくれた飲み物の容器には緑と紫のブドウの絵が描いてあった。読めたのは、ダブルという文字だけだ。これも酒の一種らしい。


 血のように赤いダブルに乾杯。


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