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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第七章 魔道競技祭(2年目)編
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第48話:鴇音の災い

「・・・以上で開会式を終了します」

競技祭の開会式が恙なく執り行われると生徒達は自分達が参加する競技の準備を始めた。


(ウォーターフラッグは昼過ぎからだからまだ少し時間が空いているな・・・)

僕は競技の開催時間を確認すると午前中は他の競技を見ることにした。

ちなみに遥の参加する短距離用のスカイレースは午後の最終種目で行われる。


スカイレースは魔道競技祭の花形競技なのでそれは仕方がないことであった。


「遥さんはどうします?」

僕は遥にこれからの予定について確認した。


「そうね・・・特に見たい競技はないから茜に任せるわ」

遥は微妙な笑みを溢すと僕に判断を委ねてきた。


「それじゃ・・・まずは例年通りにスカイレースの開催式でも見に行きます?」

僕は去年と同じように長距離のスカイレースを見に行くことを提案した。


「まぁ、今年は部長の夏海先輩が出るみたいだし、いちおう応援に行こうかな?」

遥は複雑そうな表情を浮かべていた。


なぜ遥がそのような顔をするのか?


それはスカイレース部で夏海先輩に散々扱かれていたため、遥は彼女のことがあまり好きではないようであった。


「やっぱり、別の競技にしますか?」

「いや・・・見に行きましょう」

遥は真面目な表情を浮かべると長距離のスカイレースのスタート地点へと足を向けた。どうやら夏海先輩を応援する覚悟を決めたようである。


(そんなに肩肘を張らなくてもいいのに・・・)

僕はぎこちない動きの遥を見て苦笑いを浮かべた。


(・・・あれは?)

僕達がスカイレースのスタート地点に辿り着くとそこには数少ない物理研究部員の菊花と結衣が見学に来ていた。


「・・・おはよう」

僕は菊花達の傍まで近づくと声を掛けた。


「お・・・おはようございますっ!」

菊花は驚いたように僕の方へと振り返ると挨拶を返してきた。


「・・・」

結衣の方は菊花の背後に隠れると怪訝そうな顔で僕の方に視線を向けていた。

結衣は人付き合いが苦手で菊花以外とはあまりコミュニケーションをとりたがらなかった。


「だめでしょっ、結衣ちゃん。ちゃんと挨拶しないと?」

菊花は背後の結衣を諭すように話しかけると返事をするように注意した。


「・・・お・・・おはよう・・・ございます」

結衣は恥ずかしそうに身体を震わせると独り言を呟くように挨拶してきた。

その仕草は何とも小動物を思わせるような可愛さを秘めていた。


「おはよう」

僕は爽やかに微笑んだ。


「おはよう、菊花ちゃん、結衣ちゃん」

遥は明るく微笑むと親しげに手を振った。


「・・・おはよう」

結衣は少しだけ安心したように口許を緩ませると少しだけ口を開いた。

彼女は長い時間、一緒にいる僕よりも遥の方に懐いているようであった。


(何か悔しいな・・・)

僕は遥のことを少しだけ羨ましく思った。


尤も遥は小さい頃からたくさんの人見知りな子供達と接してきたのだ。人付き合いにおいて僕が勝てる道理はなかった。


「それで・・・菊花ちゃん達はここで何をしているのですか?」

僕は気を取り直すと菊花達に目的を訊ねた。


「私達ですか?」

菊花はキョトンと目を丸くさせると首を傾げた。


「そうです」

僕は首を縦に軽く振ると菊花に優しく笑いかけた。


「私達は・・・鴇音先輩に言われてスカイレースに使われる箒のエンジンの調子を見てきました」

菊花達は鴇音の代わりにエンジンの調整にやってきていた。

夏海先輩はこないだの一件以来、すっかりと鴇音のことを信頼していたため、物理研究部の彼女達にエンジンの調子を見てもらっていたのだ。


「なるほど・・・それで・・・その依頼を受けたはずの鴇音さんの姿が見えないみたいなんですが?」

「鴇音先輩なら・・・今はスカイウォーカーで使用する新兵器の微調整を選手控え室で行っていますよ」

菊花は楽しそうに声を弾ませながら答えた。


「新兵器・・・」

僕は鴇音の『新兵器』と聞いて苦笑いを浮かべた。

なぜならば、僕達はこれまでモニタリングと称しては色々な実験体をやらされてきたため、ろくな思い出が存在しなかったからだ。


(本当に次から次へと・・・)

鴇音は世間では所謂『天才』と呼ばれる存在であったが、僕達からすれば『天災』・・・否、人が巻き起こす厄介ごとなので『人災』と呼ぶべきかもしれない。

そんな彼女が新たな装置を携えて競技に参加しようというのだ。競技で波乱が巻き起こることは必至であった。


(スカイウォーカーか・・・あとで様子を見に行こう・・・)

僕は新たに犠牲者となる者達の姿をこの目に焼き付けておこうと思った。


「それで・・・結衣ちゃん達は何の競技に参加するのかな?」

僕が鴇音のことを考えている最中、遥は結衣との会話を続けた。


「私達は・・・」

結衣は生まれたての小鹿のように身体を震わせながら静かに口を開いた。


「作り物競争に参加する・・・」

「そっか・・・作り物競争か」

「あの競技なら・・・菊花と参加できるから・・・」

結衣は人見知りが激しかったため、1人で参加するような競技には出られなかった。


「教えてくれてありがとうね」

遥は満面の笑みを浮かべると優しく結衣の頭を撫でた。

結衣は嬉しそうにはにかむと遥に笑い返した。彼女は遥には心を開いているようであった。


(羨ましい・・・)

僕は微笑ましい遥達の姿を見つめながら自分も何時の日か結衣の心を開こうと密かに決意した。


「そろそろ始まりますね」

僕達が和気藹々としていると長距離のスカイレースに参加する生徒達が出発するステージ上に姿を現した。

ちなみに今年、うちの高校から参加する選手は夏海先輩の他には生徒会長の涼子先輩とスカイレース部のエースの『野々宮紗耶¨ののみやさや¨』である。彼女達も夏海先輩以上の実力を持ち合わせていた。


「頑張れえええ」

遥はステージ上の夏海先輩に手を振ると彼女に声援を贈った。

何だかんだ言っても彼女も夏海先輩のことを気に掛けているようであった。


「・・・」

夏海先輩は遥の声援に気が付くと不敵な笑みを浮かべた。まるで『任せておけ』と言わんばかりの自信満々な様子であった。


「今年ならば・・・」

僕はステージ上の夏海先輩達を見つめながら拳を握り締めた。


今年は鴇音から色々と箒などに仕掛けを施してもらっている。そして、生徒会長の涼子先輩はトリプルエックスの持ち主なのだ。彼女を上手くサポートできれば常勝無敗の王城にも今年こそは勝つことが夢ではなかった。


「それでは・・・各校の選手は位置について・・・」

司会進行は大きな旗を振り上げると一呼吸置いた後、その旗を一気に振り下ろした。


「スタートっ」

司会進行の合図と共に各高校の選手達は一斉に動き出した。


「行くわよっ」

夏海先輩は威勢よく声を上げると沙耶先輩と共に涼子先輩の前へと移動した。

今年の作戦はあくまで涼子先輩を中心に彼女の体力、気力共に温存させる作戦であった。

僕達は夏海先輩達の姿が見えなくなるまでその場で彼女達の勇姿を見守った。


「・・・いっちゃったわね」

「そうですね」

僕は視線を遥の方に向けると優しく微笑んだ。


「それで・・・これからどうする?」

「まずは・・・スカイウォーカーの会場に行ってみませんか?」

僕は菊花から聞いた鴇音の新兵器が気になって仕方がなかった。


「それじゃ、私達もご一緒しますね」

菊花は可愛らしい笑顔を浮かべると僕達の後ろへと回った。


「ところで・・・スカイウォーカーの会場ってどこだっけ?」

「スカイウォーカーは水泳ができる会場になるので西側の方ですね」

僕は国立競技場の見取り図を頭に思い浮かべながら遥達を水泳競技場まで案内した。


水泳会場では各校の選手達が200メートル上空にある特設ステージで待機していた。

各選手達はプールの真ん中に設置されている平方1メートルの足場を目指して浮遊落下していく。


「鴇音さんは・・・」

僕は特設ステージ上の鴇音の姿を探した。


「・・・いました」

菊花は目聡く鴇音の姿を発見すると嬉しそうに手を振った。

鴇音は眉間にしわを寄せながら何らかの装置を弄っていた。


「どんな試合になることやら・・・」

遥は集中する鴇音の姿を見つめながら苦笑いを浮かべた。その意見には僕も同意であった。


(無事に試合が終わればいいけど・・・)

僕はこれから行われる惨事について祈りを捧げた。


「始まりました」

菊花は特設ステージから降りてくる選手を確認すると声を上げた。


「・・・あれ?」

僕は誰よりも早く目標地点に到達する鴇音の姿を見つけて疑問符を浮かべた。


スカイウォーカーの台座は重力魔法を掛けられると水の上の発泡スチロールのように傾くようになっており、早く降りれば降りるほど他の選手からの重力魔法を多く受けなければならない。

そのため、先に目標地点に到達した者は誰よりも魔力の消費が激しくなる。従って、通常であればそうならないようにするため、滞空時間をなるべく長くしながら目標地点を目指す。それなのに鴇音はセオリーに反して全く逆のことをしていたのである。


(一体何をするつもりだろうか?)

僕は鴇音の不可解な行動が全く理解できなかった。


誰よりも早く着地点に到達した鴇音は自らを覆っていた空気のボールを割ると何処からか妖しげな装置を取り出した。そして、ゴール地点である発泡スチロールの中心にその装置を置くと満足そうに不敵な笑みを浮かべた。


「電磁フィールド発生っ!」

「「「きゃっ」」」

鴇音が装置のスイッチを入れると周辺の生徒達から悲鳴が湧き起こった。


装置から発生した妖しげな発光をあびた生徒達は空気のボールが破裂して次々とプールの中へと落ちていった。その様子は紫外線の蛍光灯に引き寄せられた蟲のように無残であった。


「一体何が・・・」

僕は哀れな選手達を見つめながら思考を張り巡らせた。

この大惨事を巻き起こしているのは間違いなく鴇音の作ったあの装置なのだろうが、僕にはその原理が全くわからなかった。


「無能な蚊とんぼどもはみんな水の中へ落ちればいいのだっ」

鴇音は周辺の選手達を挑発するように高笑いを響かせるとどこぞの独裁者のような台詞を口にした。


「ふざけるなあああ」

怒った選手達は挙って鴇音に重力魔法をあびせようとしたが、鴇音は物ともしない様子で笑い続けていた。

周囲の選手達が重力魔法を掛ければ掛けるほど鴇音の周辺の発光体は眩しさを増していった。


「見ろっ!まるで人が塵のようだっ」

鴇音はついにはどこかで聞いたことのあるような悪役の極みのような台詞を言い放った。もはや敵味方は関係ないようであった。


(あれは・・・かなり酷いな・・・)

僕は悪役に徹する鴇音に対して

『天罰が下ればいいのに・・・』

と心の中で静かに祈った。


「ほらほら、君達の力はそんなものか?」

鴇音は必要以上に他の選手達を挑発していた。


彼女が使用している装置は重力魔法によって効果を発揮する機械であったため、魔法を使わずに直接力押しでこられれば彼女は一溜まりもなかった。そのため、周囲の選手達に重力魔法を使わせようと煽っていた。


あとで鴇音に聞いた話だが、あの装置は『圧力素子』と呼ばれる電子部品を使用しており、重圧が掛かれば掛かるほど強力な電力を生み出せるそうだ。そして、その膨大な電力によって周辺に強力な電磁フィールドを作り出すと共に無重力空間を作り出していたのである。


「あんな装置を作るなんて・・・」

「本当に天才ですよねっ!鴇音先輩はっ」

菊花は他を圧倒する鴇音に羨望の眼差しを向けていた。


(本当に天災だ・・・否、人災か・・・)

僕は菊花とは違って、ただただ呆れた眼差しを送っていた。


無敵に思われた彼女の所業であったが、その天下も長くは続かなかった。


・・・ぷすっ!

それは唐突に始まった。鴇音の新兵器はモクモクと白い煙を発し始めたのであった。


「やばっ・・・」

鴇音は慌てて煙を上げている装置を蹴り上げるとプールの中へと放り込んだ。


次の瞬間、爆発した新兵器はプールの中から10数メートルもの水柱を作り上げた。それは集まりすぎた電気量に兵器の回路が耐え切れず、膨大な電気ショックを起こした結果であった。


「一体何が・・・」

観客や周囲の選手達は凍りついたように静まり返っていた。

まぁ、目の前でこんな信じられない光景を繰り広げられれば誰だって言葉を失うだろう。少なくとも僕もその内の1人であった。


「あはっ・・・あははは・・・」

静まり返る会場の中、鴇音は乾いた笑い声を上げた。


「ふっ・・・ふざけるなあああ」

他の選手達は我に返ると一斉に鴇音に向かって怒涛の魔法を放った。


「・・・ふっ」

鴇音は妖しげに眼鏡を光らせると他の選手から魔法を受ける前に一目散にプールの中へと飛び込んでいった。

切り札を失った彼女にできることは逃げることだけであった。彼女はそのことをよく理解していた。


(参加しなくて良かった・・・)

僕は鴇音の惨事を見てスカイウォーカーに参加しなかったことを心の底から喜ぶと安堵の溜息を漏らした。

ちなみに鴇音の起こしたこの一件で魔道競技祭に危険物の持ち込みを禁止する事項が追加されたことは言うまでもない。


「負けてしまいましたね・・・」

菊花は鴇音がプールの中へと落ちると落胆の声を漏らした。


「まぁ、仕方がないよ。あそこまで健闘しただけでも凄いと思います」

僕はがっかりしている菊花を励ました。


「そうですよね・・・。やっぱり、鴇音先輩は天才ですっ」

(本当に天災だよ・・・)

僕はキラキラと瞳を輝かせる菊花とは対照的に表情を引き攣らせた。


「次、何を見に行く?」

遥はスカイウォーカーの競技が終わると話し掛けてきた。


「そうですね・・・」

僕は次の競技について思考を巡らせた。


「それなら・・・スポーツクライミングでも見に行きます?」

その競技は去年遥が参加する予定の競技であった。


「そうね・・・去年は参加できなかったし、見に行きましょう」

遥は僕の意見に賛同すると僕の手を握り締めた。


「こうすれば、迷子にならないでしょ?」

「はい・・・」

僕は遥に手を握られて頬を赤らめた。


「そういえば・・・菊花ちゃん達はこれからどうするの?」

「私達ですか?」

菊花は急に話を振られて首を傾げた。


「私達はこれから鴇音先輩の所に向かおうと思います」

(菊花ちゃんは本当に鴇音先輩のことが好きなんだな)

僕は嬉しそうに鴇音のことを話す菊花を見つめながら静かに微笑んだ。


「それじゃ、作り物競争頑張ってくださいね。応援に行きますから」

「はいっ。是非、お願いします」

菊花は元気よく手を振ると結衣を連れて選手の控え室へと向かった。


「可愛い後輩達よね」

「そうですね」

菊花達を見送ると僕達もスポーツクライミングの競技会場へと足を向けた。

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