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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第五章 課外活動編
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第35話:インターンシップ 遥編(3)

「ごめんくだせいっ」

その日の夜、あたしの所に源太の話を聞いた彼の父親がやって来た。


「この度はうちの馬鹿息子の命を救っていただき、誠に・・・ありがとうごぜえましたっ」

源太の父親は深々と頭を下げると全身全霊で感謝の気持ちを表してきた。


「顔を・・・顔を上げてください・・・」

あたしはとても厳つい身体をした源太の父親に圧倒されながら自らの身体を縮こませた。


「是非とも何か・・・何かお礼をさせてくだせいっ」

源太の父親は顔を上げると再びあたしに顔を近づけてきた。


「いや、あたしは魔法使いの見習いとして当然のことをしただけだから」

あたしは両手を大きく横に振りながら源太の父親の申し出を断った。


流石に彼の父親から何かを受け取るわけにはいかなかった。


「そこを何とかお願げえますっ。このままではわしの・・・わしの気持ちが納得いきませんのでっ」

源太の父親は再び頭を下げると地面に額を擦りつけた。彼は何が何でもお礼をする気でいた。


「ちょっ・・・ちょっと待ってっ」

あたしは眉をひそませると困惑した表情を浮かべた。正直、今のところ源太の父親にやってもらいたいことなど何1つ思い付かなかった。


(一体どうすれば・・・)

あたしはこの場を収めるための何か良い方法がないかと思考を張り巡らせた。


(そうだっ、あれをお願いできるなら・・・)

あたしは源太の父親が漁師をやっていることを思い出して彼に茜のいる神津島に連れて行ってもらうことを思い付いた。


「あの・・・1つだけ頼み事をしてもいい?」

「なんでっせ?」

源太の父親は勢いよく顔を上げると期待しているような眼差しで自らの顔を近づけてきた。


(顔近っ)

あたしは源太の父親に圧倒されながらも自分のお願い事を口にしようと気持ちを引き締めた。


「あたしを・・・あたしを神津島まで連れて行ってもらいたんだけど?」

「神津島に?」

源太の父親はあたしの唐突な申し出に目を点にさせていた。


「無茶かな?」

「・・・別に構いやせんよ。1週間後であれば丁度遠洋漁業に出ますんで・・・」

源太の父親は思いのほか簡単にあたしの要求を認めてくれた。


「本当にっ。それじゃ・・・お願いするわっ」

あたしは嬉しそうに目を輝かせると力一杯源太の父親にお願いした。


「任せといてくだせいっ」

源太の父親は自信満々な様子で胸を大きく突き出した。


こうして、あたしは茜にチョコレートを届ける手段を確保した。


そして、1週間後、あたしは春人に休みの許可を認めてもらうと彼に渡すチョコレートを用意して神津島へと向かった。


(茜・・・喜んでくれるかな?)

あたしは脇に抱えたチョコレートを見つめながら頬の筋肉をだらしなく緩めていた。


「・・・もうすぐ島が見えてきませ、遥ちゃん」

源太の父親は地平線の彼方に見えてきた陸地のようなものを指差した。


「あれが神津島・・・」

(あそこに茜がいるのね)

あたしは目を細めながら遠くに見える神津島を見つめた。


(それにしても・・・思った以上に時間が掛かったわね)

あたしが湘南を出発したのはまだ日が昇る前のことだったが、その太陽は既に真上に昇っており、西の海に少しずつ傾き始めていた。


それは神津島がとても遠い場所であることを物語っていた。


(あと少し・・・あと少しで茜に会えるのね)

あたしは逸る気持ちを抑えながら神津島に到着するのを今か今かと楽しみに待っていた。


「お待っとさんっ」

源太の父親は神津島の波止場に船を寄せると船から太い板を出して橋を掛けた。


「どうもありがとうね」

あたしは神津島に到着すると源太の父親に感謝を述べた。


「いや、こちらこそ。うちの息子の命を救ってもらい、本当にありがとうごぜえました」

源太の父親は畏まるように両手を大きく横に振った。そして、頭を深々と下げた。


「顔を上げて・・・今感謝しているのはあたしの方だから」

あたしは頭を下げる源太の父親に頭を上げるように促した。


「そんでは17時頃ここにまた船を寄せますんでその時までには戻って来てくだせえ」

源太の父親は船からの板を外すと大手を振りながら再び海の方へと進路を向けた。


「漁っ、頑張ってねっ」

あたしは源太の父親に感謝しながら大きく手を振り返した。


「さてと・・・」

あたしは陸地の方に視線を向けると周囲の様子を確認した。


(・・・意外と栄えているのね)

あたしは観光業で賑わっている神津島の光景を見て少し驚いていた。正直、もっとド田舎な光景を想像していた。


「これからどうしようかな・・・」

あたしは茜のいる病院までに行く方法を全く考えていなかった。


「すみませんっ、この島って病院はどれくらいあるの?」

あたしはその辺に歩いている農家のおじさんに声を掛けた。


「面白いことを言うな、お嬢さん。この島には病院なんて1つしかないよ」

農家のおじさんは大口を開けながら豪快な笑い声を上げた。


「そうなの?」

あたしはこの島に病院が1つしかないと聞いて胸を撫で下ろした。


これで茜のいる病院を何件も探し歩く必要がなくなったからだ。


「その病院にはどのように行けばいい?」

あたしは再び口を開くと病院までの交通手段について確認した。


「まぁ、この島にはタクシーもバスもないからね。基本的には徒歩で行くしかないな」

「なるほど・・・歩いていけばいいのね」

「お譲ちゃん、まさかここから病院まで歩いていく気かい?」

農家のおじさんは驚いた表情であたしの顔を見つめてきた。


「そのつもりよ?何か問題ある?」

あたしはこんな栄えている場所ならばすぐに辿り着けるだろうと高を括っていた。


「ここから病院まで歩いていくのに2時間くらいは掛かるけど・・・大丈夫かい?」

「2時間っ」

あたしは病院までに掛かる所要時間を聞いて思わず驚きの声を上げた。


まさかそんなに掛かるなんて思ってもみなかった。


片道で2時間ならば、ここに戻ってくるまでには4時間掛かることになる。


そうなれば、あたしは源太の父親と約束した時間に間に合わない可能性が非常に高かった。


(こうなったら・・・走っていくしかないか)

あたしは茜のいる病院まで走っていくことを決意すると準備運動を始めた。正直、茜とは綺麗な姿で会いたかったが、他に手段がないのであれば仕方がなかった。


「お譲ちゃん、もしかして走る気なのか?正気かい?」

農家のおじさんは眉を吊り下げると心配そうな表情を見せた。


「それしか方法がないのであれば仕方がないわ」

あたしは魔法で脚の筋力を強化すると病院まで走り出そうとした。


「お待ちなさいっ」

あたしが2、3歩踏み出すと唐突に農家のおじさんに呼び止められた。


「どうしても病院に行きたいのであれば、わたしのトラックに乗っていきなさい」

農家のおじさんは無謀なことをしようとしているあたしを見兼ねて病院の近くまで送ってくれることを申し出てくれた。


「本当に?」

あたしは表情を明るくさせると農家のおじさんの方に振り返った。


「あの病院の人には色々とお世話になっているからね。それくらい構わないさ」

「ありがとうっ」

あたしは農家のおじさんに感謝すると集荷に使っているトラックに乗せてもらった。


「それじゃ、行くよ」

農家のおじさんはトラックのエンジンを掛けると静かにトラックを発進させた。


(待っててね、茜。今行くからね)

あたしは期待で胸を膨らませながら茜のいる病院へと向かった。


この時、まさか彼があんな大変な状況で苦労しているとは微塵も予想していなかった。


「それじゃ、気を付けてなっ」

「ありがとうっ」

あたしは病院の近くまで送ってもらうと農家のおじさんに大きく手を振った。


「それにしても・・・随分と山の中にあるのね」

あたしは静かな風景を見ながら先程まで見ていた景色とのギャップに驚かされていた。


「あとはこの山道を真っ直ぐ行けば・・・あれかな?」

あたしは山の中に物寂しく建っている病院を見つけた。


(本当にあそこで茜が働いているのかしら?)

あたしはかなり不安な気持ちになっていた。もし、あの病院に茜がいなければとんだ無駄足だ。


(とにかく今はあそこに行くしかないっ)

あたしは気持ちを切り替えるとその病院を目指して足を進ませた。


「お邪魔します・・・」

あたしは病院の扉の前に経つと静かに病院の扉を開いた。


病院の中では何やら深刻そうな顔をしているおばさんが長椅子に腰掛けていた。ちなみにドアには『close』の札が掛けられていたらしいが、あたしは全く気が付いていなかった。


(何なの?この重苦しい雰囲気は?)

「茜?いる?」

あたしは重苦しい空気の中、茜の姿を探したが、彼からの返事は戻ってこなかった。そして、声を掛けたあたしの方に目付きを鋭くさせたおばさんの視線が突き刺さってきた。


「あれ?もしかして・・・忙しかった?」

あたしは深刻そうな顔しているおばさんに睨まれて、とても気まずい気持ちになった。


(今は来ない方が良かったかな?仕方がない・・・一旦出直そう)

あたしは踵を返すと病院から出て行こうとした。


「遥さん・・・すぐにこっちへ・・・」

あたしは診察所の奥の方から聞こえてきた弱々しい茜の声に足を止めた。


「なんだ・・・茜いるんじゃない?どうかしたの・・・」

あたしは茜に呼ばれて診察所の奥の方へと移動した。


「ちょっとっ、何死にそうな顔をしているのよっ」

あたしは今にも死にそうな表情をしている茜を見て思わず声を荒げた。


「頭を・・・」

茜はあたしの方に額を突き出すとお凸とお凸を合わせるように求めてきた。正直、彼が何を考えているのかはわからなかったが、とても重大なことを伝えようとしていることだけはしっかりと伝わってきた。


「これでいい?」

あたしは茜に言われるままお凸を付き合わせた。


「シナプス細胞を肥大化させて・・・」

(シナプス細胞・・・ああ、脳内細胞か)

あたしは茜の指示通りにシナプス細胞を肥大化させた。


すると彼の頭の中から様々なイメージが伝わってきた。


治療している少女の命が危ういこと、その少女を助けるために茜がしてきたこと、そして、この後どのような治療をしなければならないかなどを一気に理解できた。


「なるほどね・・・状況は大体理解できたわ。あとはあたしに任せてっ」

あたしは疲弊しきっている茜を安心させるように自信満々な表情を浮かべた。


「よろしく・・・お願いします・・・」

茜はそれだけ言うと静かに眼を閉じた。


「全く・・・本当に無茶ばかりするんだから」

あたしは気を失った茜を持ち上げると近くのベッドへと運んだ。そして、彼をベッドの上に寝かせると再び少女の下へと戻った。


「絶対にあたしが助けてみせるからっ」

あたしは気合を込めると少女の治療を再開した。


茜がイメージで治療状況を伝えておいてくれたおかげであたしは自分がやるべきことをしっかりと把握できていた。


(それにしても・・・よくここまで)

あたしはエコロケーションを使って少女の状態を確認しながら茜の治療した跡に感心していた。


(あたしじゃ肋骨が折れて肺に突き刺さった状態の患者なんて、とても治療することなんかできないな・・・)

その治療した跡から茜がとても頑張っていたことが伝わってきた。


(絶対に・・・あんたの頑張りは無駄にはしないからねっ)

あたしは気合を込めると少女の肺に空いた傷口の治療を始めた。


(あと少し・・・)

あたしは少しずつ塞がっていく傷口をエコロケーションで確認しながら治癒魔法で一心不乱に少女の肺の周りの細胞を活性化させ続けた。


「・・・ふぅ」

あたしは少女の傷口が完全に塞がったのを確認すると安堵の溜息を吐いた。


「何とか塞がったわ・・・んっ」

あたしが安心したのも束の間、少女の唇は薄っすらと紫色に変色し始めていた。


「そんなっ・・・」

なんと少女は何時の間にか呼吸を止めていたのだ。


あたしは肺の傷口に気を取られて彼女が呼吸を止めていたことに全く気が付いていなかった。少女の体力と気力はとっくの昔に尽きていた。

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