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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第四章 冬休み編
24/75

第23話:歓迎

その教会には『天城院¨てんじょういん¨』という名前が刻まれていた。ちなみに彼女の苗字である『天城』は教会の名前が由来であった。


「・・・やっと着きましたね」

僕は長時間の長旅のため、少し疲労感を滲ませた。


一方、遥の方は嬉しそうに瞳を潤ませると頬の筋肉を緩ませて柔らかい表情を浮かべていた。


「懐かしいわね・・・この空気」

「あーーーっ、遥ねえだっ」

僕達が教会の前で立っていると唐突に叫び声が聞こえてきた。


「よっ、潤平。元気だった?」

遥は手を上げると潤平に軽く手を振った。


「遥ちゃんが帰ってきたの?」

潤平の声を聞いた他の孤児院の子供達が一斉に僕達の下へと集まってきた。


「みんな、相変わらず元気そうね。ほら、お土産だよ」

遥は抱えていたお土産を教会の子供達に渡すと教会の扉の方へと足を向けた。


「ねぇ、遥お姉ちゃん、この綺麗なお姉ちゃんはだあれ?」

子供達の1人が遥と一緒にいた僕のことを指差した。


「このお姉ちゃん?このお姉ちゃんはね。あたしの親友よ」

「親友?」

「そう、とても大切なお友達なのよ」

遥は少女に優しく微笑みかけると彼女の頭の上を軽く撫でた。


「へぇ~、遥姉ちゃんよりも余程綺麗なお姉ちゃんじゃないか?」

集まってきた少年の1人は僕のスカートを捲し上げながら中身を覗こうとしていた。


「こらっ、宗太っ。女子のスカート捲るのは止めなさいと何時も言っているでしょっ」

遥は悪さをする宗太の頭を叩こうとしたが、彼はそれよりも早く彼女の手から逃れた。少年と言っても侮れないような身のこなしであった。


「こらっ、待ちなさいっ」

「やだよ~、ここまでおいで~」

宗太は遥のことをからかいながら教会の敷地内を走り回った。


「そっちがその気なら・・・」

遥は脚の筋肉を強化すると一気に宗太との距離を縮めた。


「うああああ」

「捕まえたわよっ」

遥は宗太の上半身を掴むと拳を天高く振り上げた。


「騒々しいわねっ。何を騒いでいるの?」

遥が宗太にお仕置きをしようとした瞬間、教会の中からシスターの格好をした若い女性が顔を覗かせた。


「あら?遥じゃない。戻ってきたの?」

「久しぶりね、瞳」

遥は宗太の上半身から手を離すと瞳に手を振った。


瞳は彼女と同い年で中学卒業後はこの教会でシスター見習いとして務めていた。


「リチャルド神父様はいるかしら?」

「神父様なら・・・」

瞳が遥の質問に答えようとした瞬間、教会の中から神父の黒衣を身に纏った金髪の男性が飛び出してきた。


「おー、ハルカさん、お元気でしたか?」

その神父姿の男性は遥の名前を聞いて急いで彼女の下へとやって来た。そして、彼女の姿を見つけると嬉しそうに飛びついた。


「お久しぶりです、『リチャルド』神父様っ」

遥は嬉しそうに声を弾ませるとリチャルド神父の身体を抱き締め返した。


(この人が遥さんの神父様?)

僕は遠巻きから遥達のことを眺めていた。


「んっ?もしかして・・・あなたがアカネさんですか?」

リチャルド神父は僕と目が合うなり、目を輝かせながらこちらの方へと近付いてきた。


「初めまして、リチャルド神父様。高見澤茜と申します」

僕は手短に自己紹介を済ませるとリチャルド神父にお辞儀をした。


「おー、やっぱり、あなたがアカネさん。こちらこそよろしくお願いします」

リチャルド神父は僕の傍にやって来るといきなり上半身に抱きついてきた。


僕は遥がよく飛びついてくる理由を理解した。それは間違いなくこの神父の影響に違いなかった。


「すっ・・・すみません。ちょっと・・・苦しいです」

僕は身体を離すようにリチャルド神父に身体を離すようにお願いした。


「神父様、茜はそういうのに慣れてないから早く離れてください」

遥は僕に助け舟を出すようにリチャルド神父を宥めた。


「すみません。何時もの癖で・・・」

リチャルド神父は僕から身体を離すと申し訳なさそうに頭を下げた。


「いえ、わかってもらえれば大丈夫ですから・・・」

僕は畏まるリチャルド神父に頭を上げるように促した。


「リチャルド神父様、そんな所でお客様を立ちっぱなしにしてないで中に案内したらどうですか?」

教会の中からさらに新たなシスターが出てきた。


「美弥乃お姉さま、ご無沙汰しております」

遥は美弥乃さんの傍に近づくと頭を下げた。


「遥さんも元気そうで何よりですわ」

美弥乃さんは柔らかな表情を浮かべると遥に優しく微笑みかけた。


(遥さんでもあんな志雄らしい態度を取るんだな・・・)

僕は普段見られない遥の姿を見て少し驚いていた。


「あなたもこちらにいらっしゃい」

美弥乃さんは僕の方に視線を向けると教会の中に入るように手招きした。


「それでは・・・」

僕は美弥乃さんに導かれるまま教会の中へと入っていた。


「げっ、遥が帰ってきたのか・・・」

僕達が教会の中に入るとそこにはまた別の男の子がいた。


「何よっ。そんな嫌そうな顔すんじゃないわよ、慎一」

「嫌そうじゃなくて嫌なんだよ」

慎一は遥に吐き捨てるように言い返した。


「本当に・・・可愛くないやつだなっ」

「お前が乱暴で、がさつで、人の領域にズカズカと入り込んでくるのが悪いんだろ」

僕は慎一の会話を聞いてひたすら首を小さく縦に動かした。彼の意見には僕も同意であった。


「女子高に行って少しは女の子らしくなったのかよ?」

「なんですってっ」

遥は拳を振り上げると慎一に向かって突進しようとした。彼の言うように遥は全然女の子らしくなっていなかった。


「お止めなさいっ、2人ともっ」

遥が慎一に飛びかかろうとした瞬間、美弥乃さんが声を荒げて2人を制止させた。


「遥さん、そうやってすぐに感情を露わにするのはお止めなさい。そんなことだから乱暴者と言われてしまうのです」

「ごめんなさい・・・」

遥は美弥乃さんに叱られると悲しそうに肩を落として自分の非を素直に認めた。


「慎一さんもですよ。年上の女性に対して『お前など』と乱暴な言い方はお止めなさい。もっと年配の方に対する接し方に注意しなさい」

「すみません・・・」

慎一は遥の時と違って美弥乃さんには志雄らしい態度で謝罪した。


2人にとって美弥乃さんは母親のようにとても怖い存在のようであった。


(それにしても・・・やっぱり、遥さんは小さい頃からお転婆だったんだろうな)

僕は慎一の話を聞いてそう確信した。


「遥さん、お客様を客間にご案内して差し上げなさい」

「わかりました」

遥は美弥乃さんに頭を下げると僕の方に振り返った。


「こっちよ、茜」

遥は僕の荷物を持つと客間へと案内した。


「ちょっと狭いかもしれないけど、ここにいる間はこの部屋を自由に使っていいそうよ」

僕は大きなソファの付いた部屋へと案内された。


「それじゃ、あたしは行くわ・・・」

遥は僕の荷物を部屋に置くとその場を立ち去ろうとした。


「どこに行くんですか?」

僕は1人にされることを不安に思って遥のことを慌てて呼び止めた。


「あたしは教会の手伝いがあるから茜はここで待っていて」

「それなら僕も・・・」

「それは駄目っ」

僕が手伝うと言いかけると遥は慌てて僕の台詞を遮った。


「なんで駄目なんですか?」

「それは・・・」

遥は罰が悪そうに言葉を詰まらせた。彼女には何やら隠していることがありそうであった。


「茜には・・・ここでやってほしいことがあるのよ」

遥は何かを思いついたように会話を続けた。


「僕にやってほしいこと?」

「ちょっと待ってて・・・」

遥は一度部屋を出て行くと小さな子供を2人連れて戻ってきた。


「その子達は?」

「この子は望、こっちは遼太」

遥は彼女の後ろに隠れている望達を前に立たせると腰を屈ませた。


「茜にはこの子達の勉強の面倒を見ていてほしいの」

「勉強の面倒をですか?」

「そうよ。望、遼太、あんた達まだ冬休みの宿題が終わってないんでしょ?」

「うん・・・」

遼太は僕から目を逸らすと恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「このお姉ちゃんは頭が良いからとてもわかりやすく教えてくれるわ」

「本当に?」

望は円らな瞳で僕の顔を見つめてきた。


「僕は・・・いい・・・」

遼太は望とは対照的に恥ずかしそうに僕から目を逸らしたままだった。


「駄目よっ。ちゃんと勉強しないとあたしのような立派な人間になれないわよ」

僕は遥の言葉に自らの耳を疑った。


高校までろくに勉強の『べ』の字もやっていなかった人間の言葉とはとても思えなかった。


「別になれなくてもいい・・・」

「つべこべ言わずに言うことを聞きなさいっ」

遥は顔を逸らす遼太の目を見つめると勉強するように言い聞かせた。


「・・・わかった」

遼太は遥に説得されてようやく勉強する気になったようであった。


「じゃ、あとはよろしくね」

遥は望達を預けるとすぐさま部屋を飛び出していった。


「それじゃ、勉強を始めましょうか?」

僕は望達と反対側の位置に座ると彼女達の冬休みの宿題を教え始めた。


「よろしくおねがいします」

「よろしく・・・」

望達は可愛らしく頭を下げると鉛筆を動かし始めた。


(2人とも遥さんと違って真面目だな)

僕はひたすら字を書き続ける望達を見て感心していた。


特に勉強を嫌がっていた遼太は黙々と問題を解き続けていた。


(特に教えることはなさそうだな・・・)

僕は持ってきていた学校の教科書を自分の鞄の中から取り出すと望達と同様に学習を始めた。


僕達が夢中で勉強していると何時の間にやら日が落ちて周辺が薄暗くなっていた。


「みんな、調子はどう?」

僕達が勉強に集中していると夕食の支度を終えた遥が部屋に戻ってきた。


「見て、見て、遥お姉ちゃん」

望は嬉しそうに終わった宿題を遥に見せると無邪気な笑顔を浮かべた。


「偉いわね。ほとんど終わってるんじゃない?」

遥は望の頭に手を置くと彼女の頭を優しく撫でた。


「えへへへ」

「それで遼太の方は?」

遥は遼太の方に視線を向けると宿題の進み具合を確認した。


「終わった・・・」

遼太は暇潰しに読んでいた本を閉じると遥に終わった宿題の束を手渡した。


「偉いわね」

遥は望と同じように遼太の頭も優しく撫でた。


遼太は恥ずかしそうに遥から目を逸らしていた。


「お疲れ様、大変だったでしょ?」

「そんなことはありませんよ。ほとんど手は掛かりませんでしたし、僕もいい息抜きができました」

「そう?それならよかった」

遥は安心したように胸を撫で下ろすと優しく微笑んだ。


「それじゃ、そろそろ夕食の時間だから食堂に案内するわ」

僕達は遥に連れられて教会の食堂へと移動した。そして、食堂の前までやって来ると彼女は一旦足を止めた。


「遥、入りますっ」

遥は扉の前で大声を出すと食堂の扉を少しだけ開いた。


「遼太、望、何時もの席に座りなさい」

「は~い」

遥は望達を先に部屋の中に入れると再び食堂の扉を閉めた。


「ちょっと待っててね・・・」

(何か変わった入り方をするな?これも教会の風習か何かかな?)

僕は遥の不可解な行動に首を傾げながらも彼女の指示に従った。


『郷に入っては郷に従え』である。


「いいわよ。どうぞ入って・・・」

遥は僕を扉の前に立たせると今度は大きく扉を開いた。


「・・・っ」

僕が部屋の中に入った瞬間、部屋中からクラッカーの音が鳴り響いた。


「「「ようこそ天城院教会へっ」」」

僕が突然の出来事で放心していると食堂に集まっていた人達が一斉に歓迎の声を上げた。


「これは一体・・・」

「茜の歓迎会に決まっているじゃない」

遥に言われて部屋の端の方に視線をやるとそこには様々な飾り付けが施されていた。そして、教会の中央の方には僕の名前の書かれた垂れ幕が掲げられていた。


「もしかして・・・遥さんはこれを準備するためにあの子達に勉強を教えるように言ったんですか?」

「そうだけど・・・それがどうかしたの?」

「どうかしたのって・・・」

僕は嬉しさのあまり身体を小刻みに震わせていた。


(まずはお礼を言わなければ・・・)

僕は深呼吸をして心を落ち着けると食卓の方に視線を向けた。


「皆さん・・・私のためにこのような歓迎会を開いて頂き誠にありがとうございますっ」

僕は全力で感謝の言葉を述べると深々とお辞儀をした。


「あなたの気持ちはしっかりと伝わりました。どうかお顔を上げてください。そして、目の前の食事を楽しみましょう」

リチャルド神父は畏まる僕にもっと気楽にするように促した。


「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて頂きます」

僕は顔を上げるとリチャルド神父に言われるまま空いている席に腰掛けた。


「それでは皆様・・・神様に感謝の言葉を捧げましょう」

リチャルド神父は両手を重ね合わせると静かに目を閉じた。


「茜は形だけ揃えてればいいから」

遥は戸惑う僕にウィンクすると静かに目を閉じた。


(とにかく遥さん達と同じように構えればいいんだな・・・)

僕は見様見真似で遥達と同じような行動を取った。


「天にまします我らの父よ・・・。願わくは御名を崇めさせたまえ。御国を来たらせたまえ。御心の天になる如く地にもなさせたまえ。我らの日用の糧を今日も与えたまえ・・・」

僕はリチャルド神父の口上を聞きながら静かに心を落ち着けた。


「我らに罪を犯す者を我らが許す如く我らの罪をも許したまえ。我らをこころみにあわせず悪より救いだしたまえ。国と力と栄えとは限りなく汝のものなればなり・・・」

「「「アーメン」」」

遥達はリチャルド神父が口上を述べ終わるとほぼ同時に神への祈りを捧げた。


「皆様、お疲れ様でした。それでは食事にいたしましょう」

リチャルド神父は満面の笑みを浮かべると全員に食事をするように促した。


「「「頂きますっ」」」

リチャルド神父の合図と共に孤児院の子供達は一斉にスプーンやフォークを手に取ってご飯を食べ始めた。


「・・・頂きます」

周りの子供達を見習って僕はスプーンを手に取ると静かに口の中へと料理を運んだ。


「これは・・・美味しい・・・」

僕は初めて口にする料理に驚きの表情を浮かべた。


見た感じはビーフシーチュに似た感じなのだが、味はコンソメスープのような野菜の旨味を溶かしたような感じであった。そして、その料理はとても懐かしいような味もした。


「でしょっ」

遥は嬉しそうに顔を近づけてきた。


「ハルカさん、はしたないですよ。食事中は席を立ってはいけません」

「すみません・・・」

遥は厳格そうな修道女に怒られると借りてきた猫のように大人しく自分の席に戻った。


(孤児院と言っても躾は厳しいんだな・・・)

僕は普段では見られない謙虚な遥の姿を見て、彼女が常日頃からこの修道女に色々と怒られてきたことが容易に想像できた。


「ご馳走様でした・・・」

僕は教会で用意された料理を堪能すると静かに手を合わせた。


「遥さん、この料理って?」

「これはボルシチとピロシキね。ロシアでは一般家庭の郷土料理よ」

遥は得意気に今日の料理について語った。


どうやらリチャルド神父達はロシアから来た人のようであった。


「さて、ご飯も済んだことだし・・・」

遥は両手を合わせるとリチャルド神父の方へと足を向かわせた。


「それじゃ、自己紹介を始めるわね」

遥はリチャルド神父の後ろに立つと神父の肩に手を置いた。


「まずは・・・この教会の神父様であられされるリチャルド神父」

遥は言い慣れない単語に舌を噛みながらリチャルド神父を紹介した。


「何時もハルカさんがお世話になっております。あなたのことはハルカさんから色々と聞いています。この教会にいる間は自分の家のように寛いでいってください」

リチャルド神父は満面の笑みを浮かべると両手を大きく広げた。


「ありがとうございます」

僕はリチャルド神父に感謝の意を述べた。


「次は修道女の『イザベル』さんね」

遥はリチャルド神父の横にいるイザベルさんの方へと移動した。


「初めましてアカネさん。ハルカさんが色々とご迷惑を掛けていると思いますが、これからも良いお付き合いをお願いしますね」

イザベルさんはリチャルド神父とは対照的に静かな微笑を浮かべた。


「こちらこそ、色々とお世話になっています」

僕もイザベルさんに対して静かに頭を下げた。


「次は新しく修道女になられた『美弥乃¨みやの¨』のお姉さま」

遥はイザベルさんの反対側に移動すると美弥乃さんを紹介してくれた。


「よろしくね、茜さん」

美弥乃さんは静かに席を立ち上がると丁寧にお辞儀をした。


「よろしくお願いします」

「それから修道女見習いの『瞳¨ひとみ¨』」

「何時も遥が世話になっているわね」

瞳は明るい笑顔を浮かべると片目を閉じてウィンクした。


「次は『綾音¨あやね¨』、こっちが『薺¨なずな¨』」

遥は綾音と薺の間に立つとそれぞれを紹介した。


「初めまして・・・」

「よろしくお願いします」

綾音は丁寧に、薺は明るく挨拶してきた。


「それからこっちのちっこいのが『小春¨こはる¨』、一番小さいのは『望¨のぞみ¨』よ」

遥は小春と望の頭に手を置くと優しく撫でた。


「それから向こうに座っている男達は・・・イザベルさんの横から『桂斗¨けいと¨』、『慎一¨しんいち¨』、『潤平¨じゅんぺい¨』、『拓海¨たくみ¨』、『宗太¨そうた¨』、『遼太¨りょうた¨』よ」

遥は女子達を紹介した時とは違って大雑把に男子達を紹介した。


「なんだよ。随分手を抜くなぁ・・・」

「所詮は遥だからな・・・」

「もっとちゃんと紹介してくれよ」

男子達は口々に遥に不満を述べた。


「あんた達の紹介なんてこんなもんで充分よっ」

遥は鼻息を荒げるとぶっきら棒に男子達の声を一蹴した。


「はぁ・・・」

「ちぇっ」

「やれやれ遥くんにも困ったものだ・・・」

男子達は残念そうに落胆する者、全く動じない者、遥に腹を立てる者、呆れ返る者と様々な反応を見せたが、彼女に文句を言い返す者はいなかった。


どうやらこの教会では女性陣の方が立場が強いようであった。


「自己紹介はこんなものね」

遥は自分の席に戻ると静かに椅子に腰掛けた。


「みなさん・・・短い間になりますが、よろしくお願いします」

僕は全員に向かって大きく頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

リチャルド神父は満面の笑みで同じように頭を下げた。


「それでは話も落ち着いたところで・・・そろそろ食事をお開きとしましょう」

リチャルド神父は静かに手を合わせると目を閉じた。


それを皮切りに教会の人達も次々と目を閉じ始めた。そして、僕も周りを見習って同じように目を閉じた。


「・・・ご馳走様でした」

「「「ご馳走様でした」」」

教会の人達は食事の挨拶を済ませるとすぐに後片付けを開始した。


「私も何か・・・」

僕は集団生活というものに慣れていなかったため、自分が何をすべきかを理解していなかった。


「茜は部屋に戻って寛いでいて。後片付けならあたし達でやるから」

「だけど・・・」

「大丈夫。少しずつ覚えていけばいいだけの話よ。バイトの時のようにね」

遥は可愛らしく片目をウィンクさせるとお皿を持って台所へと移動していった。


(僕は一体どうすれば・・・)

僕は遥にほったらかしにされて戸惑っていた。


「どうかなさいましたか?」

僕が呆然と立っているとリチャルド神父が話し掛けてきた。


「いえ、こういう生活に慣れてなくて・・・」

「なるほど・・・であれば、私の部屋でお喋りなどどうですか?」

リチャルド神父は僕に気を遣って話をすることを提案してくれた。


(これは・・・一隅のチャンスかも)

僕もリチャルド神父には色々と聞いてみたいことがあったため、神父の申し出はとてもありがたいものであった。


「喜んでお願いします」

僕達はリチャルド神父の部屋へと移動した。

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