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魔法使いになるっ!  作者: 東メイト
第四章 冬休み編
23/75

第22話:帰郷

無事に魔道競技祭を終えて僕達は2学期の期末試験を迎えていた。


「いよいよ・・・明日から始まるのね」

遥は神妙な面持ちで教科書と睨みあっていた。

今回の目標の点数は平均点60点以上であった。


「大丈夫ですよ。今の遥さんならば、充分に越えられます」

僕は不安そうな遥の背中を後押しした。


「本当にそう思う?」

「ええ、今までに試した模擬テストでも何科目かは70点台を取っているじゃないですか」

僕は遥のために用意した期末テスト対策用の模擬テストを机から取り出して彼女に見せた。


「自信を持ってください」

僕は温かい眼差しで遥を見つめた。


「色々と・・・ありがとうね」

遥は照れ臭そうに僕から目を伏せると微かに頬を朱色に染めた。


「それでは明日に備えてそろそろ寝ましょう」

僕は遥が根を詰めて明日のテストに差し支えないように早めに寝ることを提案した。


「そうね・・・」

遥は徐に机から立ち上がると素直にベッドの上に寝転がった。


「・・・おやすみなさい」

「あしたからのテスト頑張りましょうね」

「わかっているわ」

遥は部屋の電気を消すと静かに目を閉じた。


(きっと・・・遥さんなら・・・)

僕は自分のことよりも遥のことを心配しながら僕も目を静かに閉じた。そして、次の日の朝、僕は何時もと同じように目を覚ました。


「・・・おはよう」

何時もと違ったのは遥が既に目を覚ましていたことであった。


「・・・おはようございます」

僕は覚醒する意識の中、遥に挨拶を返した。


「珍しいですね。僕よりも早く起きているなんて」

「まぁ、こんな時くらい、緊張で目が覚めたりもするもんよ」

遥は本日から行われる期末試験のことで緊張していた。


「ちょっとこっちへ来てくれませんか?」

「何?」

遥は僕に呼ばれるまま僕の方へと近付いてきた。


「ていっ」

僕は遥の後ろに回りこむと彼女の肩を力一杯揉み解した。


「ひゃいっ」

遥は突然の出来事に思わず驚きの声を漏らした。


「いきなり何すんのよっ」

遥は目を吊り上げると僕の方へと振り返った。


「もっと肩の力を抜いてください。今からそんなに気張っていてはテストで持ちませんよ」

僕は何時もの遥に戻るようにアドバイスした。


「もうっ・・・なんか一気に力が抜けた気がするわ」

遥は呆れた表情を浮かべると微かに口許を緩めた。


「それでいいんですよ。何時も通りのコンディションで頑張りましょう」

僕は片目を閉じると遥にウィンクをした。


「早く朝ご飯を食べに行こう」

遥は僕の手を掴むと部屋の外に向かって走り出した。


「ちょっ・・・ちょっと待って・・・」

僕は下着姿のまま部屋の外に飛び出すわけには行かなかったため、遥を制止させた。そして、手早く身支度を整えると彼女と共に食堂へと向かった。


こうして僕達の長いテストの1日が始まろうとしていた。


「それでは・・・テストを開始してください」

弥生先生は授業の開始と共にテストの開始を告げた。


(よしっ、やるぞっ)

僕はテストを表に返すと問題に目を通した。


(バッチリ読み通りだ・・・)

僕は自分の予想した箇所とテストに出ている問題の箇所が重なっていたため、小さくガッツポーズを浮かべた。


(これなら遥さんにも解けるはずだ・・・)

僕は弥生先生にばれないように遥の方に視線を向けた。


遥は脇目も振らず凄い勢いでシャーペンを動かしていた。


(良い感じにシャーペンが走っているみたいだな・・・)

僕は遥の様子を確認して胸を撫で下ろした。そして、目の前のテストに意識を集中させると僕自身もシャーペンを走らせた。


今回の期末テストでは数学、英語、国語、社会の他に理科が生物、物理の2つに分かれており、さらに倫理や道徳、保健体育などの科目も追加されている。魔法を身に付けると共に学習の教養度も高くなっていた。


以上の9科目の試験が3日間に分けて行われる。



「どうでした?」

僕は1日目のテストが終了すると同時にテストの出来具合について訊ねた。


「まずは上々ってところね。茜のくれたテスト対策用の問題のおかげで何とか問題を解くことができたわ」

遥は自信あり気な様子で口許を緩めた。


「それは良かったです。この調子で残り2日間も乗り切りましょうね」

「もちろんよっ」

遥は親指を立てると口を半開きにして歯を輝かせた。彼女の気合は充分のようであった。


(これなら今回のテストも何とかなるかもしれない・・・)

僕は自信満々な遥の様子を見ながら自分も彼女のやる気に負けないように気合を込めた。そして、あっという間にテスト期間を終えてテストの結果発表日を迎えた。


「いよいよ結果発表ですね・・・」

僕は固唾を飲みながら掲示板に張り出される結果を見守っていた。


今回のテストの出来はかなり良く今まで以上に自信があったため、結果が張り出されるのが楽しみであった。


(もしかしたら、麗奈さんを抜いてしまっているかもしれない)

僕はそんな妄想に駆られながら口許をだらしなく緩めていた。


「そこの生徒達、道を開けなさい」

僕達が掲示板の前で待っているとテストの順位の結果を持った先生がやって来た。そして、掲示板の右端にテスト結果の端を画鋲で留めるとゆっくりと紙を開いていった。


(どうだ?)

僕は期待に満ちた眼差しでテスト結果を見つめていたが、学年1位の座はやはり麗奈の名前が神々しく書かれていた。


(やっぱ駄目か・・・。さすがは麗奈さんだな)

僕が麗奈の名前を見つめながら肩の力を抜いているとその隣にはなんと自分の名前が書かれていた。


何とも嬉しいような悲しいような複雑な心境であった。できることならば1位を取りたかったが、2位でも充分に自己ベストを更新していたからである。


(う~ん・・・)

僕が素直に喜ぶべきかを悩んでいるとテスト結果の最後に書かれている人物の名前を見て度肝を抜かれた。


そこにはなんと・・・『天城遥』の名前が書かれていた。


「嘘っ」

僕は驚きの声を漏らすと大きく目を見開いた。そして、自らの目を疑った。


まさか学年最下位だったあの遥が学年30位以内に入っていようとは思っていなかったためである。彼女自身もそう思っていたからこそ、この場には来ていなかった。


(早く教えてあげなければ・・・)

僕は再度遥の名前を確認すると彼女のいる教室へ急いで向かった。


「遥さんっ」

「どうしたのよ?そんなに慌てて・・・」

遥は血相を変えてやってきた僕に驚いたように目を丸くさせていた。


「・・・テストの結果はもう見ましたか?」

僕は呼吸を整えると遥にテスト結果のことを訊ねた。


「別に見てないわよ。どうせ、あたしには関係ないことだから・・・」

遥は興味なさ気に手を横に振った。


(やっぱり、まだ知らないみたいだな・・・)

もし遥があの結果を見ていたならば、こうまで落ち着いてはいないだろう。


「遥さん・・・落ち着いて聞いてくださいね」

僕は遥が慌てないように前以て注意を促した。


「一体何なのよ・・・」

「テストの結果に・・・遥さんの名前が掲載されていましたよ」

「・・・ふぇっ」

遥は目を点にさせるとアヒルの口のように半開きにした。


「・・・もう一度言ってくれる?」

遥は自分の名前がテスト結果に載っていることがいまいち信じられないようであった。


「遥さんの名前がテスト結果に掲載されて・・・」

「本当にっ」

遥は僕が言い終える前に席を立ち上がると慌てて掲示板へと向かった。


「まっ・・・待ってくださいっ」

僕は慌てて走り去る遥の後を追いかけた。


「本当に・・・本当に載ってる・・・」

遥は呆然とした様子で掲示板を眺めていた。


「だから言ったでしょ?」

「や・・・やったあああ」

遥は子供のように無邪気にはしゃぐと僕に飛びついてきた。


「ちょっ・・・ちょっと・・・遥さんっ」

僕は遥の豊満な胸を押し付けられて思わず顔を赤面させた。

正直、周囲からの視線も痛かったため、すぐにでも止めてほしかった。


「遥さん・・・そろそろ・・・や・・・めて」

「あれれ?ごめんなさい」

遥は我に返るとようやく僕のことを手離した。


「ついつい嬉しすぎてはしゃいでしまっていたわ」

「嬉しいのはわかりますが・・・」

僕は乱れた制服を元に戻すと安堵の溜息を漏らした。


「何はともあれ・・・おめでとうございます」

僕は遥の瞳を見つめると優しく微笑みかけた。


「ありがとう・・・全部・・・全部っ、茜のおかげだわっ」

遥は感極まり再び僕に抱きつこうとしたが、僕は素早く彼女から距離を取った。

そう何度も抱きつかれていてはこちらの身が持たなかった。


「・・・そうだったわね。抱きつくのはNGなのよね。ごめんなさい」

遥は苦笑いを浮かべながら僕に頭を下げた。


「わかってくれればいいです」

僕は再び遥の傍へと近づいた。


「これで安心して年が越せますね」

「そうね・・・」

遥は僕の顔を見つめると優しく微笑んだ。


「そろそろ授業が始まります。教室に戻りましょう」

僕は遥の微笑みに頬を朱色に染めながら教室へと足を向けた。


「何か顔が赤くない?」

遥は僕のことをからかうように顔が赤いことを指摘した。


「きっ、気のせいですよ」

僕は足を動かす速度を上げながら急いで教室へと向かった。そして、何時ものように学校の授業に臨んだ。


「ねぇ、茜は冬休みの予定は決まっている?」

その日の夕方、遥は寮の自室に戻るなり僕に冬休みの予定について確認してきた。


「そうですね・・・。特に決まっていませんよ。とりあえず、年明けは自宅で過ごそうかと考えているくらいです」

今回の休みは遥に付き合って勉強の面倒を見る必要がなかったため、これと言ってやるべきことは決まっていなかった。


「そう・・・まだ予定は決まっていないのね」

遥は僕の予定がないことを確認すると嬉しそうに声を弾ませた。


「それなら・・・あたしの実家に来ない?」

「遥さんの実家にですか?」

遥の実家というのは彼女が育った旭川にある孤児院の施設のことである。

彼女は小さい頃に両親に捨てられてその教会に身を寄せていた。


「駄目かしら?」

僕が悩んでいると遥は不安そうな眼差しで僕の顔を見つめてきた。


「僕なんかが遥さんの実家にお邪魔して迷惑じゃありませんか?」

僕は遥の実家である教会に迷惑を掛けることを心配していた。


「僕なんかっなんて言うのは止めてっ。あたしは茜だから誘ってるのよっ」

遥は頬を膨らませながら語気を荒げると恥ずかしそうに僕から目を逸らした。


「・・・すみません。本当にお邪魔しても構わないんですか?」

僕は遥に謝罪すると改めて彼女の実家に邪魔しても問題ないかを訊ねた。


「ええ、もちろんよ。茜には何時もお世話になっているし、それに・・・茜のことを神父様に話をしたら神父様もあんたに会いたいと言い出しちゃってね」

「神父様が?」

「そう。あたしのことを助けてくれた恩人ならば『是非とも』ってね。それにこの前、教会に寄付をしてもらったし、そのお礼もしたいそうよ」


それは今年の夏休みのこと。


僕は遥と共に初めてのバイトを体験していた。そして、その稼いだお金を彼女の教会のために寄付した。


(神父様か・・・)

僕も遥の神父には是非とも会ってみたいと思っていた。


神父は男性なのに魔法を使うことができたという人物である。なれば、個人的に色々と話を聞いてみたかった。


「わかりました。それでは冬休みになったらお世話になりますね」

こうして僕は冬休みの年越し前に遥と一緒に彼女の育った孤児院で過ごすこととなった。


「・・・随分と買い込みましたね」

僕は腕一杯にお土産の袋を抱える遥を見ながら呆れた表情を浮かべた。


「まあね。孤児院にはたくさんの子供がいるからこれくらい買わないと全く足りないのよね」

遥は航空機の上部にある棚にお土産を詰め込みながら豊満な胸を上下に揺らした。


(目のやり場に困るな・・・)

僕はなるべく遥の胸を意識しないように視線を逸らした。


「それにしても・・・よくそんなにお土産を買うお金がありましたね」

遥は基本的にお金を持っていないため、そんなに多くのお土産を買うことができないはずであった。


「学校から支給されているお金の一部をちょっと拝借したのよ」

遥は明るい表情でとんでもないことを口にした。


「それって・・・横領じゃ・・・」

「別にいいでしょ?どうせ教会に支給されている金なんだから少しくらい前借したって、それくらいしないと教会にも戻れないし・・・」

遥の貧乏は深刻で自力では飛行機代を払うこともままならなかった。そのため、彼女は冬休みになる前に藤白波高校から寄付の一部を前以て預かっていた。


「そんなにお金に困っているなら言ってくださいよ。それくらいのお金なら貸しますから・・・」

「茜ならきっとそう言うと思ってた。だから・・・話したくなかったのよ」

遥は眉を吊り下げると悲しそうな表情を浮かべた。


「どうしてですか?」

「あたしは同情されたくないって言ったでしょ。特に心を許せる相手にはね・・・」

僕という存在は遥にとってそれだけ大きな存在となっているようであった。


「・・・わかりました。遥さんがそう言うなら安易には同情しません。ただ・・・どうしてもお金に困った時は何時でも相談してください。遥さんが悩んでいる姿は見たくありませんから」

僕は遥の手を取ると強く握り締めた。


「馬鹿・・・」

遥は顔を真っ赤にさせると恥ずかしそうに僕から顔を叛けた。


「どうかしましたか?」

「別になんでもないわよっ」

遥はさらに顔を赤くさせると焦ったように語気を荒げた。


「でも・・・ありがとうね」

遥は付け加えるように微かな声で感謝の言葉を呟いた。


「そろそろ飛行機が出発しますね」

航空機を運転しているのは重力魔法を使える女性の操縦士であった。有事の際にもしっかりと対応するためである。


飛行機のトラブルでエンジンが止まってしまっても重力魔法が使える操縦士がいれば問題なく飛行を続けることができる。


あとはコストの面でも役に立っている。重量を減らすことで燃料や飛行機の機材を安くすることができるからである。


「この出発する瞬間が堪らないわよね」

遥は興奮気味に子供のように瞳を輝かせた。


操縦士は飛行機を発進させる際、重力魔法を使って飛行機全体の重量を軽くさせる。その際に乗客は一瞬だけ身体が宙に浮く遊園地の遊具に乗っているかの如く感覚に見舞われる。


彼女はそれが堪らなく好きであった。


「何時かは・・・この感覚を自分の手で起こしてみせるっ」

遥はスカイレーサーになることを目指しているため、何時か自分の手で空を自由に飛びまわることを夢見ていた。


「遥さんならすぐにできるようになりますよ」

僕はやる気に満ちている遥を応援した。


こうして僕達は数時間掛けて飛行機からバスを乗り継いで遥の実家である教会へとやって来た。

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