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俺様の巨乳  作者: 閑カナ
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 事も無げにイズは答えた。


「金だよ。世の中には毛皮のためならいくら出してもいいって金持ちがいくらでもいるんだ」

 あっけらかんとした答えにエリはぽかんとした。やっぱり、ファルカやカナリアとはまったく違うのだ。

「イズさんは、あの…虎の力のこと信じないんですか?」

「うん。おれは長雨にあったわけじゃない。カマツに住んでたんだ。だからどうも虎のありがたみなんかわからないんだよ…だいたいダスマンでもないのにそんなこと出来てたまるかって」

「ダスマン?」


 そう口にしたとき、なにか違和感を覚えた。なんだろう…?


 眉をひそめるエリの表情にイズが首を傾げる。

「ダスマン。神様だよ、エリ、ほんとどこから来たんだ?」


 その言葉にエリの目が大きく開かれる。


「神さま…神さまがいるの?でも、じゃあ、虎はその神さまの使いなの?」

 思わず身を乗り出してエリが聞いた。


 神さま…いるんだ!

 その神さまなら、エリを帰すことが出来るに違いない。希望で体が浮き上がるような感覚を覚えた。


 黙ってしまったふたりの間に、青が作る食事の匂いが漂い始めた。イズはいぶかしさを露にエリを注視する。でもそんなことは気にならない。なんとかして神さまに会えれば、祈りが届けば帰れるかもしれない。頬を手ではさみ思わず弛む顔を隠す。

(神さまってどこにいるんだろう?天国とか…?神殿に行けば手だてが見つかるかもしれない。……そういえばファルカが神官なんだっけ?ん?…神殿なんてあるのかな?)



 ぱっと輝いたエリの顔が、みるみる暗くなっていく。

 混乱してきた。虎と神さまは別の信仰?そしたらその神さまはただの信仰上の存在で虎みたいな力がないの?

 しばらくそんなエリの様子を見ていたイズだが、ようやく焦れたように口を開いた。


「なあ。エリ。もう聞いていいか?お前、どこから来たの?」


 その静かな声が、エリを現実に引き戻す。ゆっくりと目を上げた。その視線がイズの真剣な眼差しと出会う。エリの瞳が戸惑った。


 嘘を、つくべきだろうか。

 金目当てに虎を狙う、イズ。しかし狩人たちとは仲がよさそうだった。もし、イズがどうしても虎を狙うなら、わたしを人質に毛皮を要求するだろう。そうなったとき狩人はどうするだろうか。イズは、カナリアと真剣に敵対する行動にでるだろうか。


 なにか焼く音がキッチンから届き、沈黙を埋める。


(ずるいかな、わたし)

 逃げ出したくせに、狩人に頼っている。それでも頼らせてもらおう。虎が傷つけられるのはいやだ。わたしをこんな目にあわせた張本人だけど、あの虎が傷つけられるのは耐えられない、と感じた。どうしてだか全然わからないけど。でもわたしは帰れるならなんだってする。そのせいで虎が害されるなら、それは狩人に防いでもらうしかない。そう、彼らも言っていた、それが彼らの仕事だって。

 そうしてエリは、どこから来たのかを話し始めた。



 と言っても短い話だ。

 青が料理を並べるころにはすっかり話してしまっていた。おいしそうな、肉のたっぷり入った炒めものがテーブルにどんと置かれる。

 イズは一言も口を挟まず、ただ目を驚きに見開いていた。話が聞こえていたはずの青は無表情で、料理を運んだ後は元の位置に戻っていった。そしてひざを抱えて目を閉じてしまう。温かな料理をはさんで二人は無言。エリが口を開いた。


「…食べても?」

「おっ、ああ…いいぞ。たんとお食べ。……それにしても…異世界かぁ。予想外だな。大変なとこから来たもんだなぁエリ。まさか虎の野郎が誘拐犯とはね…」

「信じるの?」


 ちょっと驚いてエリが聞く。

 自信満々にイズが言った。

「エリの言うことなら信じるさ。それにしても、そうだなあ、それならエリを帰してしまったらもう会えないってことじゃないのか!?それは困るなー。なあエリ、必ず幸せにするからこっちで暮らさないか?」


 エリはすこし息をのんだ。プロポーズじゃん!

 しかしすぐに呆れた顔になる。軽々しくそういうことを言うやつは信じられない。しかも出会った当日に。半目で見やると、イズが返事を促すように顔を傾けエリの瞳を覗きこんだ。

 エリは深々と頭を下げる。

「ごめんなさい」


「まあまあ、そんな即決することでもないから!考えてくれてたらいいよ。つってもエリが帰るの邪魔するつもりもないからな!おれたちみんなで協力するさ」


 イズは大様に笑う。

(ほんと、悪い人ではないんだな)

 軽口をきいて、相手の気をほぐし強いて物事を押し付けたりしない。それにエリのことをきちんと考えてくれているようだった。

 エリはなんだか安心した。そう、仮にも親分と呼ばれている人なのだ、頼り甲斐はある。それに、

(お兄ちゃんみたい)

 歳の離れた弟しかいないエリにとって、憧れの存在は兄だ。多少のくさい台詞がうっとおしいが兄と思えば我慢もできた。

「ありがとう」

 自然と笑みをむけることができるとイズも笑顔を返す。それが嬉しかったのか、ご機嫌でイズが話しかけた。


「それじゃあ、異世界ってのについて調べてみよう。なあエリ、異世界ってどんなとこなんだ?」

「…どんな?…えーと…」


 この世界との違い。まずは、魔法。それから家やビルがいっぱい建っていて人が多い。200くらい国があってわたしはその中の日本という国に住んでいて、それは地球という星に存在してその地球は太陽系の第三惑星でその太陽系は銀河の端のほうにあってどんどん宇宙は膨張しているとか…。

(ってわたしはなに言ってんだ)


 そもそも異世界ってなんだ、とエリは考える。別の星?別の宇宙?


「…まあ、そんなかんじのがわたしの住んでた世界なんですけど。わかる……伝わります?」

 ふんふんと真剣な顔をして聞いていたイズはこっくりとうなずいた。

「わかんねえ」

 …うん。まあ、予想していた通りだが。イズはふんわり笑ってこう言った。


「この世界のことはどれくらい知ってるんだ?どうせ庭から出してはもらえなかったんだろ?」

「はい…」

「よっしゃ!じゃあ飯食ったら図書館に行こう!青、留守頼んだぞ!」

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