第一話 不登校の子
「よし、今日もやるぞ!」
そう意気込んで、わたしは朝早くから黒板を綺麗にする。
そして、クリーナーにかけ、黒板をピッカピカにさせる。
「うん。やっぱり、学校だとやることがあって落ち着くなぁ」
時間がなくて自分のクラスしかできないけれど、それでも人のためになっているから良しとしよう。
誰もやろうとしなくて、自分ができる。
そんなときは、自分でやるべきだ。
なんて、偉そうに言える立場ではないけれど、そういう思想があるから、わたしは人を助ける。
そんなこんなで、今日も一日を終えた。
「さようなら」という挨拶を返して、いつもどおり帰宅する。
すると、ベージュでロングウルフの紫色のパーカーを着た子がコンビニから出てくる。
目が髪で隠れていて、わたしは確信する。
「宙ちゃん?」
「あ? あー、優か。おめー、まだクソ真面目に生きてんのか?」
「うん」
「…………あー、ウチ来るか?」
気まずそうにそういう宙ちゃんに、わたしは喜んで返事をする。
「うん! 行きたい!!」
「そうか。あたしから離れるなよ?」
「うん、わかった!」
いやー、宙ちゃんは相変わらず優しいなぁ。
宙ちゃんとは、宙ちゃんだ。
簡単に言えば、わたしのライバルで、仲のいい友達がいなかったわたしの唯一の友達。
というか、わたしの大切な親友だ。
歩いていると、宙ちゃんは気まずそうに話しかけてくる。
「あたしが不登校を始めて三ヶ月くらい経つけど、そっちはどうだ?」
「うーん、普通かな。相変わらず、わたしに友達はいないよ?」
「そっか。あたしも、おめーがいねーと調子狂うからさ……」
「そっか! わたしは宙ちゃん好きだよ? ゲーム上手いところが好き! お目目が実はぱっちりしてるところも好き! 面白いから好き! それから……」
「や、やめろ……。やっぱ、おめーがいても調子狂うわ」
「すぐ照れるところも好きだよ?」
「いいから黙れ……」
「ご、ごめん……。気を悪くさせた? もう好きって言わないから……」
「いや、大げさすぎだろ。ちょっと久しぶりに喰らっただけだから」
「な、なにを?」
わたしがキョトンとしていると、宙ちゃんが口を開く。
「あ、あたしもおめーのことは、好……嫌いじゃねーぞ?」
「うん! わたしも好きだよ?」
「そういうとこだぞ」
「…………なにが? あ、おウチ着いたよ?」
「はぁ……おめーは相変わらず疲れるやつだ」
「おじゃましまーす!」
「聞けよ」
そう言って入ろうとドアノブを回すが、開かない。
「宙ちゃん! このドアノブ、壊れてるよ!?」
「壊れてるのはおめーの頭だ。相変わらずあたしの前だとポンコツだな。鍵開けるからどけ」
「あ、そっか。それなら早く言ってよ。わたしがバカみたいじゃん」
「いや、実際バカだろ」
「でも、宙ちゃんに負けたことないよ? 毎回学年一位だもん」
「…………じゃ、上がってけ」
「うん」
スルーされた……。
それから、宙ちゃんの部屋に行くために、二階に上がる。
部屋の中はきっちりと整理整頓されていて、ベッドと平行になるようにテレビが置かれてあった。
「へー、相変わらず綺麗だね!」
「……相変わらずって、おめーを呼んだこと、あったっけか?」
「宙ちゃんのことだよ?」
「は!!?」
「なーんて、冗談冗談。でも、宙ちゃんが可愛いのは本当……って、うずくまってどうかした?」
「おめー、それ他のやつに言うなよ?」
「いや……言いたくても、わたし友達いないから……」
「……なら安心か」
「……なにが?」
わたしが頭に疑問符を浮かべていると、黒いゲーム機の一部が光る。
「わっ!?」
「よし、FPSでもやるか!」
「……やるか!」
「おめーは見てろ。機械オンチだから」
「はーい……」
「前にあたしの愛用のコントローラー壊したよな? 忘れてねーからな?」
「あれは学校に関係ないから、握ったら、勝手にバラバラに砕けただけだよ?」
「……おめー、ホントに女子なんだよな?」
「うん。大体、女の子の握力じゃ壊れないでしょ。握力じゃなくて、てこの原理で……」
「がっつり壊しにいってんじゃねーか!」
「いいじゃん。確かあの頃だったよね! 友達になったのって」
「…………だな」
なんか気まずそうだなぁ。
べつに、不登校だからって、宙ちゃんが気にすることじゃないのに。
「よし、ベッドに来い」
「うん」
こうして、ベッドにいる宙ちゃんの横に座る。
「ここ、テレビ見やすいね!」
「だろ?」
キャラクターが撃たれると、画面が真っ赤に染まる。
それに驚いて、つい宙ちゃんに抱きついた。
「ぎゃあああああ!! 画面が真っ赤に!?」
「うるせーよ! 一発しか被弾してねーのに、ギャーギャー騒ぐな!」
「でも、もし痛覚連動システムとかあったら……」
「そういうのあったら販売できねーだろ! わかったら離せよな」
「怖いから抱きついててもいい?」
「…………操作の邪魔はすんなよ?」
その後も、何度か危ない場面はあれど、なんとか一位になったようだ。
正直よくわからないけれど。
「……よかったね」
「お、おう。離せよ……いや、離さなくてもいいっちゃいいけ……ど……」
「暑いから離すね! ……って、なんか言った?」
「なんでもねーよ!!」
「なんで怒るの!? 一位取ったんだよ!?」
「うるせー。それよりおめー、相変わらずゲームしてねーの?」
「うん。中学入ってから捨てられたから」
「スマホゲーは?」
「勉強に集中するために入れてない……」
「そうか……」
「でも、宙ちゃんのやってるところを見る方が好きだから、楽しいよ?」
「そうか」
「いや、宙ちゃんが一緒だから楽しいのかな? 検証のために、他の人とも試して……」
「余計なことすんな。あたしはお前のことは、好……嫌いじゃねーけど、他人にかまってるとイヤなんだよ」
「独占欲?」
「ああ」
ふーん……。
「なら仕方ないか。わたしも宙ちゃん以外とは、あんまり関わりたくないからなぁ」
「そ、そうか」
「だって、勉強してるとき、宿題終わっても予習しようとしないから……」
「それが普通なんだけどな。あたしもずっと前に初めて気づいたけど」
「だから、宙ちゃんが一番だよ?」
「ああ。あたしも、おめーがダチだ」
「なんか、照れくさいね……」
「お、おう」
わたしが照れていると、宙ちゃんが言った。
「やっぱりおめーと一緒だと退屈しねーな」
「わたしも!」
「学校、たまには行こうかな」
「わたしも!」
「いや、優は普通に登校してるだろ」
「…………え?」
「してるんだよな? そんな感じで不登校とかやめてくれよ?」
「冗談だよ! 名前を呼んでくれたから、意地悪しただけ!」
「だよなぁ……」
「曜日ごととかどう?」
「……考えとく」
「火・木・土とかは?」
「あたしだけ土曜に行ってるじゃねーか」
「わたしも行くよ? 親友を一人にさせたくないからね!」
「そ、そうか……ならいっか」
「いや冗談だよ? 月・水・金だよね普通は?」
「……なんだ、冗談か」
うーん、宙ちゃんって、相変わらず変な子だなぁ。
他の子にはツンケンしてるのに、わたしには優しいし。
「なんにせよ、わたしは宙ちゃん大好きだから、心配しないでね」
「あ、あたしも好きだ……」
「…………そっか」
あの宙ちゃんが素直に好きと言うなんて……!
「明日は雪が降るかもね!」
「なんでだよ!」
「冗談だってば。好きって言ってくれてありがとね」
「おう。あと、照れるから蒸し返すな」
「うん。照れてる宙ちゃんは可愛いけど、わたしが独占したいから、わかった!」
「じゃ、じゃあな」
「うん。できれば明日、学校で。それか、明日もまた遊びに来るよ」
「おう」
こうして、宙ちゃんと分かれるわたし。
「やっぱり、親友と一緒だと楽しいな」
そう思いながら、わたしは帰路につくのだった。




