表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/20

第9話 神聖教会の動揺


エルデ・ガディール神聖教会の総本山――『聖域サンクチュアリ』。


その最奥に位置する教皇の間は、荘厳な静寂に支配されていた。

壁一面を覆う巨大なステンドグラスが、外界の光を神々しい色彩に変え、大理石の床に複雑な模様を描き出している。


この部屋の主、教皇グランディス・アルベルトは、玉座から降り、部屋の中央に浮かぶ巨大な水晶を見つめていた。


神力観測儀『天の御座アマノミザ』。


世界の女神システムのリソースの流れを可視化する、教皇のみに許された至宝。

その水晶の表面には世界の広大な地図が映し出され、無数の光の線が脈打つように流れていた。


しかし今、その地図の辺境――鬱蒼とした森が広がる一点が。


ピコン、ピコン、ピコン。


ありえないほどの輝度で、危険を示す赤色に激しく点滅を繰り返していた。


「……」


グランディスは、その皺深い顔を険しく歪める。


「登録なき、神の御業に匹敵するほどの魔力反応……。しかも、このリソースの乱高下は、まるで神の寵愛を一身に受けたかのようだ」


システムの安定性が、根本から揺らいでおる。

一体、何が起きた……?


その呟きは、静謐な空間に不気味に響き渡った。


◆ ◆ ◆


教皇の召集に応じ、彼の背後に四つの人影が現れた。


音もなく現れた彼らは、教会最強戦力である『四天王』。

四人は、大理石の床に恭しく膝をついた。


『氷の騎士』ライアス。

白銀の甲冑に身を包んだその姿は、秩序を体現するかのように、一糸乱れぬ完璧な姿勢で控えている。


『美貌の薔薇』ディアナ。

豪奢なドレスを纏った彼女は、優雅に跪くが、その視線は「いかに自分の美貌を際立たせるか」の計算に費やされている。


『至高の光輝』イシス。

祭祀服を着た絶世の美女だが、落ち着きなくきょろきょろと辺りを見回し、ステンドグラスに描かれた鳥の絵に興味津々だ。


この場に、緊張感は微塵も感じられない。

そして、一人だけ数瞬遅れて現れた男。


『光速の賢者』レグルス。


彼は尊大な態度を隠そうともせず、気だるげに片膝をついた。

他の三人のような敬意は、彼の佇まいからは微塵も感じられない。


◆ ◆ ◆


グランディスは、振り返ることなく、厳かに告げた。


「聞くがよい、我が誇る最強の刃たちよ」


彼は杖で『天の御座』を指し示す。

四天王の視線が、一点滅する赤い光に注がれた。


「ご覧の通りだ。女神様の御力リソースを不当に利用し、世界の理を乱す『異端の力』が現れた。これを放置すれば、世界の存続そのものに関わるだろう」


その言葉に、四天王はそれぞれらしい反応を見せた。


「教皇猊下の御心のままに」


ライアスは、ただ一言そう答えて静かに命令を待つ。


「まあ、なんて下品な力の輝きでしょう。まるで夜空に打ち上げられた、センスのない花火ですわね。このような醜いものは、わたくしの手で排除しなくてはなりませんわ」


ディアナは、扇子で口元を隠し、侮蔑の笑みを浮かべる。


「はいじょ? それ、おいしいんですか?」


イシスが、隣のライアスに小声で尋ねた。

ライアスは無言で首を横に振る。


その中で、ただ一人、レグルスだけが鼻で笑った。


「フン、またシステムのバグを利用した阿呆が出たか。実にくだらん。こんなもののために、我々四天王を全員呼び出すとは、猊下もご心配性なことだ」


その言葉は、教皇に対する公然とした皮肉だった。


◆ ◆ ◆


しかし、グランディスはレグルスの不遜な態度を咎めることなく、静かに彼に最初の任務を与えた。


「レグルスよ」

「……は」

「その光速の脚で、誰よりも早く現地へ向かえ。そして、その『眼』で、力の正体を確かめてくるのだ。決して、軽率な接触は許さん。これは勅命である」


教皇の言葉に、レグルスは隠すことなく、盛大にため息をついた。


「やれやれ、面倒なことですな。わかった、わかった。見てくればいいのだろう?」


彼はそう言うと、返事を待たずに立ち上がった。


その姿が揺らいだかと思うと、次の瞬間には、光の粒子を残して教皇の間から消え去っていた。


残された三人も、教皇の一瞥を受け、静かに立ち上がり、それぞれの持ち場へと戻っていく。


一人、部屋に残された教皇グランディスは、再び『天の御座』の赤い点滅を見つめ、その皺深い唇に、不気味な笑みを浮かべた。


「さて……神の庭を荒らす害虫は、一体、誰であろうな……?」


その独り言は、やがて来る嵐の予兆のように、静かな聖域に響き渡るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ