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第8話 このパーティ、まともな奴が一人もいない


麗奈の魔法によって魔物が氷の塵となって消え去った後、奇妙な静寂がクレーターを支配した。

風が吹き、キラキラと輝く氷の粒子が夜の闇に溶けていく。


健太は、目の前で起きた現実離れした光景が信じられず、完全にフリーズしていた。


その沈黙を破ったのは、元凶である姫川麗奈だった。

彼女は満足げに腕を組み、誇らしげに胸を張って言い放った。


「どう? 今のエフェクト、すごくない? 最新の物理演算エンジン積んでるわ、このゲーム」

「物理演算……」


健太の口から、か細い声が漏れた。


(物理演算だと!? あれだけの破壊を、全部『ゲームのエフェクト』で済ませるのか、この女は!? ……いや、ダメだ、考えるだけ無駄だ!)


健太が脳内でツッコミの嵐に苛まれていると、隣にいたフィーリアが、静かに大剣の柄に手をかけた。

彼女は麗奈を真っ直ぐに見据え、低い声で問い詰める。


「貴様…何者だ? 今の力、神聖魔法の類ではない。悪魔の術か?」


その言葉に、麗奈はパッと顔を輝かせた。


「お、話が進む感じのセリフ! イベント進行のフラグ立った? 私は魔王・姫川麗奈! 見ての通り、この世界のラスボス(予定)だよ!」


自信満々に、麗奈は腰に手を当ててポーズを決めた。

その傍らで、美少年神官が「おお……! なんと気高いお姿……!」と恍惚の表情で震えている。


健太は、もうどこからツッコめばいいのか分からなかった。


◆ ◆ ◆


(魔王……? このジャージの子が? ラスボス? ……ダメだ、意味が分からん。だが、一つだけ確かなことがある)


麗奈の言葉と、彼女が放った圧倒的な破壊力を前に、健太は一つの結論に達した。


(この規格外の女のそばにいれば、少なくとも死に戻り(デッドループ)の苦痛は避けられる……!)


食中毒とゴブリン炭による死の記憶が、健太の生存本能を激しく刺激する。

常識やプライドなど、生きることに比べれば、どうでもよかった。


健太は、社会人生活で培った処世術――「ヤバい上司には、全力で話を合わせる」――を発動させることを決意した。


「す、すごいな君は!」


健太は、おそるおそる麗奈の「ロールプレイング」に合わせる。


「俺はタナカ・ケンタ。見ての通り、ただの…えーっと…『初期装備の村人A』だ! 君のような『上級プレイヤー』の助けが必要なんだ!」


我ながら完璧な物言いだった。

すると、麗奈は満面の笑みを浮かべた。


「村人A! いいじゃん、そういうロールプレイ! よし、私のギルドに入れてあげよう! 護衛クエスト発生って感じだね!」

「ありがとうございます!」


健太が全力で頭を下げると、隣から神官がヒステリックに叫んだ。


「魔王様、このような得体の知れない者たちをパーティに入れるなど、お考え直しください!」


しかし、麗奈は「初心者を助けるのも上級者の務めだって! それに、この甲冑の人、強そうだし戦力になるっしょ!」と、全く意に介していない様子だった。


◆ ◆ ◆


こうして、健太の生存戦略によって、健太、フィーリア、麗奈、神官の4人による、目的も常識もバラバラなパーティが仮結成された。


「じゃあ、改めて自己紹介ね!」


麗奈の提案で、情報交換(という名の自己紹介)が始まるが、それは地獄の始まりだった。


「私はフィーリア。こいつの護衛だ」


フィーリアがぶっきらぼうに言うと、麗奈は興味深そうに頷いた。


「へー、村人Aに専用の護衛NPCがついてるんだ。珍しい仕様だね。てことは、あんたがメインタンク?」

「NPCじゃない! 人間だ!」


健太がすかさずツッコむが、麗奈は「はいはい、ロールプレイおつ」と、軽く手を振ってあしらった。


健太は、開始数分で意思の疎通を諦めた。


フィーリアは「タンク…?」と首を傾げているが、健太の安全が確保されるならどうでもいい、というスタンスらしい。

神官は、終始苦虫を噛み潰したような顔で健太たちを睨んでいた。


(ダメだ……このパーティ、俺以外にまともな奴が一人もいない……!)


健太の胃に、久しく忘れていた痛みが走った。


◆ ◆ ◆


「じゃ、とりあえず最初のチュートリアルタウンに行こっか!」


麗奈の提案に、健太は(街なら、まともな飯とベッドが……!)と、わずかな希望を見出す。

一行は、麗奈が「たぶんこっち」と言う方角へ、おぼつかない足取りで歩き始めた。


道中、麗奈はすっかり健太に打ち解けた様子で、無邪気に話しかけてきた。

それは、健太の最後の理性を破壊する、悪魔の質問だった。


「ところでさ、ケンタ。このゲーム、『ログアウト』ってどうやるの?」


「――え」


「設定画面とか探しても見当たらないんだけど。βテストだから未実装なのかな?」


「ログアウト」――その一言に、健太の足がピタリと止まった。

背筋を、氷のように冷たい汗が伝う。


(こいつ……本気で、ここがゲームの世界だと思ってる。自分が死なない、いつでもやめられる世界だと……!)


健太は、目の前で屈託なく笑う少女の裏にある、あまりにも無防備で、致命的な勘違いに気づき、どう答えるべきか言葉に詰まってしまった。

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