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第35話:最終決戦 開幕! 茶番だらけのシステム管理討論会


第四の宮を突破した俺たち――俺、カイン、アスタルト(ナレーター)――は、ついに最後の扉の前に立っていた。


俺は、起動したままのスマホ画面を凝視していた。鎧のガントレットに固定された、この世界で唯一の文明の利器(文鎮だったはず)の画面を。


【ASTARTE-SERVER_01】

[CPU: 100%]

[MEM: 95.5%]


(ヤバい……さっきのアッパーでメモリが一気に跳ね上がった!)


この数値が何を意味するか。

フリーズ(世界の終わり)へのカウントダウンだ。


――テテテテテテーン……!


そんな俺の焦燥を知ってか知らずか、どこからともなくBGMが鳴り響き、アスタルトが胸に刺さった矢を、また少しグッと押し込んだ。


『ついにラスボス、教皇グランディスの間へ! 世界のリセットまで、あと1時間45分!』


(その呑気なナレーションもリソースを圧迫してんだよ! やめろ!)


だが、口に出しても無駄だ。俺はカインに指示を飛ばす。


「カイン! 扉を押せ! こうなったらヤケクソだ!」


「は、はい!」


ギギギ……と重い音を立てて、巨大な石造りの扉が開かれる。


そこに広がっていたのは、厳かな玉座の間だった。天井は高く、ステンドグラスから差し込む光が床の大理石を照らしている。


その奥。玉座には、慈愛に満ちた笑みを浮かべた老人が鎮座していた。


教皇グランディス。

この世界の頂点に立ち、アスタルトを「管理」している張本人だ。


「……よくぞ参りました、女神アスタルト」


教皇の声は、静かだが有無を言わせぬ圧があった。


「しかし、そのお姿で、愚かな人間どもを引き連れてくるとは。嘆かわしい」


教皇の視線は、俺の鎧の陰に隠れようとするアスタルトに向けられている。彼女の姿は、リソース不足のせいでところどころポリゴンがバグり、テクスチャが明滅していた。


「うっ……」


アスタルトが怯える。どうやらこいつ、教皇がガチで苦手らしい。


「だ、だってグランディス! 最近なんか、世界の動作が重くって……!」


規約ルールは規約です」


教皇はアスタルトの言葉を冷たく遮る。


「あなたは、我ら教会の庇護の元にあればよい。それ以外のイレギュラー(バグ)は……」


「待ったぁー!」


教皇の言葉を遮り、凄まじい勢いで一人の影が扉から滑り込んできた。

床を滑りながらも華麗に着地したつもりのポーズを決める。


「はぁ……はぁ……! 間に合った! ここが最終レイドボスの部屋ですね!」


「麗奈! 無事だったか!」


「健太! いやー、さっきの宮(第三の宮)、なんか兄妹が痴話ゲンカ始めたんで、めんどくさくてスルーしてきました!」


(スルーできたのかよ!?)


俺たちが三時間も悪口を聞かされたり、壮絶な(?)兄妹喧嘩を見せられたりしている間に、こいつは……。


「さ、イベントラスボス、さっさと狩りましょう!」


ネトゲ脳(魔王)が合流し、図らずも役者が揃った。


教皇は、この乱入者(麗奈)を値踏みするように一瞥し、眉一つ動かさず、再びアスタルトに問う。


「……この異分子バグを連れてきた理由を」


「うぅ、だってグランディスがいつもリソース使いすぎるから……!」


「違いますな」


教皇は即座に否定する。


「私が『管理』しています。あなたは黙っていればよい」


「管理!? 管理だと!?」


俺はもう我慢できなかった。スマホの画面を教皇に突きつける。


「これを見ろ! CPU100%、メモリ95%! これが『管理』か!? どう見てもリソースの食い潰しだ! 典型的なレガシーシステムの末期症状じゃねえか!」


俺のSEとしての魂が叫ぶ。


「そーだそーだ!」


麗奈もネトゲユーザー(クレーマー)として即座に参戦する。


「特定のギルド(教会)がサーバーリソースを独占するのは、規約違反のチート行為でしょ! あんたらのせいでサーバー全体が重くなって、他の一般ユーザーのユーザー体験を著しく損なってるんですよ! 運営はこいつを即刻BANすべき! このラグ発生源!」


「愚かな」


教皇は、俺たち二人を鼻で笑った。


「黙れ、虫けら。遊びの言葉を神の御前に持ち込むな。統治とは権威。貴様らには理解できん」


「権威があればクソコードが許されるのかよ!」

「チートを正当化するな!」


俺と麗奈が教皇に詰め寄った、その瞬間だった。

ボロボロの男が、壁に手をつきながら玉座の間に転がり込んできた。


「あ」


物陰に隠れていたカインが、心底どうでもよさそうに呟く。


「死んでなかったんだ、兄さん」


(ゼノ!)


ドブネズミ(ゼノ)は、カインの塩対応を完全に無視し、よろめきながら俺たち全員を睨みつけた。


「教皇も貴様らも、結局は『女神の管理』という枠組みの中での小競り合いだ!」


「「「!?」」」


俺も麗奈も、そして教皇までもが、この乱入者の言葉に虚を突かれる。


「問題の本質はそこじゃねえ! 子離れできない女神(親)と、それに甘え続ける人間(子)の関係そのものだ! 女神は今すぐこの世界システムから手を引け! 人類は自らの足で立つべきだ!」


「「「!?」」」


「ドブネズミ風情が……神の御前で!」


ゼノの過激な発言に、教皇がキレた。

教皇の手から放たれた神聖な光が、ゼノを直撃し、壁ごと吹き飛ばす。


ドガアアァァン!!


(あっ!)


俺はスマホを見た。メモリ使用率が[98%]に跳ね上がっている。


(ヤベェ! こいつに高位魔法を使わせるな! フリーズする!)


吹き飛ばされた瓦礫の中から、ゼノがむくりと立ち上がった。血を吐きながらも、その目は死んでいない。


「……フッ。ドブネズミは何度でも巣穴から這い出してくる」


「……しぶといな。早く死ねばいいのに」


カインの冷たいツッコミが、緊迫した(?)玉座の間に響く。


(もうお前らのやり取りはいいから! メモリが!)


議論は完全に四つ巴となった。全員が、この世界のシステム(アスタルト)に詰め寄る。


「アスタルト! とにかくこいつ(教皇)の権限を停止しろ! このままじゃ(サーバーが)落ちるぞ!」

「GM! 早くチーターをBANして! レイド失敗になるでしょ!」

「女神! 人類はもうアンタの手を離れる! 手を引くんだ!」

「女神! 規約違反です! この虫けらを今すぐ消しなさい!」


「あ……あ……う……」


四方から詰め寄られ、アスタルトが混乱している。

バグったポリゴンが激しく明滅し、彼女の目がぐるぐる回り始めた。


(私……求められてる? 教皇に、勇者に、魔王に、ドブネズミに……もしかしてモテ期!?)


俺は見た。

スマホのモニターが、[MEM: 99.8%] [CPU: 100%]で激しく赤く点滅しているのを。


(あ、死んだ)


「…………(プルプル)」


次の瞬間、アスタルトが臨界点を超えた。


「うっっっさいわね!!!!」


「「「「!?」」」」


「このどさんピンがッ!!」


(どさんピン!? なんだその昭和の罵倒語!?)


女神は、高らかに叫んだ。


「教皇だ! 勇者だ! 魔王だ! ドブネズミだ! そんな肩書で女をモノにできるか!」

「女をモノにできるのは……裸の自分! 拳だけだッ!!」


((((なんでなん!?))))


全員の心のツッコミが、奇跡のように一つになった。


次の瞬間アスタルトの『明日の為のその1』が爆発した。正確にはアッパーカットだ。


俺、麗奈、ゼノ、そして教皇グランディスまでもが、一切の区別なく、平等に車田落ちで顔面から大理石の床に叩きつけられた。


(ぐはぁっ! なんで俺まで!?)


だが、アスタルトは即座に全員の怪我を一瞬で全回復させる。

そして、玉座の間の中心で、仁王立ちになって言い放つ。


「男なら、拳で語れ」


静寂が教皇の間をしばし支配する、数秒後。


魔王は立ち上がり、

「……フッ。嫌いじゃないぜ、そのノリ!」


ドブネズミは巣穴から這い出し、

「……フン。理屈は通じんが、望むところだ」


教皇は威厳を取り戻し、

「……よかろう。神の力、見せてやる」


俺はヤケクソに、

「……最悪のデスマプロジェクトだコレ! もうどうにでもなれ!」


こうして、理屈もへったくれもない、聖域最終決戦(物理)の火蓋が切られた。


◆ ◇ ◆


「『グランド・ディヴィジョン(神聖大結界)』!」


教皇が最強のバリアを即座に展開する。神々しい光が奴の全身を包んだ。


「女神の名を冠する絶対防御だ。貴様らの攻撃など届きはしない」


「開幕バフか!」


麗奈が即座に反応する。


「だったらこっちも開幕から全開だ! 『ライトニング・プラズマ・フィスト』!」


麗奈が放った超高速の連続魔法拳がバリアに叩き込まれ、凄まじい爆発と閃光が玉座の間を包む。


「どうだ!」


しかし、煙が晴れると、教皇はバリアの中で無傷。


「うっそ!? ノーダメ!? なにこのクソ硬いバリア! ラスボス補正やばすぎでしょ!」


「無駄だ」


教皇が麗奈を嘲笑し、意識を向けた、その隙。


「……そいつはどうかな!」


影からゼノが突進していた。


「何!?」


「『汚泥病魔拳おでいびょうまけん』!」


ゼノの汚れた拳が、教皇の「神聖な」バリアに触れる。


ジュウウウゥゥッ!


神聖な光が汚泥に触れ、腐食するようなおぞましい音が響いた。

バリアは砕けない。だが、ゼノが触れた一点が黒く「汚染」され、そこからミシミシと亀裂が走り始めた!


「こ、このドブネズミが! 神聖な結界を汚すとは!」


「ナイスアシスト、ネズミさん! バリアにヒビが!」


麗奈が即座に反応する。


「あそこを狙えば……! 全力で行くぞ! 『ギャラクティック・ノヴァ・エクスプロード』!!」


麗奈の最大魔法――銀河が爆発する(ように見える)エフェクトと共に、絶大な威力の魔力が、ゼノの開けた「汚染された亀裂」の一点に集中して炸裂。


バキンッ!!


凄まじい轟音と共に、ついに教皇の絶対防御が砕け散った。


「グハァッ!」


連携の余波で、ゼノが盛大に吹き飛ばされる。


「あ。死んだかな?」

物陰から、カインの声が響く。


瓦礫から這い出しながら、ゼノが答えた。

「……フッ。ドブネズミは何度でも巣穴から這い出してくる」


「……死ねばよかったのに」


「(いちいちお約束やってる場合か!)今だ! 教皇は丸裸だ! 行けえええ!」


俺は(物理的に動けない鎧の中で)絶叫した。

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