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第7話 幕間:頂点からの観測者(NightHound / Viking 視点)

防音設備の整った、薄暗いゲーミングルーム。

 壁に掛けられた複数の大型モニターには、リリースされたばかりの超大作VRゲーム『Game Nexus』のランキング情報や、世界中のプレイヤーの対戦ログが滝のように流れていた。


「いやー、やっぱ新しいゲームは血が騒ぐねぇ! 視聴者数も爆上がりだし、最高だわ!」


 最新型のゲーミングチェアにふんぞり返り、エナジードリンクを煽っているのは、プロゲーマー兼ストリーマーの『Viking』こと坂口洋平だ。

 金髪に染め上げた髪と、スポーツマンのようなガッチリとした体格。彼が操る重装タンクのアバターは、その豪快なプレイスタイルと相まって、アクション系ゲーム界隈ですでにカリスマ的な人気を誇っていた。


「で? どうよ影山。俺の相棒たる冷酷なる軍師殿のお眼鏡にかなうような、骨のある新人は見つかったか?」


 坂口が声をかけた先。

 部屋の隅で、モニターの光だけを浴びながら静かにキーボードを叩いている青年がいた。

『NightHound』――本名、影山隼人。

 大学に籍を置きながら、あらゆるジャンルのゲームでトップクラスの成績を残すオールラウンダーであり、業界では「人を寄せ付けない天才ストラテジスト」として畏怖される存在だ。


「……面白いデータが一つある」


 影山は振り返ることなく、淡々とした声で答えた。

 彼の視線の先にあるモニターには、あるタッグマッチのリプレイ映像が再生されている。


「ほう? どんなヤツだ?」

「名前は『Scarlet』。……そして、その相棒の『ZERO』だ」


 映像の中で、SSRの『Holy Knight』が、セオリーを完全に無視した無謀な突撃を仕掛けている。

 だが、その後の戦闘アクションは異常だった。

 敵の攻撃をフレーム単位で見切り、紙一重で回避しては強烈なカウンターを叩き込む。その獣のような直感と反応速度に、影山の目は細められた。


「……この『Scarlet』の動き、見覚えがある」

「マジ? お前の知り合いか?」

「いや。だが、この異常なまでの反射神経。……半年前のグローバルFPS大会の決勝戦を覚えているか?」


 影山の言葉に、坂口の表情が少しだけ真面目になった。


「ああ。お前がスナイパーで完全なキルゾーンを作ったのに、あり得ない反応で弾を避けられて、一気に距離を詰められたあの一戦だろ? あのNightHoundが撃ち負けたって、界隈じゃちょっとしたニュースになったぜ」

「……ああ。照準のど真ん中に捉え、確実に仕留めたタイミングだった。だが相手は、銃口のわずかなブレか、あるいは殺気すら感じ取ったかのような挙動で回避した」


 影山は、無意識のうちに自分の指先を見つめていた。

 あの時感じた、論理が直感に敗北したという、冷たい敗北感。


「この『Scarlet』の回避タイミングと、あの時のプレイヤーの挙動ログが酷似している。……同一人物、あるいは同等の感覚型センスプレイヤーである可能性が高い」

「へぇ……! あの化け物がGame Nexusにも参戦してきたってか。そりゃ燃える展開じゃねえか!」


 坂口は嬉しそうに拳を鳴らした。だが、影山の関心はそれだけではなかった。


「……問題は、その化け物の暴走をカバーしている、もう一人の存在だ」


 影山はリプレイ映像を操作し、『ZERO』と名乗るGunnerの視点に切り替えた。

 画面端で大立ち回りを演じるScarletを意に介さず、最小限の動きで敵の攻撃を回避し、最も効率的に敵の後衛を削り落としていく、精密機械のようなプレイング。


「このZEROというプレイヤー。駒の動かし方、射線の切り方、ヘイトの管理。どれを取っても新人ノービスのそれではない。……いや、それ以上に」

「それ以上に、なんだ?」

「……かつて界隈を席巻した伝説のプレイヤー、『MOZE』の戦術ログと、思考パターンが不気味なほど一致する」


 影山の言葉に、部屋の空気が微かに張り詰めた。

『MOZE』。世界的な大会には姿を現さないものの、オンライン上では誰もが認める最強の戦略家。


「まさか、あのMOZEが名前を変えて再スタートを切ったってのか? しかも、あの化け物みたいな反射神経のヤツと組んで?」

「……断言はできない。だが、もしこれが単なる偶然のタッグではなく、互いの欠陥を補い合う『最強の牙』と『最狂の頭脳』だとしたら」


 影山はモニターから目を離し、暗い部屋の天井を見上げた。

 その切れ長の瞳の奥に、めったに見せることのない冷たい闘志の炎が宿る。


「僕たちの玉座を脅かす、最大の障壁バッドガイズになるかもしれない」

「ハッ、上等だ! どこの誰だか知らねえが、世界大会の舞台まで上がってこいってんだ。俺の斧で、ド派手に歓迎してやるよ!」


 坂口が不敵な笑い声を上げる中、影山は再びキーボードに向き直った。

 まだ原石に過ぎない、二人のプレイヤー。彼らがこれからどう連携を深め、どう進化していくのか。

 頂点に君臨する観測者たちは、新たな嵐の予感に静かに牙を研ぎ始めていた。

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