魔王誕生
腕の中でアティマが光となって霧散していく。
掴もうにも指の間をすり抜け、消える。
そして、沸き上がる熱も収まり、魔力が増えていることが感じられる。
知覚が広がり、レオが気絶から立ち上がって向かってくることもアルテアが泣きながら此方を見ていることも解る。
「アティマ何が、アスラ?」
「アティマは今死んだ。この惨状を見るに使者が自爆特攻をかけたんだろう」
「アスラは大丈夫か?」
「ああ、俺には怪我一つない。この角の事を聞いていいか?」
額に生えた二本の角を撫でながら尋ねる。
「前に魔力の発生源が何処にあるのかを調べたことがあった。自然には北の方から来ている事しか判らなかったが、人間は魔力に覚醒した時に出来た器官から発生し、蓄積させ放出していた。アスラやヴィクトルのような外見の変化が無い者は体内に出来ていると思う」
「ヴィクトルは結構変化があったが?」
「人には無い器官、角や羽、尻尾等がそれに当たる。当然それを欠損や移植がどのような影響を与えるのか疑問を持ち、ナオが家畜で実践した。欠損は言うまでもなく魔力量が低下した。そして移植は出来なかったから食べさせると、一本までは問題なく魔力量が増えた。だが二本目や別種の物を食べさせると異形に変貌し始めた。倒すと余剰魔力が詰まった石が残り、ソラが新たな道具作りに使用しているが、危険であるために秘匿すると決めた。多分今知りたい事はこれだろう?」
「ありがとう。後でまた話してもいいか?今はアルテアの下に行ってやりたい」
「勿論だ、行ってこい」
部屋に戻り、アルテアを抱きしめる。
「アルテアは見えてたんだな。俺がアルテアの言葉に直ぐに従って迎えていれば何か変わったのかな?」
「お父様が向かっても、間に合わなかったと思う」
泣きながら、それでも目を合わせて伝えてくれる。
「今はそれがわかる気がするよ。俺はこんな事をしてきた奴を絶対に許せない。戦いに行こうと思う」
抱きしめる力が強まる。
「淋しい思いをさせるだろうが許してくれ、エレナさんやイリヤ、ミリアとかにもよろしくお願いしておくから|すまない」
「お父様は死なない?」
「アルテアも感じるだろアティマから魔力を継いだんだ、油断さえしなければ負ける気がしないよ。それに何処に行ったってお互いに魔力を感知出来るだろ?アルテアだけを置いていなくなることはしない。俺の命を懸けて誓う。だから、少しだけ仇討ちに出掛けるのを許してくれ」
「気を付けてね」
泣き疲れて寝てしまったアルテアをベッドに寝かし付け、応接の間に戻る。
ヴィクトルやソラ、城にいた多くの者が集まっている。
丁度いい、ここで宣誓しよう。
「アティマが死んだ。和平の使者だと偽って来たものに殺された。俺はこれを絶対に許せない。幸いにも俺はアティマから魔力を、力を受け継いだ。俺は此処に宣言させてもらう、敵を打ち滅ぼすことを、アティマ殺して奴らを滅することを」
「待てアスラ。それが何を意味するのか」
「別に人全てを殺し尽すわけじゃない。寧ろ民間人や一般兵士にも手は出さないつもりだ。その代わりに命令を出した上層部の人間は族誅する。こうすれば戦争も終わるだろ」
「一時的に止まるかもしれないが、拭いようのない恐怖はいつかきっと対立を招く。俺たちが生きている間はどうにか出来ても、その後はどうするつもりだ?余りにも危険すぎる」
「そうです。アティマさんが目指した平和とは異なる道ですよ」
レオの必死な顔もイリヤの潤んだ瞳も今は気にならない。
怒りが俺を支配し飛び出させようとするのを理性が押し留める。
「もう気にしたって仕方ないだろ。俺が許せないし、それで一旦でも平和になるのなら行動したい。だから動くのは俺一人で、少し知恵を貸して欲しい」
「確かに今の君なら可能かも知れないが何時化け物へと変態するか判らないよ」
「やるなら俺も連れて行けよ。最初に戦いへ巻き込んだのは俺なんだ、一緒に行かしてくれ」
アティマが死んだ悲しみが珍しく魔力の器官が人に移植される面白さに勝っていそうなナオも責任を感じ潰れてしまいそうなヴィクトルにも嬉しさを感じる。
「ナオもそんな顔出来たんだな。俺が仇討ちに行く間エレナさんにはアルテアの事をお願いしたいんだ。お腹に新しい命もあるんだろ。流がに連れて行けないよ」
「よし。わかった。俺の知識が必要だというのなら全力で支援する。アスラが死なずに遂行出来る作戦を考える。それには従ってくれよ」
放熱板を兼ねる角から熱気を出しているレオが自らの頬を叩いて、決意を告げる。
「僕も便利になる道具を作ります。単身突入するなら、防御も固めましょう」
「それならウチも手伝える」
瞬く間に役割が決まって行く。
やっぱりレオは凄いな、距離を置く雰囲気から一気に流れを変えてしまった。
深々頭を下げてお礼を伝える。
「ありがとう。みんな」
「頭を上げろ、そうと決まれば油断しているであろう今から一国を落とすぞ。どこがいい?」
「特攻を仕掛けてきたのはどこだと思う?」
「怪しいのは原の国、次点で麦の国だな」
「確か原の国は自国内で情報規制を|してるんだったよな?原の国に先制しそのまま麦の国に向かう。首都と軍事拠点、上層部の人間が屯していそうな場所を教えてくれ」
「了解。魔王様」
「ああ、そうだな。今からは俺が二代目魔王だ」
簡単な地図を受け取り、夕焼けに染まる空を音を置き去りにして飛ぶ。
魔力を流し込めば空気の壁は呆気なく裂け、速度が一段上がる。
壁を通り抜けて偉そうな格好の人間の胸に手を突き入れる。
「お、お前は?」
「魔王だよ。上層部の人数と居場所を吐け」
「だ、れが、い」
心臓を握り潰す。保管されている書類の内容だけを確認し、火を付ける。
知覚範囲を広げてこいつの家族を探し、時間停止に見間ちがう凍漬けにしてから崩し、床に赤い水溜りを作る。
疑わしい人間も含めて百回程それを繰り返せば、もう各庁の長官クラスからしか残っていない。
大国でも案外少ないものだななんて考えながら、夕闇に染まる空を麦の国向けて飛んで行く。
既に情報を掴み、飛行機やシェルターで逃げようと隠れようとしている人間もいたが、余りに遅く脆い。
麦の国でも人数は殆ど変わらない。
途中から魔力による行動の強制を思い出したが、自白剤の効果は無かった。
淡々と事務的に終わらせ帰国する。
その後も対策を立てて来た国もあったが面倒になっただけだった。
情報を隠し、一般人の扮装をして引き籠られた時は一か月強足止めをさせられたが、国家機能が麻痺していく様に耐えられず、いい年した引き籠りに重要情報が集まって行くのには、思わず笑ってしまった。
人類同盟に参加する百五十の国全てを攻撃し終えるまでに三年はかかってしまった。
それだけやって結局誰が命令を下したか判っていない。
世界が電気を失ったとき以上の大混乱に嵌まり、戦争が止まった事には胸を張れるだろうか。
幾ら考えても答えが出るわけがなく、世界中の人々を殺し回った咎が消えることも無い。
まあ、元々罪の意識も微かにしか無いわけだが、一番考えたの訓練島で殺した最初一人だけだし、出る前から有人のプロペラ機とか墜としてたしな、今更だよな。
プロペラ機に乗ってるのは若い人多かったし、魔力による変異がしやすいとか言ってたっけ。
魔力の放出が上がって仲間内でも少し恐がられているのが悲しいところ。
アルテアも反抗期が始まったのか避けられている。
それが一番悲しくてソラに協力して新しい道具を作ったり、海から飛び出してきた魔物の討伐に精を出す。
魔物からは魔石が取れ始め、異形化していなくても魔力が蓄積しているようだ。
魔石を使うことで誰でも船やメガフロートの移動が高速化出来たし、燃料の代わりにもなる。
魔石を人工的に作るにはまだ謎が多い。
「僕の実験に協力してくれるのはありがたいですが、根のつめすぎも良くありませんよ」
「そうだそうだ。君には我の実験にも付き合って貰わねばならないんだから」
「ナオの実験は人道的にちょっと」
「魔物に細工をするだけだぞ。人を殺しまくった君に言われたくはないな」
「ナオは置いて於いて、魔力を使い切ってもアルテアちゃんの態度は変わらないと思いますよ」
「じゃあどうすればいいんだよ?」
「僕だって工房に籠ってたら、振られたの知ってるでしょ。ナオも付き合ってるって聞いたけど?」
「我は、あれをどう扱って良いか判らない。被虐趣味が強くて」
前に突き進むようなナオが顔を背け、憔悴するのに興味を引かれ、作業は進まなかった。
「取り合えず、アスラはちょこちょこ出かけるのを止めたら?」
「あれは次の目標だから」




