第6話「無線」
迎えた開幕戦。
鈴鹿は少し肌寒い午後を迎えていた。
鈴鹿サーキットのホームストレートには23台が集結し始めていた。
9番手グリッドに31号車がやってくる。
メカニックの誘導に従い、グリッドに止める。
セレモニーに参加するため、マシンから一旦降りる。
開会セレモニーを終え、グリッドに戻って来る。
マシンの近くで休んでいるとヘッドセットをつけた代表が歩いてくる。
「マシンは大丈夫そうか?」
「はい。ここに来るまでに色々試しましたけど、どれも大丈夫そうです。」
「そうか。まず、スタートでは他車にぶつからないことを意識しろ。そのあとは追い抜かれないように走れ。」
「了解です。」
スタート5分前。
ドライバーたちはすでにマシンに乗り込んでいる。
エンジン始動。
メカニックに始動してもらう。
そして全員がピットへと戻っていく。
『フォーメーションラップスタート、フォーメーションラップスタート。前走車に続いて。』
代表からの指示を受けてグリッドを離れる。
タイヤを温めつつ、マシンのコンディションを確認していく。
再びホームストレートに戻って来る。
『グリッドまであと少し、もうちょっと。あい!OK!いい位置に止められたね!』
代表の無線による誘導でマシンをグリッドに止める。
『クラッチの数値チェック忘れずに。』
その言葉を聞き、ステアリングに表示される数値を確認しながら合わせるべき数値へと持って行く。
『今スタートの準備が整った。シグナルに集中。』
レッドシグナルが一つずつ灯っていく。
それに合わせるように気持ちも高ぶる。
すべて灯って…
ブラックアウト。
23台が一斉に走り出す。
ウォンッ。エンジンが唸り、走り出す。
周りと接触しないようにスペースを探りながら、コーナーを一つずつクリアしていく。
飛んで、レースも10周経過。
ミニマムという、ピットインが許可される最初の周回でピットインする戦略を採る選手が出始めるくらいだ。
『田邊をこの周入れる。松下はこっちからの指示でピットイン頼む。』
「了解」
順調に周回を重ね、ピットインのタイミングも近づいてきた。
鈴鹿の後半セクターに差し掛かる。
そこで無線が入る。
『まつ…た…つ…ピ…』
「監督!もう一回お願いします!聞こえないです!」
『…』ノイズだけが聞こえてくる。
もう一回言ってもらうように頼んだが、お互いに無線が聞こえにくいようだ。
無線が届くことはなかった。
「仕方ねぇ。ピット入って、準備できてなかったらスルー(通過)で行くしか…」
日立Astemoシケインを抜け、ピットレーンへと向かう。
そこで今まで不鮮明だった無線が一気に鮮明に聞こえる。
『松下!次!次の周!』